短編 文スト
今日は久しぶりの休日。家に篭っていても退屈だからと1人で買い物に出てみた。ちょうど愛用している口紅が少なくなってきたし買い足しに行こうとも思ったのだ。
「どれにしようかなぁ」
ショーウィンドウに並んだ色とりどりの口紅を眺めながら呟く。安直にいつもと同じ色にするか、思い切って挑戦したことのない色にしてみるか・・・。あぁ、でも初めての色に挑戦して似合わなかったらどうしよう。自分から見るのと他人から見るのとでは違って見えるとよく聞くし・・・。優柔不断な性格が災いして決めかねてしまい、こういう時いつもなかなか決めることが出来ない。
こうなれば店員さんに聞こうかと思い見渡したが、店内に数人いる店員さん達はみんな他のお客さんの対応をしていてそれどころではなさそうだった。なら自分で決めるしかない、とまた視線を口紅に戻し、自分の顔と見比べながら手に取っては戻しを繰り返す。うーん・・・分からない。
「この色なんか似合うんじゃねぇか?」
突然後ろから伸びてきた手が1つの色を指差した。驚いて振り向けば、そこには上司である中原幹部の姿が。
「な、中原幹部!?どうしてここに・・・!?」
「たまたま買い物に来たら見覚えのある背中が見えてな。出てくるまで待とうと思って様子を見てたんだが、なかなか出てきやがらねぇから見に来たんだよ」
「うぅ・・・すみません」
悩んでる姿を見られていたなんて・・・恥ずかしい。情けないところを見せてしまった。
「で、だ。俺は手前にはこの色が似合うと思うぜ」
「赤、ですか?綺麗ですけど私にはハードルが高いような・・・」
幹部が選んだのは明るい赤色。普段の私はピンク系やオレンジ系を付けていて、赤色の口紅は塗ったことが無かった。なんだか、大人の女性が付ける色というイメージがあり、ただでさえ子供っぽい私には付ける勇気が無かったのだ。
「お、試し塗り出来るじゃねぇか。ほら、塗ってやるからこっち来いよ」
「え!?いや、それは・・・!自分で塗りますよ!」
「いいから。じっとしてろよ?」
「は、はい・・・」
口紅を片手に私に近付く幹部の顔を直視出来ず目を閉じれば、そっと唇に口紅が塗られる感触がする。近くにいるせいか幹部の息遣いまで感じてしまってドキドキと心臓が煩い。
「目、開けていいぜ」
その言葉に目を開ければ目の前には鏡に映った自分の姿。赤い口紅を塗られた自分は今までとは違い、なんだか大人びて見えた。
「ほらな、俺の見立て通りだ。よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
お洒落な幹部のお墨付きならば自惚れではないと思える。うん、これにしよう。
「それじゃあ、せっかくですしこれにします」
「よし。商品は・・・これか」
そう言って商品棚から口紅を取り出し、そのままレジへと向かう幹部を慌てて追いかける。
「え、中原幹部!?」
「せっかくだ。プレゼントしてやるよ」
「えぇ!?だ、駄目です!そんな、貰えません!」
「いいから。いつも頑張ってくれている部下に、俺からのご褒美だ」
片目を瞑りながらそう言われてしまっては拒否することが逆に失礼になる様な気がしてしまい、これ以上断ることが出来なかった。
「あ、ありがとう、ございます」
「おう。少し待ってろ」
幹部が手早く会計を済ませ、2人で店を出た後、手渡された袋を受け取る。思いがけず、あの幹部からプレゼントを頂いてしまった・・・!どうしよう、凄く嬉しくてにやけてしまう。
「ところで知ってるか?男が女に口紅を贈る意味」
「意味、ですか・・・?いえ、知らないです」
贈り物に意味があるなんて知らなかった。首を傾げた私を見て幹部はニヤリと笑って突然顔を近づけてきた。
「キスしたい、って意味なんだとよ」
「っ!?」
き、キス!?何を言って・・・!?ま、まさか幹部が私に・・・!?ワタワタと焦る私を尻目に幹部は更に顔を近付けてくる。息が掛かる距離に来た幹部の整った顔に耐えられず目をギュッと閉じれば、吹き出した様な笑い声が聞こえた。
「冗談だよ、する訳ねぇだろ」
「〜〜〜!!幹部!!揶揄わないでください!!」
「なんだよ、それともして欲しかったか?」
「幹部!!!」
顔を真っ赤にして怒る私に対して幹部はお腹を抱えて笑っている。
「今回そいつを贈った意味合いはさっきも言ったが普段頑張ってるご褒美だ。それ以上の意味はねぇよ。安心しろ」
「うぅ、わかってます」
意地が悪い人!私が幹部の特別になれる訳がない事なんて私が1番よく分かってるもの。
「だがそんな俺好みの唇をした手前が傍に居たら、さすがの俺もその気になっちまうかもしれねぇなぁ」
「もう、また揶揄ってますね?」
「さてな。それ、明日からちゃんと付けてこいよ。本当によく似合ってるからな」
唇を指差しながらの不意打ちの優しい笑顔にドキっとしながらもはい、と返事を返す。本当は、使うのが勿体ないと思ってしまっているけれど・・・。
