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短編 文スト


今日は私の誕生日だ。
去年の同じ日に晴れて恋人同士になった乱歩さんと今日は一緒に街に買い物に来ている。というのも乱歩さんが私のプレゼントを買ってくれる為だ。去年、私の欲しい物が分からず悩んでくれていた乱歩さんは、今年こそ私が欲しい物を贈ろうとしてくれているらしく朝から私よりも張り切って見える。私からしたら誕生日デートというこの状況が既にプレゼントになり得るのだけどそれを言うとまた拗ねてしまいそうだから黙っておこう。

「それで、何が欲しいの?」
「んーそうですね・・・改めて聞かれるとすぐには浮かばないといいますか・・・」
「それじゃあとりあえず店を見て回ってみようか。欲しい物があればすぐ言ってよ」
「分かりました」

それから数時間、アクセサリー店や雑貨店など様々なお店を回ったけれど、私が好きそうな物を見つけては「これは?」と提案してくれる乱歩さんに対して煮え切らない態度を取ってしまった。勿論素敵だと思う物はあった。ただそれを態々誕生日プレゼントとして乱歩さんに買ってもらいたいとは思えなかった。

そんなことを何度も繰り返した結果、すっかり歩き疲れてしまい近くにあったカフェで休むことになった。案内を受け、カフェの席に座り互いに飲み物を注文した後、乱歩さんは呆れた様子で大きな溜息を吐いた。

「君って本当に・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「人間誰しも欲はあるものだ。欲しい物が何も無いなんてことは普通に考えて有り得ない。それとも、僕が君の欲しい物を買える程の甲斐性が無いとでも思ってる?」
「ち、違います!思ってません!」
「僕は確かにとんでもない高級品を買ってあげることはすぐには難しいけど、それなりの物を贈ることは出来るよ。それに、君が喜んでくれるのが第一だけど、僕だって男だから恋人には相応のことをしてあげたいって見栄もある。」

頬杖を付く乱歩さんの綺麗な緑の瞳が私をじっと見つめている。

「ごめんなさい、乱歩さんがこんなに真剣に思ってくれてるのに私・・・」
「別に責めてる訳じゃないんだけど。ただ欲しい物は素直に言って欲しいだけで」
「わ、私にとっては乱歩さんがくれるなら小さな飴玉だって宝物になるんです。それに、乱歩さんが私の為にくれる物って思うと余計に色々考えちゃって・・・大切にしたい、ですし」

何を貰っても大切にするのは間違いないけれど、出来るだけ持ち歩いたり使える物にしたい。そうすればいつも乱歩さんが傍にいてくれるような気がするから。でも値が張る物をお願いすると浅ましい女だと思われるのでは?安価な物をお願いすれば妥協だと思われるのでは?と余計なことまで考えてしまって雁字搦めになっていた。

「はぁ・・・やっぱり、僕の推理に間違いは無かったみたいだね。用意しておいて良かった」
「え・・・?」

乱歩さんは何処からか綺麗に包装された小さな細長い箱を取り出してカフェテーブルの上にそっと置いた。

「開けてみて」

促され、おずおずと手に取り出来るだけ丁寧に包装を外し箱の蓋を開いた。

「わぁ・・・!」

中に入っていたのは小さな緑色の石が付いたシルバーのブレスレットだった。シンプルなデザインだけど光が当たるとキラキラと光を反射して輝いている。

「綺麗・・・」
「君の性格を鑑みてこうなることを想定して用意しておいたんだ。君はあまり派手なデザインは好まないだろ?」
「さすが乱歩さんですね・・・全部お見通しだったとは」
「それで?気に入った?」
「はい!とても気に入りました!大切にします、本当にありがとうございます!」
「なら良かった」

箱ごと両手で包むように持ちながらお礼を言えば乱歩さんはやっと笑ってくれた。
恐らく私の誕生石なんだろうけど、緑色の石が乱歩さんの瞳の色と同じでそれが更に嬉しい。

「来年はちゃんと欲しい物教えておいてよね。いくら僕でも君が喜んでくれる物を考えるのは一苦労なんだ」
「は、はい、努力します」

また来年も私の為に悩んでくれる乱歩さんが見たいなんて言ったら今度こそ臍を曲げられてしまうかな?運ばれてきた温かい紅茶を飲みながらそんなことを考えていた。


「因みに乱歩さんの欲しい物はなんですか?」
「それこそ僕は君の全部が欲しいけど」
「そんなのもう貴方の手中でしょう」
「・・・は?」
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