2人の幸福論
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"瓢箪から駒"
"晴天の霹靂"
"足元から鳥が立つ"
そのどれもが当てはまるようで、そのどれもが違っているようにも思えた。
交差点で信号が青になるのを待っていた私の隣に何の違和感もなく並んだその人物はもう私達の味方じゃない。決してやってはいけないことをした。呪術師としても人としても。
「後悔はしてない?」
「していないよ。君には理解出来ないのかもしれないけれど」
「理解は出来ないけど納得はするよ、自分の理想通りに生きたい気持ちだけは私にも分かるし」
「ならそれだけで十分だよ」
晴れ渡った顔と例えられるくらいそう言った夏油の顔は明るかった。胸につかえていた想いをやっと解放出来たとでもいうのだろうか。あんな残虐なことをしたのに。
私と夏油は呼び方からも分かる通り決して距離が近い訳じゃなかった。でも悟と恋人になってからは夏油が悟の親友ということもあって自然と接する機会が増えた。頭に過ぎったのは悟と恋人になったことを本当に喜んでくれていた夏油の笑顔や「何かあれば相談に乗るよ」と言ってくれた優しさ。一体何が彼を歪めたのだろうか。私には分からない。
悟は大丈夫だろうか。あの術師としての強さに悟の心は伴っていないからきっと酷く傷付いているだろう。考えるだけで胸が痛んだ。
「にしても、まさか私に会いに来るとは思わなかったな」
「君は悟の恋人だからね」
その言葉に言い知れぬ怒りのような感情が湧いてきてその感情のままに夏油を睨みつけた。
「まさかだけど悟を頼むとか言わないよね?裏切った今のその立場で」
「言わないよ。それにそういう君だって悟の傍から居なくなるだろう?」
「は?どういう意味、」
「ずっと言っていたじゃないか。卒業したら術師を止めるって。最初から悟と生きるつもりは無かったんじゃないのか?思わせぶりな態度で悟を傷つけているのは君だ」
「そんなことっ」
「無いって?でも現に君の行動は矛盾している。君だってもうすぐ選ばなければならない。悟と、自分の幸せのどちらを取るか」
覚悟を決めた人間の迷いのない瞳が私を捕える。私は動けなかった。
「私は悔いの無い道を選んだ。君もそんな道を選べることを願っているよ」
薄く笑いながら夏油が立ち去り、信号が何度目か分からない青信号を灯す。それでもまだ渡る気になれずに立ち尽くした。夏油の言葉が図星すぎて何も言えなかった。他人の幸せと自分の幸せを天秤に掛けたら今でも自分の幸せを選ぶ自信がある。その考えは今でも変わらない。でもそれを選ぶということはつまり・・
********
靄がかかったような頭で寮に戻り部屋に戻っているであろう悟に会いに行くと、悟はベッドで横になっていた。自分の腕を目元に当てているせいでその表情は読めない。悟、と私が名前を呼んでも返事は無い。疲れて寝ているのだろうか。ベッド脇にそっと歩み寄る。
「お前も、居なくなんだろ」
足がピタリと止まる。言われた意味がすぐには理解出来なかった。
「何言ってんの・・・?」
「お前には、他に選べる道があるんだ。好きにしろよ。俺は、止めたりしねーから」
その言葉にハッとした。そして悟が酷く哀れに思えた。一般家庭の出である私には術師以外の選択肢が用意されている。事実、私はそうするつもりで家族とも話がついている。でも悟は違う。御三家の跡継ぎ、六眼の使い手。術師として生きるのが当然と誰もが思っている。仮に悟が他の道を望んだとしてもきっと周囲が許さないだろう。
「・・・付き合わせて悪かったな」
僅かに震えた声で紡がれた悟の言葉に私は何も返せなかった。今の私が何を言おうと慰めにもならないと分かったから。悔しいけれど全部、全部夏油の言う通り。私は余りにも中途半端だ。
「・・・ごめん」
振り絞ってようやく出てきてくれた謝罪の言葉を残して、逃げるように部屋を出た。悔しくて涙が出た。自分のことばっかり考えてた自分を殴り付けてやりたい。
