呪術短編
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「いつ命を落とすか分からない仕事です。一生を添い遂げることは難しいでしょう。貴方を深く傷つけ、悲しませることになるかもしれない。それでも、私と結婚してくれますか?」
その手を取ったことを、私は生涯後悔することは無いだろう。
*****
──病める時も健やかなる時も
死がふたりを分かつまで───
そう神に誓った日からずっと、いつか来るであろう最期の時を想定した結婚生活だった。
彼の仕事───呪術師は日々命の危険と隣り合わせ。どんなに低級な呪霊が相手であろうとも安心など出来はしない。だからいつどんな風に最期の日が訪れようと互いに悔いのないようにしよう。それが私達が2人で決めた約束で、誓いだった。
その誓いを果たすように建人は忙しい時間を割き、私と出来るだけ長く一緒に過ごせるようにしてくれた。貴重な休みの日には綺麗な景色を見に行ったり、2人で家でゆっくり映画を観たり。私が寝過ごしてしまった時には怒りもせずに2人分の朝ご飯を用意してくれたこともあった。
加えて私が将来的に未亡人となった時も困ることが無いように、1人で生きるには十分な程の蓄えも用意しようとしてくれていた。
本当に真面目で、優しい人。
*****
「何かして欲しいことはありませんか?」
ある休日の朝、彼に尋ねられたことがあった。私があまり彼に要望を言わないが為に我慢しているのではないかと心配になったのかもしれない。寧ろその反対で、今のままで十分満たされているからなのだけれど。
「何かあれば遠慮なく言ってください。私だけが悔いの残らないようにしても意味が無い。貴方にも、出来る限り悔いを残して欲しくないのです。」
「・・・それじゃあ1つだけ、お願いしてもいいかな?」
「勿論です」
「写真を、撮りたいの」
「写真、ですか?」
「うん。何処かに行った時や、普段の何気ない瞬間のも」
「それは構いませんが、理由を聞いても?」
「・・・いつか、いつかね、建人が居なくなってしまっても、その写真が建人が居た証になってくれると思って。私にせめて、建人との思い出を遺してくれないかな?」
「・・・それが貴方の願いだと言うのなら私が嫌だと言う筈がないでしょう」
「ありがとう、建人」
安心してホッと息を吐いた私を横目に建人はいそいそと身支度を整え始めた。何処かに出掛ける予定なんて聞いていたかな?と首を傾げた私に再び建人の視線が向けられる。
「では早速カメラを買いに行きましょう」
「え?いや、そんな大掛かりなことしなくてもスマホの写真で十分だよ?」
「普段の写真ならそれでも良いでしょうが外出時は別です。せっかく貴方と撮るのなら妥協したりせず綺麗な物を撮るべきです」
キリッと真剣な顔をして言った建人がなんだか可笑しくて、また可愛らしくも見えて顔が綻ぶ。
「ふふ、建人らしいね。いいよ、行こっか」
「・・・それと、私も、貴方の写真を持って任務に行きたいので」
頬を少し赤くして照れ臭そうに顔を逸らした彼の姿に今度は思わず吹き出して笑ってしまった。
あぁ、幸せだなぁ。
*****
「私が先立った後、他に想う人が出来た時には私のことなど忘れて自分の幸せを掴んでください。いいですね?」
私の幸せを願ってくれている言葉でもやっぱり胸は痛んだ。
「うん、分かった。でも、今の私にはどうしても建人以外を愛せる気がしないんだ」
「それでは、貴方が1人になってしまいます。だから、」
「大丈夫。ちゃんと分かってるよ。建人が私の幸せを第一に考えてくれているってことも。・・・私ね、この世に絶対なんて無いと思ってるんだ。だから建人と別れたら私もいつか他の人を愛するのかもしれない。それでも、例え、私の最期に誰が傍に居たとしたって、私がこうして七海建人の妻であったことは一生変わらないの。だから、だから・・・忘れてなんて、あげないから・・・!」
本当はそんな日が永遠に来なければ良いと願っている。他の誰かなんて考えたくもない。建人がいい。建人じゃなきゃ嫌だ。
堪えきれずに私の頬を流れた涙を建人の指がそっと拭う。
