呪術短編
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「や、琥珀」
愛しい人が会いに来てくれた。いつもと変わらない笑顔といつもと変わらない優しい声で私の名前を呼んでくれた。
非術師であり呪霊を視る力も私にはないけれど、彼の周りになんだか嫌なモノがまとわりついているように感じる。重苦しいナニカが蠢いて私を見ているような、そんな妙な感覚。
「来るなら連絡くれれば良かったのに」
「少し急いでいてね。うっかり忘れてしまったよ」
「五条くんからはちゃんと連絡が来たよ」
「・・・あぁ、なんだ。もう知っていたのか」
彼の親友から彼の選んだ道と私の身を案じる内容のメールが届いていた。"術師だけの世界を作る"ことを理想とした彼は自分の両親を手に掛けた。それなら次に狙われるのは傑の恋人であり非術師でもある私だろうと案じてくれたのだろう。だから"今すぐ逃げろ"と警告もされたけれど私はそんな気にはなれなかった。その理由は2つ。五条くんから伝えられた彼の所業を信じられなかったことがまずひとつ。もうひとつは、それでも彼に会いたいと思う程に私は彼を愛していたこと。
「私のことも殺しに来たんでしょう?」
「あぁ、そうだよ。君は非術師だからね。恋人であろうが特別という訳にはいかないだろう」
「"術師だけの世界を作る"それが傑の選んだ道?」
「そうだよ。そう決めた」
「・・・そっかぁ。じゃあ仕方ないね」
揺らぐ事のない瞳が彼の決心の固さを現していた。私を殺すことにも一切の躊躇が無いんだろう。
「君は、どうして逃げなかったんだ?」
「逃げて欲しかったの?」
「そうじゃない。ただ連絡が来ていたのなら誰かに助けを求められもした筈だ。それこそ悟や高専に」
「五条くんには来ないでって言ったの」
「どうして」
「恋人に会いたいと思うのに理由が必要なの?」
私の問いかけに初めて傑の顔が引き攣った。
「・・・私の決意は揺らがないよ」
「分かってるよ。傑は案外頑固だって知ってるもの」
傑の片腕が上に挙げられる。ナニカが同調して動いている感覚がする。
・・・これで終わりか。
「傑」
少しだけ上擦った声が出た。覚悟はしていてもやはり死ぬのは恐ろしい。それでも最期の瞬間までその姿を目に焼き付けておきたいから目は閉じないと決めた。
傑の手が私に向かって動かされる。傑の瞳が私を映す。
「大好きだよ」
どうか貴方も笑える世界になりますように。
笑った私を見た彼の顔が少しだけ歪んだように見えた。