2人の幸福論
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
白いシンプルな便箋にボールペンを走らせていると、スっと手が伸びて来て手元の近くにそっとマグカップが置かれた。マグカップから漂うコーヒーの匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。その手の持ち主へと視線を上げると置かれた物と同じ柄のマグカップを自分も持ちながら横に立っていた。
「作ってくれたんだ、ありがとう」
「どういたしまして。それで?さっきからずっとなに書いてんの?・・・あ、もしかして僕との結婚生活プランとか?水臭いなぁ、それなら一緒に考えようよ!まず子どもは・・・」
「遺書」
便箋に視線を戻してウキウキと語り始めた悟の言葉を遮る。そう、私が書いているのは遺書だ。死ぬかもしれない人間が最期の時に備えて生者に遺す物。返事の無い悟の様子が気になって視線を向ければ先程まで浮かべていた笑顔は消え去り無表情になっていた。何処か怒っているようにも見える。
「意味分かんないんだけど。これから結婚するっていう人間が何で遺書なんか書いてんの」
「別に、これが初めてじゃなくて今まで何回も書いてるよ。こんな仕事してんだから用意しておくに越したことないでしょ」
呪術師はいつ死んでもおかしくない。悟みたいに強ければ必要無いのかもしれないけどそうじゃない私は別だ。かと言って特別なことを書き残す訳じゃない。その大体は事務的なことだ。家族と縁を切った私は遺骨の引き取り先が無いから散骨でもするなりして好きにして構わないだとか、持ってる口座の在り処とかそんなの。あとは親しかった人達に対する感謝の気持ちを少しだけ。こうして態々書き直してるのは悟と結婚するからそこら辺を整理し直す必要があると考えたから。妻だからといって私も五条家の墓に入れて貰えるかは分からないけど悟のことだから力づくでどうにかしそうだなぁ。それに悟自身も、きっと紛らわせる為に無理とかしちゃいそうだからケジメは付けさせてあげないと。
そんなことを考えながら再び書き進めていたら突然悟に便箋を奪い取られた。取り返そうと手を伸ばす私に届かない高さまで掲げた後、内容を一瞥してそのままビリビリに破かれた。
「ちょっと!なにすんの!?せっかく書いたのに!」
「うっさい。これは全面的にお前が悪い」
「はぁ?なにそれ?なんでそう悟はいつも・・・!」
「遺書になんか残さないでくんない?」
椅子から立ち上がって悟の横暴な振る舞いに言い返そうとした口が止まる。だって悟がまるで迷子の子どもみたいな顔をして私を見つめていたから。
「言いたいことがあるなら全部生きてる内に直接伝えてよ。死んだ後に聞いたって意味無い」
「そんなこと言ったって言えないで突然死んじゃうことだってあるでしょ?」
「だからっ!そんなモンに遺すなって言ってんの!そんな陳腐なただの紙切れに書かれた言葉に何の価値もないんだよ!お前の口から直接、顔を見て聞かせてくれないと、どんな言葉だって何の意味も、ないんだ」
「悟・・・」
「憎まれごとだってなんだっていいから思ったことは直接言って欲しい。頼むから、何も言わないまま居なくならないでよ」
ぎゅう、と少し苦しいくらいの力で縋るように抱き締めてきた悟の背中をあやすようにさする。確かに私がもし逆の立場なら悟と同じことを思うかもしれない。遺書に書かれていたってそれは最早その時点で一方通行でしかなくて、もうその言葉に返事することもこうして抱きしめることも何も出来ない。それはきっと・・・酷く苦しくて辛い。救われることも確かにあるのだろうけど、少なくとも悟にとっては呪いにしかなり得ないのかもしれない。
「・・・しょーがないなぁ。分かったよ、もう書くの止めるから」
「絶対だからね」
「分かってるよ。その代わり本当に思ったこと言ってもすぐ怒らないでよ?」
「僕そんなに短気じゃないんだけど?」
「よく言うよ。それは悟に自覚ないだけだから」
「えーそういうお前だって人のこと言えないくらい短気じゃん」
「悟が一々怒らせるようなこと言うからでしょ」
体を離しはしたものの変わらず距離は近いままの状態で互いに憎まれ口を叩く。そうだね、言いたいことを我慢するような関係じゃない。これから私達は夫婦になるんだから。
「悟、好きだよ」
手を伸ばして悟の頬に触れる。キスしてやろうかと思ったけど、そうするにはどうしても背が足りなくて悔しい。実は遺書に書こうとしていたのは悟への気持ち。素直になれないこの口からはあまり出てきてくれない言葉を並べようと思っていた。
「なに、急に」
「ん?言いたくなったから言っただけだけど?だって我慢しなくていいって悟が言ったんでしょ」
