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短編 文スト

幸せを願う2人がいた。
1人は歳下ながらもポートマフィアの幹部を務める友人の太宰。そしてもう1人は俺にとっては可愛い妹のような少女。俺を慕い、ことある事に俺に会いに来る彼女と、同じく親しい友人である太宰は必然的に接する機会が多かった。
相手が幹部であろうと物怖じしない彼女の態度に太宰も徐々に幹部の顔を捨て、気兼ねなく話せるようになっていた。

そんな太宰の変化に気付いたのはいつの頃だっただろうか。太宰の視線の先を追えば、いつも彼女がいるようになったのだ。それと同時に話す内容も、彼女に関することが多くなっていった。その時の太宰の顔は珍しく年相応の無邪気なものだった。

常日頃、周りから鈍感だと評される俺でも察しが付いた、太宰は、彼女に恋をしているのだ。
心から嬉しく思った。大切な友人と可愛い妹のような彼女。2人が結ばれてくれればと、願った。だが少しして俺は気付いてしまった。彼女の想い人は、他でもない俺なのだと。太宰が踏み出せないのは、俺が原因だということに。

だが俺にとって彼女は妹のような存在であって、恋愛感情なんて芽生える筈もなかった。思い返せば、何度も「好き」だと言われたことはあったが全て兄のような存在としての感情だろうと流してしまっていた。そして今も、

「好きなんです、織田作さん」
「ありがとうな、俺も好きだよ。お前は可愛い妹分だからな」

あぁ、また悲しませてしまった。前の俺にはその顔の意味が理解出来なかったが今は違う。理解していて、知らないフリをした。それがどれだけ残酷なことか・・・それでも偽物の気持ちで応えることは絶対に出来ない。彼女の幸せを望むからこそ、絶対に。だから俺は何も知らない、鈍感でお節介な男のフリをしよう。

「そういえば、太宰はお前に告白してきたか?」
「え・・・?太宰さんが・・・?」
「なんだ、違うのか。さっき顔を赤くしていた様に見えたからようやくしたのかと・・・」
「さ、されてない、です!太宰さんが私なんかにする訳ないじゃないですか!」
「いや、太宰は最近お前のことをよく見ていたぞ」

え、え、と戸惑う彼女に心の中で「すまない」と謝るが、決して嘘はついていない。これで少しは太宰のことを意識してくれるだろうか。太宰は彼女を口説くようなことを言いはするが、どれも軽口で本気で捉えて貰えていないからな。

どうか気付いてくれ、お前を誰より愛しく想っている男が傍にいることに。俺では、お前を幸せには出来ないのだから。お前達2人が幸せになれるのなら俺は喜んで悪役を引き受けよう。

「・・・・・・幸せになれ」
「織田作さん?」
「いや、なんでもない。だがそうだな、お前を太宰にやるのは少し寂しい気もするな」
「もう・・・冗談ばっかり」
「本気だ。お前は本当にいい子だからな」

そっと頭を撫でてやれば本当に嬉しそうに笑う彼女の額にそっとキスを落とす。彼女の背中越しに見えた意気地無しの友へ、少しの牽制と激励を込めて。

次の瞬間、頬を赤く染めた彼女と悲鳴のような太宰の叫び声が周囲に響き渡った。
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