「困らせてごめん。大丈夫って言わないといけないのに」
「謝らないでください」
「でも、」
「琥珀」
呼ばれた名前に彼を見上げる。優しい声だ。彼は普段他の人を呼ぶ時は淡々とした声をしているけれど、私を呼ぶ時の声色はいつも優しい。そしていつだって私を真っ直ぐ見ながら名前を呼んでくれる。その声で呼ばれるとどんなに辛い時でも胸が温かくなり安心出来た。
「貴方と出会い、こうして結婚出来て私は幸せです」
「うん、」
「私の人生において、これ以上の幸福はありません」
「う、ん」
「だから先程の私の発言をひとつ訂正します」
未だ零れている涙を拭っていた手が頬に添えられたと思ったらそのまま唇を重ねられた。あまりにも突然の出来事に驚いて涙も引っ込む。
「私のことを忘れないでください」
まだ状況が飲み込めず目をパチクリさせている私の瞳に建人の真剣な顔が映る。
「貴方の記憶の片隅でも構わない。貴方の中に私を残していて欲しい。・・・そう言ったら困らせてしまいますか?」
「そんなこと、ないっ!嬉しい・・・!」
困る訳がない。またジワジワと瞳に涙が溜まっていき、言葉を発し終わる頃には先程とは違い、ポロポロとまるで雨のように流れ出た。嗚咽を漏らして泣く私を建人は優しく抱き寄せてくれた。
忘れない、貴方の優しい声も、温かな腕も、その一欠片だって。
─────────────────
───彼が言っていた通り、その日はあまりにも突然訪れた。
パラパラとアルバムを捲る音が静かな部屋に響く。彼に我儘を言ったあの日から本当にたくさん撮ってくれた。撮り始めた頃にはまだ表情も固くて、2人してぎこちない顔をしているけれど、何度も繰り返す内に徐々に自然と笑えるようになっていた。
2人で行った旅行、ショッピング、映画、
建人に不意打ちで撮られた写真、お返しに私が撮った建人の写真、
全部、全部、笑顔の私達がいる。
ほらね、写真を撮っておいて良かったでしょう?こんな時でも釣られて笑えたもの。
大丈夫、苦しく無い。辛くも無い。
ただ少しだけ、貴方が傍に居なくて寂しいけれど、
「お疲れ様、でした」
写真の中、微笑む貴方の顔を私の涙が濡らした。
──病める時も健やかなる時も
死がふたりを分かつまで───
その手を取ったことを、私は生涯後悔することは無いだろう。
*****
──病める時も健やかなる時も
死がふたりを分かつまで───
そう神に誓った日からずっと、いつか来るであろう最期の時を想定した結婚生活だった。
彼の仕事───呪術師は日々命の危険と隣り合わせ。どんなに低級な呪霊が相手であろうとも安心など出来はしない。だからいつどんな風に最期の日が訪れようと互いに悔いのないようにしよう。それが私達が2人で決めた約束で、誓いだった。
その誓いを果たすように建人は忙しい時間を割き、私と出来るだけ長く一緒に過ごせるようにしてくれた。貴重な休みの日には綺麗な景色を見に行ったり、2人で家でゆっくり映画を観たり。私が寝過ごしてしまった時には怒りもせずに2人分の朝ご飯を用意してくれたこともあった。
加えて私が将来的に未亡人となった時も困ることが無いように、1人で生きるには十分な程の蓄えも用意しようとしてくれていた。
本当に真面目で、優しい人。
*****
「何かして欲しいことはありませんか?」
ある休日の朝、彼に尋ねられたことがあった。私があまり彼に要望を言わないが為に我慢しているのではないかと心配になったのかもしれない。寧ろその反対で、今のままで十分満たされているからなのだけれど。
「何かあれば遠慮なく言ってください。私だけが悔いの残らないようにしても意味が無い。貴方にも、出来る限り悔いを残して欲しくないのです。」
「・・・それじゃあ1つだけ、お願いしてもいいかな?」
「勿論です」
「写真を、撮りたいの」
「写真、ですか?」
「うん。何処かに行った時や、普段の何気ない瞬間のも」
「それは構いませんが、理由を聞いても?」
「・・・いつか、いつかね、建人が居なくなってしまっても、その写真が建人が居た証になってくれると思って。私にせめて、建人との思い出を遺してくれないかな?」