紙に書き残すなんて馬鹿なことをしようとしたなぁと思う。だって悟の照れて赤くなった顔を見れないなんてあまりにも勿体ない。これは他でもない私だけの特権なんだから。
ねぇ悟。私ね、この道を・・・悟を選んで良かったよ。
「作ってくれたんだ、ありがとう」
「どういたしまして。それで?さっきからずっとなに書いてんの?・・・あ、もしかして僕との結婚生活プランとか?水臭いなぁ、それなら一緒に考えようよ!まず子どもは・・・」
「遺書」
便箋に視線を戻してウキウキと語り始めた悟の言葉を遮る。そう、私が書いているのは遺書だ。死ぬかもしれない人間が最期の時に備えて生者に遺す物。返事の無い悟の様子が気になって視線を向ければ先程まで浮かべていた笑顔は消え去り無表情になっていた。何処か怒っているようにも見える。
「意味分かんないんだけど。これから結婚するっていう人間が何で遺書なんか書いてんの」
「別に、これが初めてじゃなくて今まで何回も書いてるよ。こんな仕事してんだから用意しておくに越したことないでしょ」
呪術師はいつ死んでもおかしくない。悟みたいに強ければ必要無いのかもしれないけどそうじゃない私は別だ。かと言って特別なことを書き残す訳じゃない。その大体は事務的なことだ。家族と縁を切った私は遺骨の引き取り先が無いから散骨でもするなりして好きにして構わないだとか、持ってる口座の在り処とかそんなの。あとは親しかった人達に対する感謝の気持ちを少しだけ。こうして態々書き直してるのは悟と結婚するからそこら辺を整理し直す必要があると考えたから。妻だからといって私も五条家の墓に入れて貰えるかは分からないけど悟のことだから力づくでどうにかしそうだなぁ。それに悟自身も、きっと紛らわせる為に無理とかしちゃいそうだからケジメは付けさせてあげないと。
そんなことを考えながら再び書き進めていたら突然悟に便箋を奪い取られた。取り返そうと手を伸ばす私に届かない高さまで掲げた後、内容を一瞥してそのままビリビリに破かれた。
「ちょっと!なにすんの!?せっかく書いたのに!」
「うっさい。これは全面的にお前が悪い」
「はぁ?なにそれ?なんでそう悟はいつも・・・!」
「遺書になんか残さないでくんない?」
椅子から立ち上がって悟の横暴な振る舞いに言い返そうとした口が止まる。だって悟がまるで迷子の子どもみたいな顔をして私を見つめていたから。
「言いたいことがあるなら全部生きてる内に直接伝えてよ。死んだ後に聞いたって意味無い」
「そんなこと言ったって言えないで突然死んじゃうことだってあるでしょ?」
「だからっ!そんなモンに遺すなって言ってんの!そんな陳腐なただの紙切れに書かれた言葉に何の価値もないんだよ!お前の口から直接、顔を見て聞かせてくれないと、どんな言葉だって何の意味も、ないんだ」
「悟・・・」
「憎まれごとだってなんだっていいから思ったことは直接言って欲しい。頼むから、何も言わないまま居なくならないでよ」
ぎゅう、と少し苦しいくらいの力で縋るように抱き締めてきた悟の背中をあやすようにさする。確かに私がもし逆の立場なら悟と同じことを思うかもしれない。遺書に書かれていたってそれは最早その時点で一方通行でしかなくて、もうその言葉に返事することもこうして抱きしめることも何も出来ない。それはきっと・・・酷く苦しくて辛い。救われることも確かにあるのだろうけど、少なくとも悟にとっては呪いにしかなり得ないのかもしれない。
「・・・しょーがないなぁ。分かったよ、もう書くの止めるから」
「絶対だからね」
「分かってるよ。その代わり本当に思ったこと言ってもすぐ怒らないでよ?」
「僕そんなに短気じゃないんだけど?」
「よく言うよ。それは悟に自覚ないだけだから」
「えーそういうお前だって人のこと言えないくらい短気じゃん」
「悟が一々怒らせるようなこと言うからでしょ」
体を離しはしたものの変わらず距離は近いままの状態で互いに憎まれ口を叩く。そうだね、言いたいことを我慢するような関係じゃない。これから私達は夫婦になるんだから。
「悟、好きだよ」
手を伸ばして悟の頬に触れる。キスしてやろうかと思ったけど、そうするにはどうしても背が足りなくて悔しい。実は遺書に書こうとしていたのは悟への気持ち。素直になれないこの口からはあまり出てきてくれない言葉を並べようと思っていた。
「なに、急に」
「ん?言いたくなったから言っただけだけど?だって我慢しなくていいって悟が言ったんでしょ」
紙に書き残すなんて馬鹿なことをしようとしたなぁと思う。だって悟の照れて赤くなった顔を見れないなんてあまりにも勿体ない。これは他でもない私だけの特権なんだから。
ねぇ悟。私ね、この道を・・・悟を選んで良かったよ。
10/10ページ