短編 文スト
太宰はまさに天にも昇る心地だった。
長らく想い続けていた女性とついに想いを通わすことが出来たのだから。
「ねぇ、私のこと、好きかい?」
「勿論好きですよ。もう、太宰さんさっきからそればっかり!」
「ふふ、すまないね。あまりに幸せ過ぎるものだから都合の良い夢でも見てるのかと思ってしまうんだ」
「じゃあ確かめる為に頬でも抓ってあげましょうか?」
「君が私に触れてくれるのは魅力的だけれどそれは何だか痛そうだからねぇ・・・」
「ふふ、冗談ですよ」
まるで鈴が鳴るように笑う女に太宰もまたはにかむように笑う。
「私とずっと一緒に居てくれるかい?」
「はい、一緒にいます。私はもう、太宰さんの恋人ですから」
「・・・ありがとう、嬉しいよ」
太宰が微笑みながら差し伸べた手を女もまた笑顔で掴む。幸福の時だ。
「それじゃあ行こうか」
「行く?何処へです?」
「それはもう、とても素敵な所だよ。君もきっと気に入ってくれる筈だ」
女の手を引きながら太宰は歩き出す。その心は弾んでいた。
*******
太宰が連れて来たのは川だった。先程まで明るかった空も日が落ち、穏やかに流れる川の水は美しい夕焼け色に染まっていた。
「わぁ、綺麗!太宰さんが言ってたのはこれだったんですね!」
「ふふ、この光景も綺麗だけれど私が君を連れて行きたいのは此処ではないよ」
「此処じゃない?じゃあ一体・・・?」
「こっちだよ。足元に気をつけて」
太宰は女の手を引きながら冷たい川の中へと誘う。足に触れた冷たい水の感覚に女は身震いした。
「だ、太宰さん!川の中に入るのはちょっと・・・!」
「怖いかい?でも大丈夫、私に着いてくれば何も恐ろしいことはないからね。絶対に手を離してはいけないよ」
声色こそ優しいが女の手を握る手は痛いくらいに強い。そのまま手を引かれズブズブと川を進み、水位が女の膝に達するくらいになっても太宰の足は止まらない。徐々に日も沈み出し、先程まで夕焼けに染まっていた川も暗く淀んだ色に変わっていく。
何かが可笑しい、太宰が自分を連れていきたい場所はひょっとして・・・。
脳裏に浮かんだ最悪な想定にサーっと血の気の引いた女は、掴まれた腕を自分の方へ引き足を止めようとした。
「・・・気付いた?」
「太宰さんっ!馬鹿なことは止めてください!」
「何故?君も私に言っただろう?ずっと一緒だと。心配はいらない、苦しいのは最初だけだからね」
「違うっ!私は貴方と一緒に生きていきたいって意味で、」
「そんな不確かな未来よりも今の君と一緒に死にたいのだよ、私は」
「い、いや・・・!太宰さん、離してっ!」
"この人は自分と心中するつもりだ"
そう確信した女は恐怖し、涙を流しながら暴れるがそれでも太宰は穏やかに微笑んだまま。それどころかすっかり日が沈み暗くなった空に浮かんだ月を恍惚とした表情で見上げた。
「ほら見給えよ。月が私達を祝福してくれているようだ」
「お願いです・・・!太宰さんやめてっ!」
「あぁ・・・月が綺麗だね」
太宰にはもう、女の悲鳴にも似た声は耳に入っていない。"愛している"の意味を持つその言葉も今の女には恐怖心しか感じえない。太宰の笑みが一層深くなる。
「さぁ、"死んでもいいわ"と聞かせておくれ」
暗い海で空に浮かぶ月だけが明るく2人を照らしていた。
長らく想い続けていた女性とついに想いを通わすことが出来たのだから。
「ねぇ、私のこと、好きかい?」
「勿論好きですよ。もう、太宰さんさっきからそればっかり!」
「ふふ、すまないね。あまりに幸せ過ぎるものだから都合の良い夢でも見てるのかと思ってしまうんだ」
「じゃあ確かめる為に頬でも抓ってあげましょうか?」
「君が私に触れてくれるのは魅力的だけれどそれは何だか痛そうだからねぇ・・・」
「ふふ、冗談ですよ」
まるで鈴が鳴るように笑う女に太宰もまたはにかむように笑う。
「私とずっと一緒に居てくれるかい?」
「はい、一緒にいます。私はもう、太宰さんの恋人ですから」
「・・・ありがとう、嬉しいよ」
太宰が微笑みながら差し伸べた手を女もまた笑顔で掴む。幸福の時だ。
「それじゃあ行こうか」
「行く?何処へです?」
「それはもう、とても素敵な所だよ。君もきっと気に入ってくれる筈だ」
女の手を引きながら太宰は歩き出す。その心は弾んでいた。
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太宰が連れて来たのは川だった。先程まで明るかった空も日が落ち、穏やかに流れる川の水は美しい夕焼け色に染まっていた。
「わぁ、綺麗!太宰さんが言ってたのはこれだったんですね!」
「ふふ、この光景も綺麗だけれど私が君を連れて行きたいのは此処ではないよ」
「此処じゃない?じゃあ一体・・・?」
「こっちだよ。足元に気をつけて」
太宰は女の手を引きながら冷たい川の中へと誘う。足に触れた冷たい水の感覚に女は身震いした。
「だ、太宰さん!川の中に入るのはちょっと・・・!」
「怖いかい?でも大丈夫、私に着いてくれば何も恐ろしいことはないからね。絶対に手を離してはいけないよ」
声色こそ優しいが女の手を握る手は痛いくらいに強い。そのまま手を引かれズブズブと川を進み、水位が女の膝に達するくらいになっても太宰の足は止まらない。徐々に日も沈み出し、先程まで夕焼けに染まっていた川も暗く淀んだ色に変わっていく。
何かが可笑しい、太宰が自分を連れていきたい場所はひょっとして・・・。
脳裏に浮かんだ最悪な想定にサーっと血の気の引いた女は、掴まれた腕を自分の方へ引き足を止めようとした。
「・・・気付いた?」
「太宰さんっ!馬鹿なことは止めてください!」
「何故?君も私に言っただろう?ずっと一緒だと。心配はいらない、苦しいのは最初だけだからね」
「違うっ!私は貴方と一緒に生きていきたいって意味で、」
「そんな不確かな未来よりも今の君と一緒に死にたいのだよ、私は」
「い、いや・・・!太宰さん、離してっ!」
"この人は自分と心中するつもりだ"
そう確信した女は恐怖し、涙を流しながら暴れるがそれでも太宰は穏やかに微笑んだまま。それどころかすっかり日が沈み暗くなった空に浮かんだ月を恍惚とした表情で見上げた。
「ほら見給えよ。月が私達を祝福してくれているようだ」
「お願いです・・・!太宰さんやめてっ!」
「あぁ・・・月が綺麗だね」
太宰にはもう、女の悲鳴にも似た声は耳に入っていない。"愛している"の意味を持つその言葉も今の女には恐怖心しか感じえない。太宰の笑みが一層深くなる。
「さぁ、"死んでもいいわ"と聞かせておくれ」
暗い海で空に浮かぶ月だけが明るく2人を照らしていた。