ごめん、悟。私もちゃんと、ちゃんと選ぶから。
"晴天の霹靂"
"足元から鳥が立つ"
そのどれもが当てはまるようで、そのどれもが違っているようにも思えた。
交差点で信号が青になるのを待っていた私の隣に何の違和感もなく並んだその人物はもう私達の味方じゃない。決してやってはいけないことをした。呪術師としても人としても。
「後悔はしてない?」
「していないよ。君には理解出来ないのかもしれないけれど」
「理解は出来ないけど納得はするよ、自分の理想通りに生きたい気持ちだけは私にも分かるし」
「ならそれだけで十分だよ」
晴れ渡った顔と例えられるくらいそう言った夏油の顔は明るかった。胸につかえていた想いをやっと解放出来たとでもいうのだろうか。あんな残虐なことをしたのに。
私と夏油は呼び方からも分かる通り決して距離が近い訳じゃなかった。でも悟と恋人になってからは夏油が悟の親友ということもあって自然と接する機会が増えた。頭に過ぎったのは悟と恋人になったことを本当に喜んでくれていた夏油の笑顔や「何かあれば相談に乗るよ」と言ってくれた優しさ。一体何が彼を歪めたのだろうか。私には分からない。
悟は大丈夫だろうか。あの術師としての強さに悟の心は伴っていないからきっと酷く傷付いているだろう。考えるだけで胸が痛んだ。
「にしても、まさか私に会いに来るとは思わなかったな」
「君は悟の恋人だからね」
その言葉に言い知れぬ怒りのような感情が湧いてきてその感情のままに夏油を睨みつけた。
「まさかだけど悟を頼むとか言わないよね?裏切った今のその立場で」
「言わないよ。それにそういう君だって悟の傍から居なくなるだろう?」
「は?どういう意味、」
「ずっと言っていたじゃないか。卒業したら術師を止めるって。最初から悟と生きるつもりは無かったんじゃないのか?思わせぶりな態度で悟を傷つけているのは君だ」
「そんなことっ」
「無いって?でも現に君の行動は矛盾している。君だってもうすぐ選ばなければならない。悟と、自分の幸せのどちらを取るか」
覚悟を決めた人間の迷いのない瞳が私を捕える。私は動けなかった。
「私は悔いの無い道を選んだ。君もそんな道を選べることを願っているよ」
薄く笑いながら夏油が立ち去り、信号が何度目か分からない青信号を灯す。それでもまだ渡る気になれずに立ち尽くした。夏油の言葉が図星すぎて何も言えなかった。他人の幸せと自分の幸せを天秤に掛けたら今でも自分の幸せを選ぶ自信がある。その考えは今でも変わらない。でもそれを選ぶということはつまり・・
********
靄がかかったような頭で寮に戻り部屋に戻っているであろう悟に会いに行くと、悟はベッドで横になっていた。自分の腕を目元に当てているせいでその表情は読めない。悟、と私が名前を呼んでも返事は無い。疲れて寝ているのだろうか。ベッド脇にそっと歩み寄る。
「お前も、居なくなんだろ」
足がピタリと止まる。言われた意味がすぐには理解出来なかった。
「何言ってんの・・・?」
「お前には、他に選べる道があるんだ。好きにしろよ。俺は、止めたりしねーから」
その言葉にハッとした。そして悟が酷く哀れに思えた。一般家庭の出である私には術師以外の選択肢が用意されている。事実、私はそうするつもりで家族とも話がついている。でも悟は違う。御三家の跡継ぎ、六眼の使い手。術師として生きるのが当然と誰もが思っている。仮に悟が他の道を望んだとしてもきっと周囲が許さないだろう。
「・・・付き合わせて悪かったな」
僅かに震えた声で紡がれた悟の言葉に私は何も返せなかった。今の私が何を言おうと慰めにもならないと分かったから。悔しいけれど全部、全部夏油の言う通り。私は余りにも中途半端だ。
「・・・ごめん」
振り絞ってようやく出てきてくれた謝罪の言葉を残して、逃げるように部屋を出た。悔しくて涙が出た。自分のことばっかり考えてた自分を殴り付けてやりたい。
ごめん、悟。私もちゃんと、ちゃんと選ぶから。