少し離れた場所に恋人の姿が見えた。親友である傑と談笑しながら歩いている様子を見て、咄嗟に駆け出して声を掛けようと思ったけれどなんだかふと驚かせて見たくなった。立ち止まってすぅーっと息を吸い、

「悟ーーーーーーっ！！」

と口に両手を左右から当てて大声で呼べば悟は驚いた様子で振り返った。私の姿を悟の目が捉えたのを確認してもう一度大きく息を吸った。

「好きだよーーーーーーっっ！！」

最初に呼んだ時よりも大きな声で叫ぶと悟の「なっ！？」と驚いて裏返った声が聞こえた。隣に立っている傑がわたわたと慌てている様子の悟を肘で突きながら楽しそうにしているのが分かった。きっと悟の顔は真っ赤なんだろうなぁ。ここからじゃそこまではよく見えないのが残念。
悪戯成功かな、と満足して足を進めた瞬間、悟が視線を私に向けてさっきの私と同じように両手を口に当てた。

「俺だって好きだわバーーーカっっっ！！」

進めた足がピタリと止まる。言われた言葉を理解した途端、火が出るんじゃないかって錯覚するくらいの熱が顔に集まった。
あぁ、もう！してやられた！悟のことだから絶対返って来ないと思ったのに！
視界に映る悟は私から目線を外しているけれど隣の傑は私と悟を交互に見ながらお腹を抱えて笑っている。
真っ赤な顔はきっとお互い様。それでも最後くらいは一矢報いてやりたい。止まっていた足にもう一度力を込めて悟の元に全力で駆け出した。最後は思い切って抱き着き攻撃しちゃうから、余所見なんかしてないで受け止めてよね。