翌日、約束通り付けて出勤した私に、幹部は「綺麗だ」と同じように優しく笑ってくれた。
「どれにしようかなぁ」
ショーウィンドウに並んだ色とりどりの口紅を眺めながら呟く。安直にいつもと同じ色にするか、思い切って挑戦したことのない色にしてみるか・・・。あぁ、でも初めての色に挑戦して似合わなかったらどうしよう。自分から見るのと他人から見るのとでは違って見えるとよく聞くし・・・。優柔不断な性格が災いして決めかねてしまい、こういう時いつもなかなか決めることが出来ない。
こうなれば店員さんに聞こうかと思い見渡したが、店内に数人いる店員さん達はみんな他のお客さんの対応をしていてそれどころではなさそうだった。なら自分で決めるしかない、とまた視線を口紅に戻し、自分の顔と見比べながら手に取っては戻しを繰り返す。うーん・・・分からない。
「この色なんか似合うんじゃねぇか?」
突然後ろから伸びてきた手が1つの色を指差した。驚いて振り向けば、そこには上司である中原幹部の姿が。
「な、中原幹部!?どうしてここに・・・!?」
「たまたま買い物に来たら見覚えのある背中が見えてな。出てくるまで待とうと思って様子を見てたんだが、なかなか出てきやがらねぇから見に来たんだよ」
「うぅ・・・すみません」
悩んでる姿を見られていたなんて・・・恥ずかしい。情けないところを見せてしまった。
「で、だ。俺は手前にはこの色が似合うと思うぜ」
「赤、ですか?綺麗ですけど私にはハードルが高いような・・・」
幹部が選んだのは明るい赤色。普段の私はピンク系やオレンジ系を付けていて、赤色の口紅は塗ったことが無かった。なんだか、大人の女性が付ける色というイメージがあり、ただでさえ子供っぽい私には付ける勇気が無かったのだ。
「お、試し塗り出来るじゃねぇか。ほら、塗ってやるからこっち来いよ」
「え!?いや、それは・・・!自分で塗りますよ!」
「いいから。じっとしてろよ?」
「は、はい・・・」
口紅を片手に私に近付く幹部の顔を直視出来ず目を閉じれば、そっと唇に口紅が塗られる感触がする。近くにいるせいか幹部の息遣いまで感じてしまってドキドキと心臓が煩い。
「目、開けていいぜ」
その言葉に目を開ければ目の前には鏡に映った自分の姿。赤い口紅を塗られた自分は今までとは違い、なんだか大人びて見えた。
「ほらな、俺の見立て通りだ。よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
お洒落な幹部のお墨付きならば自惚れではないと思える。うん、これにしよう。
「それじゃあ、せっかくですしこれにします」
「よし。商品は・・・これか」
そう言って商品棚から口紅を取り出し、そのままレジへと向かう幹部を慌てて追いかける。
「え、中原幹部!?」
「せっかくだ。プレゼントしてやるよ」
「えぇ!?だ、駄目です!そんな、貰えません!」
「いいから。いつも頑張ってくれている部下に、俺からのご褒美だ」
片目を瞑りながらそう言われてしまっては拒否することが逆に失礼になる様な気がしてしまい、これ以上断ることが出来なかった。
「あ、ありがとう、ございます」
「おう。少し待ってろ」
幹部が手早く会計を済ませ、2人で店を出た後、手渡された袋を受け取る。思いがけず、あの幹部からプレゼントを頂いてしまった・・・!どうしよう、凄く嬉しくてにやけてしまう。
「ところで知ってるか?男が女に口紅を贈る意味」
「意味、ですか・・・?いえ、知らないです」
贈り物に意味があるなんて知らなかった。首を傾げた私を見て幹部はニヤリと笑って突然顔を近づけてきた。
「キスしたい、って意味なんだとよ」
「っ!?」
き、キス!?何を言って・・・!?ま、まさか幹部が私に・・・!?ワタワタと焦る私を尻目に幹部は更に顔を近付けてくる。息が掛かる距離に来た幹部の整った顔に耐えられず目をギュッと閉じれば、吹き出した様な笑い声が聞こえた。
「冗談だよ、する訳ねぇだろ」
「〜〜〜!!幹部!!揶揄わないでください!!」
「なんだよ、それともして欲しかったか?」
「幹部!!!」
顔を真っ赤にして怒る私に対して幹部はお腹を抱えて笑っている。
「今回そいつを贈った意味合いはさっきも言ったが普段頑張ってるご褒美だ。それ以上の意味はねぇよ。安心しろ」
「うぅ、わかってます」
意地が悪い人!私が幹部の特別になれる訳がない事なんて私が1番よく分かってるもの。
「だがそんな俺好みの唇をした手前が傍に居たら、さすがの俺もその気になっちまうかもしれねぇなぁ」
「もう、また揶揄ってますね?」
「さてな。それ、明日からちゃんと付けてこいよ。本当によく似合ってるからな」
唇を指差しながらの不意打ちの優しい笑顔にドキっとしながらもはい、と返事を返す。本当は、使うのが勿体ないと思ってしまっているけれど・・・。
翌日、約束通り付けて出勤した私に、幹部は「綺麗だ」と同じように優しく笑ってくれた。