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短編 文スト


朝から乱歩さんの様子が可笑しい。何か思い悩むような顔をして、話し掛けても上の空。いつもなら少し騒がしいくらい回る口が今日はずっと閉じたままだ。

他の探偵社員の皆も不思議そうにはしていたけれどそれぞれ自分の仕事がある為、私に乱歩さんを託して出ていってしまった。唯一、太宰さんと与謝野さんだけはその訳が分かっているような様子ではあったけれど・・・。

相変わらず黙ったままの乱歩さんの傍に近づいてみる。お菓子やら何やらで散らかっている机も今日は綺麗だ。

「乱歩さん、みんなお仕事行っちゃいましたよ」
「・・・・・」
「何かあったんですか?乱歩さんがそんなに考え込むなんて」
「・・・・んだよ」
「え?」

呟くように言った言葉は上手く聞き取ることが出来なくて体をそっと1歩乱歩さんに近づける。

「分からないんだよ!何日も前からずっと考えているのに!!」

そう言って立ち上がりながら机をバンっと叩いた乱歩さんの勢いに呆気にとられる。
分からない?乱歩さんは名探偵と呼ばれるくらい頭脳明晰な人だ。そんな人が此処まで考えて分からないことがあるなんて。

「な、何が分からないんです・・・?」
「プレゼントだよ」
「プレゼント・・・・?」
「君の!今日誕生日じゃないか!」

その言葉に壁に掛けられたカレンダーを見る。あ、そっか、今日は私の誕生日だ。

「君が一体何が欲しいのか、何をあげたら喜ぶのか分からないんだよ!せっかくこの僕が用意してあげようと思ったのに!」
「え、あ、そう、だったんですか・・・。えと、すみません」
「謝罪なんて要らないから答えて。君は今何が欲しいの?」

綺麗な緑色の瞳と目が合う。私はまるで犯行を突き止められた犯人のように逸らすことが出来ない。
私が欲しいもの・・・そんなの1つしかない。それは強請ってはいけないものだと諦めていたものだ。でも自惚れてしまうじゃないか。あの乱歩さんが自分の為に此処まで考えてくれていたなんて。
勇気を振り絞って口を開く。

「物は要りません。私は、乱歩さんが欲しいです・・・!」
「却下!」

即答で返された言葉がグサリと胸に刺さる。あぁ、調子に乗って言わなければ良かったと目頭が熱くなり俯く。

「そんなの元から君のものなんだからプレゼントにならないじゃないか!」
「そうですよね。・・・・・え?」

驚きで顔を上げれば至って真面目な顔をした乱歩さんが見える。

「ま、待ってください!それってどういう・・・!?」
「どうってそのままの意味だけど?」
「は、初耳です!」
「だろうね。初めて言ったし。で、他に欲しいものは?」

何でこの人はこんなに平然として居られるのだろうか。私なんてまだ頭が混乱して訳が分からなくなっているのに。でも、もしさっきの言葉が本気ならちゃんとした言葉が欲しい。

「じゃあ、す、好きってちゃんと言ってほしい、です」

語尾になるにつれて声が小さくなってしまったが彼の耳には届いたようで、今度は却下されなかった。
緑の瞳とまた目が合う。

「好きだよ。君が、大好き」

少し赤らめた顔で言われた言葉に今度は嬉しくて泣きそうになる。

「私も、です」

震えた声で返事をすれば彼は嬉しそうに笑って、「誕生日おめでとう」と抱き締めてくれた。
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