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揃いも揃って愛を夢見る

ふぅ、とひとつ息を吐いて帽子を右手で掴み胸に当てる。目の前に立つアイツはというと、いつも通り余裕そうに笑ってやがるからそれが気に食わなくて内心舌打ちを打った。

今、俺達が居る場所は夜の港。ヨコハマの夜景の灯りと海の波が岸に打ち付ける音が響いている。ふと海風が吹いてアイツの緩く巻かれた長い髪が揺れるとふわりと香水の甘い香りがした。

・・・あぁ、やっぱり綺麗だな。出会った頃と何も変わらない。いや、更に綺麗になったと思っちまうのは俺のコイツへの気持ちの変化のせいだろうか。

可愛いよりも格好良く見られたい。
守られるよりも守りたい。
抱き締められるより抱き締めたい。
仲間としての好意から1人の女に対しての愛情へ。誰よりも傍に居られる権利が欲しいと願った。

「アンタが好きだ」

するりと口から出てきたのはなんの捻りも無い在り来りな台詞だったがそれが1番伝わる気がした。

「俺が俺でなくなりそうなくらい、アンタが愛しくて仕方ねぇんだよ」

だから頼む、俺を選んでくれ。

夜景に照らされて見えたアイツの瞳は何だか潤んで見えた。そして一瞬だけ俯いた後、俺を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。

「私も、中也が好きよ」

あぁ、なんだこの感情は。胸から止めどなく溢れてくる。吐きそうだ。それでも不思議と不快じゃない。これが幸せという感情なのかもしれないと心底柄にも無くこんな機会をくれた神とやらに感謝したくなる。

気付けば喉までせり上がってきた優しいその温度がコイツにも流れ込んでしまえば良いと、今も微笑む赤い唇に噛み付いた。
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