眩しさに眩んだ視界が少しずつ色づき出し、視界の端に大きな黒い姿が見えた。椅子に腰掛けていたその人・・・悟はいつもの目隠しも外していて、まるで迷子の子供のように私を見つめる瞳の綺麗なその青が、溜まった水のせいで滲んで見えた。

今にも泣き出しそうな姿の彼をどうにか安心させたくて悟、と声を出したくても目覚めたばかりだからか口に付けられたマスクのせいなのかは分からないけれどちゃんと音になってくれない。

「なんで、」

ポツリと溢れた言葉と共に涙が1粒悟の頬を伝った。

「なんで、まだ呪術師やってんの、」

震えた声。責めるというよりも懇願のような言葉にズキリと胸が痛んだ。

「お前が怪我したって聞いて、僕がどんな気持ちだったか分かる？」

泣き顔を見せたくない為か前屈みになった悟の後頭部の影から涙が1粒、また1粒とポタポタ床に落ちていくのが見えた。
その涙を拭いたくてまだ思うように動かない腕を必死に動かし悟に手を伸ばすと、気付いた悟は顔を上げて私のその手を自分の手で包み込むように握った。
少し距離が近くなり間近で見えた悟の顔は、私が目覚める前にも1人で泣いていたのだろうか、少し目元が赤くなっている。
普段の悟なら絶対に見せることのない姿に罪悪感でいっぱいになり、声にならない声でごめんねと口を動かせばまた更に顔を歪ませた。

「何に謝ってるのか分かんねぇよ」

手を握り締めている力が更に強くなる。痛いくらい強い。
貴方みたいに強くなれなくてごめんね。心配掛けて、泣かせてしまってごめんね。それでも私は呪術師を辞めたくない。
出ない言葉の代わりに手に力を込めれば悟は少し呆れたように息を吐いた。

「・・・ちゃんと分かってるよ、理解してる。でも、僕がお前を心配なのも分かってよ」

ね？と笑った顔はまだぎこちないけれど優しくてホッと胸を撫で下ろす。
悟と同じ物を背負えはしなくても、同じ道を隣で歩くことだけなら弱い私にも出来るから。
今出せる精一杯の力で手を握り返しながらまたひとつ、ごめんねと一緒にありがとうを返した。