呪術短編
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「はぁ・・・」
任務帰り。補助監督の運転する車の車中で私は大きく溜息を吐いた。
それというのも隣に座っている友人の纏う雰囲気があまりにも重苦しく居心地の悪いことこの上ない状況に置かれているからだ。
友人・・・悟はその長身をくの字に折り曲げ項垂れており、乗車してから数十分経過した今まで一言も言葉を発さずにただ座っている。
運転する補助監督も居心地が悪いのだろう、ルームミラーでチラチラと悟の様子を窺っているようだ。こんな日に当たるなんて彼も運が無いな。
悟がこうなった理由は至って単純明快。先程の任務中に悟にとって大切な写真・・・正しくは悟が彼女と2人で撮影したプリクラが貼られた携帯電話を呪霊によって破壊されてしまったからだ。
だけどそんなことになった原因の大半は悟にある。
勿論携帯電話を壊したのは呪霊だ。それは事実であるし恨むべき対象ということに変わりはない。今日の討祓対象は3級程度の私達にとっては楽勝と言える相手だったからだろう、悟は最初からすっかりダレていたし、無茶苦茶に攻撃してくる呪霊を「弱っ!」とコケにしてすらいた。その最中だ。悟の制服のポケットから携帯電話が滑り落ちたのは。
気付いた悟が手を伸ばした時にはもう遅かった。携帯電話は呪霊の攻撃によって粉々に吹き飛ばされてしまった。
*******
そして今現在に至る。呪霊に関してはバラバラになった携帯電話を見て呆然としてしまった悟の代わりに私が祓ったから任務としては何も問題はない。
問題なのは今のこの車中の雰囲気だ。息が詰まって仕方がない。重苦しい雰囲気に痺れを切らし視線だけ悟に向けながら声を掛けた。
「悟。そろそろ顔を上げなよ。当てられて私まで暗くなる」
「・・・」
「そんなに大切なプリクラだったのか?」
「・・・」
「彼女とのプリクラなんて今まで沢山撮っているじゃないか。プリクラだけじゃなく写真だって」
「・・・普通のプリクラじゃないんだよ」
「何が違うんだ?」
少しだけ顔を上げた悟からやっと返ってきた返事はいつもの調子は何処へやら。弱気で情けないことこの上ない。今の悟なら低級呪霊にも遅れを取りそうだ。
「あれ、撮った後に落書き出来るだろ?」
「あぁ、出来るね」
「この前撮ったやつの1枚に、アイツが、」
「うん」
「・・・だ、"大好き"って、書いてて、」
「へぇ」
「アイツ、普段は照れてそういうこと言わねえし、そのプリクラの笑った顔がすげぇ、か、可愛かった、から」
「それが壊された携帯に貼ってあったやつだったと?」
「・・・あぁ。クソ、あの呪霊、雑魚のクセに」
合点がいった。確かにここ数日携帯を見てニヤニヤしている場面には何度も遭遇していた。十中八九彼女絡みのことだとは思っていたけれどやっぱりそうだったか。最近分かったが悟は本命には案外ウブらしい。
「彼女の携帯から送って貰えばいいじゃないか。確かプリクラって会員登録すれば撮ったもの全部手に入るだろう?シールにはならないけれど、それをプリントアウトすれば」
「それじゃあ意味ねぇんだよ」
「何故?同じ物じゃないか」
「わかってねーなぁ傑は!デートした時に一緒に手に入れた物だから価値があるんだよ!誰かにプレゼントされた物と自分で買った物じゃ例え同じ物でも感じ方違うだろ!?あとなんかカッコ悪い!!」
「あー分かった分かった。落ち着け悟。声が大きい」
近距離で張り上げられた声に思わず耳を塞ぐ。正直とても面倒だと思っているが、今回の任務地から高専への帰り道は長い。長時間沈んでいる悟の隣にいるのは私の精神衛生上良くない。
仕方ない、ひとつ手を打つか。
また大きく溜息を吐きながらポケットから自分の携帯を取り出し連絡帳を開いて目当ての人物の名前を探す。再び静かになった車内に私の文字を打つカチカチという音だけが響いている。
「悟」
「・・・んだよ」
「メール。琥珀から」
「は?なんて?」
「悟の携帯が壊されたって送ったら、それじゃあ帰ってきたら一緒に携帯買いに行こうって」
「・・・マジ?」
「マジだよ。良かったじゃないか。ついでにそのままゲーセンに行ってプリクラも撮り直してくればいい。もしかしたらまた書いてくれるかもしれないよ」
私の言葉と見せた携帯画面に映った彼女のメールの内容を見て、みるみる悟の表情が明るくなっていく。そして運転席の補助監督の肩を掴み、
「なぁ!!もっと車飛ばせよ!アイツといる時間短くなんだろ!!」
と大声で騒ぎ始めた。彼女の効果は絶大だね。実は私から彼女に頼んだという事実は伝えないでおこう。
「悟、危ないから座って」
すっかり機嫌の直った様子の親友に本当に手が掛かると最早今日何度目か分からない溜息を吐いた。
********
翌日。同じ機種と同じプリクラが貼られた携帯電話を嬉しそうに自慢してくる悟がいたのはまた別の話。