揃いも揃って愛を夢見る
好きな匂いがあった。
いつもお節介な程に俺の世話を焼く、少し歳上の女が付けているあの香水。
決してキツくはなく、ふわりと香る程度の花のような匂い。
その匂いを嗅ぐだけであの女の事が頭に過ぎってしまう程、俺の中でその2つは強く結びついてしまっていた。
*****
任務を終わらせ自分の執務室の扉を開けると、微かにだがその匂いが鼻についた。
「おい、居るんだろ?」
「なんだ、バレちゃった」
「やっぱりな。バレねぇと考える方が可笑しいだろ」
カーテンの裏から現れたその女は口を尖らせて拗ねた様な顔をする。
「まさか本気でバレねぇとでも思ったのか・・・?相手は俺だぞ?」
「そりゃあバレるとは思ったわ。でもまさか部屋に入ってすぐバレるとは思わなかったの!どうして分かったの?」
「あ?アンタがいつも着けてる香水の匂いがしたんだよ。隠れるつもりなら香水なんざ付けねぇ方が良かったな」
詰めが甘いと笑えば女はポカンとした顔を浮かべて俺を見ていた。
「んだよ、変な顔して」
「・・・中也、私をその匂いで認識してたの?」
「・・・あ」
ハッとして自分の口を手で抑える。
何を言ってんだ、俺は。これじゃ変態みてぇじゃねぇか!
「あ、アンタの香水、他に付けてるやついねぇし、アンタはいつも執拗いくらい近くに来るから覚えちまっただけだ。変な意味じゃねぇよ!」
「あぁ、成程。そういうこと。・・・残念」
「あ・・・?」
「なんでもないわ」
「ところでアンタ、何で此処に居たんだ?」
「中也を驚かせたいって思って。急に現れてびっくりさせる予定が台無しよ!」
「ったくアンタは・・・昔からそうやって俺で遊びやがって」
「だって反応が面白いんだもの。当初の予定とは違ったけど、まぁいいわ。はい、これ」
そう言って伸ばされた手に握られていたのは小さな袋。
中には細長くシンプルな白い箱が入っている。
「お誕生日おめでとう、中也。これは私からのプレゼントよ」
「誕生日・・・?」
「えぇ。やっぱり忘れてたのね」
呆れた様に溜息を吐く女からその袋・・・プレゼントを受け取る。
そうか、今日は俺の誕生日か。仕事に終われていたからか、すっかり忘れていた。
「それね、中身は香水なの」
「香水?」
「そう。それも私とお揃いの。これなら中也も私を意識してくれるかしら?」
「な、に言ってんだ」
いつものおちゃらけた顔とは違う艶やかな大人の女の顔にドキリと胸が高鳴る。
「・・・なんてね。ドキッとした?」
「アンタはっ!ほんっとタチが悪いな!」
「ふふ、ごめんなさい。さて、と。お忙しい幹部様の貴重な休憩を邪魔しちゃ悪いから私はこれで失礼するわ」
「あぁ、そうしてくれ。アンタと話すのは体力を使う」
大きく溜息を吐く俺を横目に最後までニコニコと手を振って部屋を出ていった。
「揃いの香水、ねぇ・・・」
貰ったからには付けたいところだが、周りに揃いだとバレた時に何て言われるか・・・
「なんだ、これ」
香水が入っていた箱の中に折り畳まれた小さな紙がひとつ入っている。
説明書の類かと思ったがどうやら違うようだ。
不審に思いながらも開けばそこには見慣れた女の文字が。
【香水を贈る意味は"独占欲"と"自分色に染めたい"】
「ほんっと俺を惑わすのが好きなんだからよ・・・」
前髪をぐしゃりとかきあげながら呟く。
俺の気も知らねえで。
アンタのこと、意識なんかとっくにしてんだよ、莫迦。
明日この香水を付けて、今度は俺が惑わす番だと1人決意を固めた。
いつもお節介な程に俺の世話を焼く、少し歳上の女が付けているあの香水。
決してキツくはなく、ふわりと香る程度の花のような匂い。
その匂いを嗅ぐだけであの女の事が頭に過ぎってしまう程、俺の中でその2つは強く結びついてしまっていた。
*****
任務を終わらせ自分の執務室の扉を開けると、微かにだがその匂いが鼻についた。
「おい、居るんだろ?」
「なんだ、バレちゃった」
「やっぱりな。バレねぇと考える方が可笑しいだろ」
カーテンの裏から現れたその女は口を尖らせて拗ねた様な顔をする。
「まさか本気でバレねぇとでも思ったのか・・・?相手は俺だぞ?」
「そりゃあバレるとは思ったわ。でもまさか部屋に入ってすぐバレるとは思わなかったの!どうして分かったの?」
「あ?アンタがいつも着けてる香水の匂いがしたんだよ。隠れるつもりなら香水なんざ付けねぇ方が良かったな」
詰めが甘いと笑えば女はポカンとした顔を浮かべて俺を見ていた。
「んだよ、変な顔して」
「・・・中也、私をその匂いで認識してたの?」
「・・・あ」
ハッとして自分の口を手で抑える。
何を言ってんだ、俺は。これじゃ変態みてぇじゃねぇか!
「あ、アンタの香水、他に付けてるやついねぇし、アンタはいつも執拗いくらい近くに来るから覚えちまっただけだ。変な意味じゃねぇよ!」
「あぁ、成程。そういうこと。・・・残念」
「あ・・・?」
「なんでもないわ」
「ところでアンタ、何で此処に居たんだ?」
「中也を驚かせたいって思って。急に現れてびっくりさせる予定が台無しよ!」
「ったくアンタは・・・昔からそうやって俺で遊びやがって」
「だって反応が面白いんだもの。当初の予定とは違ったけど、まぁいいわ。はい、これ」
そう言って伸ばされた手に握られていたのは小さな袋。
中には細長くシンプルな白い箱が入っている。
「お誕生日おめでとう、中也。これは私からのプレゼントよ」
「誕生日・・・?」
「えぇ。やっぱり忘れてたのね」
呆れた様に溜息を吐く女からその袋・・・プレゼントを受け取る。
そうか、今日は俺の誕生日か。仕事に終われていたからか、すっかり忘れていた。
「それね、中身は香水なの」
「香水?」
「そう。それも私とお揃いの。これなら中也も私を意識してくれるかしら?」
「な、に言ってんだ」
いつものおちゃらけた顔とは違う艶やかな大人の女の顔にドキリと胸が高鳴る。
「・・・なんてね。ドキッとした?」
「アンタはっ!ほんっとタチが悪いな!」
「ふふ、ごめんなさい。さて、と。お忙しい幹部様の貴重な休憩を邪魔しちゃ悪いから私はこれで失礼するわ」
「あぁ、そうしてくれ。アンタと話すのは体力を使う」
大きく溜息を吐く俺を横目に最後までニコニコと手を振って部屋を出ていった。
「揃いの香水、ねぇ・・・」
貰ったからには付けたいところだが、周りに揃いだとバレた時に何て言われるか・・・
「なんだ、これ」
香水が入っていた箱の中に折り畳まれた小さな紙がひとつ入っている。
説明書の類かと思ったがどうやら違うようだ。
不審に思いながらも開けばそこには見慣れた女の文字が。
【香水を贈る意味は"独占欲"と"自分色に染めたい"】
「ほんっと俺を惑わすのが好きなんだからよ・・・」
前髪をぐしゃりとかきあげながら呟く。
俺の気も知らねえで。
アンタのこと、意識なんかとっくにしてんだよ、莫迦。
明日この香水を付けて、今度は俺が惑わす番だと1人決意を固めた。