「・・・それが貴方の願いだと言うのなら私が嫌だと言う筈がないでしょう」
「ありがとう、建人」
安心してホッと息を吐いた私を横目に建人はいそいそと身支度を整え始めた。何処かに出掛ける予定なんて聞いていたかな?と首を傾げた私に再び建人の視線が向けられる。
「では早速カメラを買いに行きましょう」
「え?いや、そんな大掛かりなことしなくてもスマホの写真で十分だよ?」
「普段の写真ならそれでも良いでしょうが外出時は別です。せっかく貴方と撮るのなら妥協したりせず綺麗な物を撮るべきです」
キリッと真剣な顔をして言った建人がなんだか可笑しくて、また可愛らしくも見えて顔が綻ぶ。
「ふふ、建人らしいね。いいよ、行こっか」
「・・・それと、私も、貴方の写真を持って任務に行きたいので」
頬を少し赤くして照れ臭そうに顔を逸らした彼の姿に今度は思わず吹き出して笑ってしまった。
あぁ、幸せだなぁ。
*****
「私が先立った後、他に想う人が出来た時には私のことなど忘れて自分の幸せを掴んでください。いいですね?」
私の幸せを願ってくれている言葉でもやっぱり胸は痛んだ。
「うん、分かった。でも、今の私にはどうしても建人以外を愛せる気がしないんだ」
「それでは、貴方が1人になってしまいます。だから、」
「大丈夫。ちゃんと分かってるよ。建人が私の幸せを第一に考えてくれているってことも。・・・私ね、この世に絶対なんて無いと思ってるんだ。だから建人と別れたら私もいつか他の人を愛するのかもしれない。それでも、例え、私の最期に誰が傍に居たとしたって、私がこうして七海建人の妻であったことは一生変わらないの。だから、だから・・・忘れてなんて、あげないから・・・!」
本当はそんな日が永遠に来なければ良いと願っている。他の誰かなんて考えたくもない。建人がいい。建人じゃなきゃ嫌だ。
堪えきれずに私の頬を流れた涙を建人の指がそっと拭う。
「困らせてごめん。大丈夫って言わないといけないのに」
「謝らないでください」
「でも、」
「琥珀」
呼ばれた名前に彼を見上げる。優しい声だ。彼は普段他の人を呼ぶ時は淡々とした声をしているけれど、私を呼ぶ時の声色はいつも優しい。そしていつだって私を真っ直ぐ見ながら名前を呼んでくれる。その声で呼ばれるとどんなに辛い時でも胸が温かくなり安心出来た。
「貴方と出会い、こうして結婚出来て私は幸せです」
「うん、」
「私の人生において、これ以上の幸福はありません」
「う、ん」
「だから先程の私の発言をひとつ訂正します」
未だ零れている涙を拭っていた手が頬に添えられたと思ったらそのまま唇を重ねられた。あまりにも突然の出来事に驚いて涙も引っ込む。
「私のことを忘れないでください」
まだ状況が飲み込めず目をパチクリさせている私の瞳に建人の真剣な顔が映る。
「貴方の記憶の片隅でも構わない。貴方の中に私を残していて欲しい。・・・そう言ったら困らせてしまいますか?」
「そんなこと、ないっ!嬉しい・・・!」
困る訳がない。またジワジワと瞳に涙が溜まっていき、言葉を発し終わる頃には先程とは違い、ポロポロとまるで雨のように流れ出た。嗚咽を漏らして泣く私を建人は優しく抱き寄せてくれた。
忘れない、貴方の優しい声も、温かな腕も、その一欠片だって。
─────────────────
───彼が言っていた通り、その日はあまりにも突然訪れた。
パラパラとアルバムを捲る音が静かな部屋に響く。彼に我儘を言ったあの日から本当にたくさん撮ってくれた。撮り始めた頃にはまだ表情も固くて、2人してぎこちない顔をしているけれど、何度も繰り返す内に徐々に自然と笑えるようになっていた。
2人で行った旅行、ショッピング、映画、
建人に不意打ちで撮られた写真、お返しに私が撮った建人の写真、
全部、全部、笑顔の私達がいる。
ほらね、写真を撮っておいて良かったでしょう?こんな時でも釣られて笑えたもの。
大丈夫、苦しく無い。辛くも無い。
ただ少しだけ、貴方が傍に居なくて寂しいけれど、
「お疲れ様、でした」
写真の中、微笑む貴方の顔を私の涙が濡らした。
──病める時も健やかなる時も
死がふたりを分かつまで───