呪術短編
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思い返してみてもなんて事のない言葉だった。
「硝子は長いのも似合うと思うなぁ」
その前に何の話をしていたのかも覚えていない。ただひとつだけ、そう言った琥珀は本当に楽しそうに笑っていたことをよく覚えている。
「やだよ。手入れとかめんどいし」
「えー勿体ない。ね、1回だけで良いから伸ばしてみない?おすすめのヘアオイルとか教えるし!」
「ヘアオイルってなんかベタ付きそうじゃん」
「ベタつかないの選ぶから!ね!?」
「なんで琥珀がそんな必死になってんの」
「私が見たいから!ロングヘアーの硝子!」
「絶対やだ」
「なんで!?」
も〜!と小さい子どもみたいに地団駄を踏む琥珀が心底意味分からなくて、でもそれがなんだか可笑しくてケラケラ笑った。
それからそんなに経たない内に琥珀は遠くに行ってしまった。
恋人同士だった同級生に着いて行く道を選んだ琥珀は最後の日に態々私に会いに来てくれた。私がどうこう言おうが決心が変わらないことは顔を見てすぐに理解したし、私も止めるつもり無かった。
"ごめんね"と何に謝ってるのか分からなかったけど眉を下げて笑う顔に"バイバイ"と素っ気なく返して遠くなっていく後ろ姿を見送った。震える指で辛うじて持っていた煙草は地面に吸い込まれるように落下して、それを拾おうと下を向いた時になって瞳から零れた水が地面に落ちている煙草を濡らした。
*************
あの日から随分と時間が経って、私を取り巻く環境も変わり忙しない毎日を送っていた。
「硝子ってなんで髪伸ばしたの?」
そんなある日、不躾にアポも取らずに人を訪ねてきたこのクズ───五条は唐突に聞いてきた。
「ずっと同じ長さだったのに急に伸ばしたよね。なんで?」
「別に。なんだっていいじゃん」
実の所自分でもよく分からない。琥珀を見送ったあの日から、伸びた髪を切ろうとする度にあの子の笑った顔が脳裏を過ぎるものだからいつも長さを揃えるぐらいで済ましてしまっていた。そのせいで気付けば髪はすっかり伸びて今ではあの子が望んでいたロングの長さになっていた。
「え〜硝子が自分だけの意思で髪を伸ばすとは思えないんだけど?手入れとか面倒くさがりそうじゃん。実際毛先傷んでるっぽいし」
「触んな」
揶揄うように伸ばされた手を軽く払い除ける。理解されているという点において旧知の仲というのはこういう時本当に面倒臭い。単にコイツが執拗いだけなのかもしれないけれど。
態と術式を解いたくせに払われた手を大袈裟に反対の手で覆って「酷い」だの「痛い」だの喚いてる五条の姿に一体何歳児なんだと呆れて溜息を吐く。
「理由、」
「お、教えてくれる気になった?」
「・・・五条、アンタが口調変えた理由と似たようなもんだよ、きっと」
私の言葉に五条のさっきまでよく回っていた口がピタリと止まる。
「・・・琥珀?」
「そーだよ」
「・・・そう。そっか」
そのまま五条は黙り込んだ。何かを思い出しているのだろうか。真一文字に結んだ口は僅かに震えている。静かになった医務室は慣れ親しんでいる場所なのになんだか無性に居心地が悪い。
難儀だよな、五条も私も。無意味と分かってても止められない。
忘れられないんだ。いや、忘れたくないのかもしれないね。だから態と自分の中にその欠片を残してる。
きっと今も期待してるんだ。
あの子があの頃と変わらない様子でひょっこり目の前に現れて長くなった私の髪を見て
"ほら、やっぱりよく似合う"
そう言って嬉しそうに笑ってくれる。そんな来るはずの無い未来を。
「ほんと、馬鹿ばっかりだよねぇ」
「硝子は長いのも似合うと思うなぁ」
その前に何の話をしていたのかも覚えていない。ただひとつだけ、そう言った琥珀は本当に楽しそうに笑っていたことをよく覚えている。
「やだよ。手入れとかめんどいし」
「えー勿体ない。ね、1回だけで良いから伸ばしてみない?おすすめのヘアオイルとか教えるし!」
「ヘアオイルってなんかベタ付きそうじゃん」
「ベタつかないの選ぶから!ね!?」
「なんで琥珀がそんな必死になってんの」
「私が見たいから!ロングヘアーの硝子!」
「絶対やだ」
「なんで!?」
も〜!と小さい子どもみたいに地団駄を踏む琥珀が心底意味分からなくて、でもそれがなんだか可笑しくてケラケラ笑った。
それからそんなに経たない内に琥珀は遠くに行ってしまった。
恋人同士だった同級生に着いて行く道を選んだ琥珀は最後の日に態々私に会いに来てくれた。私がどうこう言おうが決心が変わらないことは顔を見てすぐに理解したし、私も止めるつもり無かった。
"ごめんね"と何に謝ってるのか分からなかったけど眉を下げて笑う顔に"バイバイ"と素っ気なく返して遠くなっていく後ろ姿を見送った。震える指で辛うじて持っていた煙草は地面に吸い込まれるように落下して、それを拾おうと下を向いた時になって瞳から零れた水が地面に落ちている煙草を濡らした。
*************
あの日から随分と時間が経って、私を取り巻く環境も変わり忙しない毎日を送っていた。
「硝子ってなんで髪伸ばしたの?」
そんなある日、不躾にアポも取らずに人を訪ねてきたこのクズ───五条は唐突に聞いてきた。
「ずっと同じ長さだったのに急に伸ばしたよね。なんで?」
「別に。なんだっていいじゃん」
実の所自分でもよく分からない。琥珀を見送ったあの日から、伸びた髪を切ろうとする度にあの子の笑った顔が脳裏を過ぎるものだからいつも長さを揃えるぐらいで済ましてしまっていた。そのせいで気付けば髪はすっかり伸びて今ではあの子が望んでいたロングの長さになっていた。
「え〜硝子が自分だけの意思で髪を伸ばすとは思えないんだけど?手入れとか面倒くさがりそうじゃん。実際毛先傷んでるっぽいし」
「触んな」
揶揄うように伸ばされた手を軽く払い除ける。理解されているという点において旧知の仲というのはこういう時本当に面倒臭い。単にコイツが執拗いだけなのかもしれないけれど。
態と術式を解いたくせに払われた手を大袈裟に反対の手で覆って「酷い」だの「痛い」だの喚いてる五条の姿に一体何歳児なんだと呆れて溜息を吐く。
「理由、」
「お、教えてくれる気になった?」
「・・・五条、アンタが口調変えた理由と似たようなもんだよ、きっと」
私の言葉に五条のさっきまでよく回っていた口がピタリと止まる。
「・・・琥珀?」
「そーだよ」
「・・・そう。そっか」
そのまま五条は黙り込んだ。何かを思い出しているのだろうか。真一文字に結んだ口は僅かに震えている。静かになった医務室は慣れ親しんでいる場所なのになんだか無性に居心地が悪い。
難儀だよな、五条も私も。無意味と分かってても止められない。
忘れられないんだ。いや、忘れたくないのかもしれないね。だから態と自分の中にその欠片を残してる。
きっと今も期待してるんだ。
あの子があの頃と変わらない様子でひょっこり目の前に現れて長くなった私の髪を見て
"ほら、やっぱりよく似合う"
そう言って嬉しそうに笑ってくれる。そんな来るはずの無い未来を。
「ほんと、馬鹿ばっかりだよねぇ」