(現パロ)書店員主様と🦋が喫茶店に行く話
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※このページ以降、名前変換機能が使えます。未入力の場合、「まの」と呼ばれます。(名前は「あるじさ『まの』お名前」が由来で、深い意味はありません。)変更する場合、上のボタンから好きなお名前をご入力ください。🫶
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さっきまで私がしゃがんでいた場所は、お兄さんの目的地である喫茶店の下階にある店の前だったようだ。
お兄さんが「冷えるといけないから」と一緒に喫茶店に入るよう誘ってくれたので、私はその背中の後ろについてき、階段を登った。
十数歩ほど階段を登ると、少し年季の入った木製のドアと「喫茶トロイメライ」と書かれた看板が目に入った。店名の横には、小さく蝶のイラストが寄り添っている。
ドアを開けると、すこし床が軋む音と共に、ほんのりと甘い香りが漂ってきた。
店に入るなりお兄さんはカウンターの店主に声をかけ、奥の方にある暖炉の前の席を案内してくれた。そして店主に何か聞きに行ったと思うと、戻ってくるお兄さんの腕には、バスタオルとブランケットが抱えられていた。
少し気が引けたが、店主の方を見ると目元を緩めて静かに頷いてくれたので、ありがたく好意に甘えることにする。
ふわふわのバスタオルとブランケットに身を包むと、雨でずぶ濡れになった冷たい体に、その暖かさと柔らかさがじんわり染み入ってくる。
暖炉のパチパチと爆ぜる音が耳に心地良い。
お兄さんは店主と親しげに言葉を交わしている。この店の常連なのかもしれない。
暖炉の前にいるうちに、冷たかった頬が暖かさを取り戻してきたので、店内を見回す。
アンティーク調の家具に囲まれた店内は、少し狭めだが、晴れたら日当たりの良さそうな立地に建っている。暖炉のそばの大きめの半円窓を見ると、雨がリズムよくガラスを打って流れている。
壁面には本棚がみっちりと並んでいる。本はどれも埃を被っておらず、何冊か抜き出した跡がある。
客はお兄さんと私の他に、誰も居ない。
ぱっと見て上階に喫茶店があると気づかない外観だったので、街の喧騒を避け、静かに営んでいるのかもしれない。
店主との話が終わったお兄さんが戻ってきて、席の向かいの椅子を引きながら、「少し落ち着きましたか?」と声をかけてくれた。
私がこくりと頷くと、お兄さんは少し安心したように微笑む。
その笑顔に胸のあたりがほっと暖かくなるのを感じていると、お兄さんが店主に貰ってきたメニューブックを開いてこちらに見せてくれた。
「ここのカフェ、メニューを頼んだら好きなだけ本が読めるんです。どれか頼みたいものはありますか?」
こちらの様子を気遣いながらも、どこかわくわくした様子のお兄さんが、そう声をかけてくる。
お兄さんがこの喫茶店の常連になる理由が、なんとなく分かった気がした。
とはいえ、ポケットの中にはスマートフォン、職場のロッカーの鍵、自宅の鍵に加えて、緊急時用の小さいコインケースしか持ってきていない(ロッカーに入れっぱなしの荷物について、この時やっと思い出した)。
しかも間の悪いことに、コインケースの中には大きめの硬貨が1枚寂しく転がっている記憶しかない。
スマホ決済は使えますか...?とお兄さんにおそるおそる尋ねると、お兄さんは「あ、大丈夫ですよ...!俺が出しますから」と頭を振る。
それは流石に...とコインケースを開けるが、予想通り大きい硬貨1枚しか入っていない。メニューに載っている一番安いメニューを頼むには、もう少し小さい硬貨1枚分不足している。
水を持ってきてくれた店主にお兄さんが確認を取ると、どうやら支払い方法は現金のみらしい。
泣きそうになりながら事情を説明すると、お兄さんは少し笑って、
「本当に大丈夫ですよ。俺も、最近あんまり人と一緒に来ていなくて、ちょっと寂しかったので...」と、少し俯いて微笑む。
前は誰かと一緒に来ることがあったのだろうか。
思わず探ってしまう思考を振り切り、やはり申し訳ないと私が主張を重ねた結果、今度職場の本屋に来たときにお返しする、と言う形で合意を得たのだった。
「...というわけで、どれが良いですか?」
お兄さんがにこにこと差し出してきたメニューを、少し身を乗り出して覗き込む。
メニュー名の下にはスケッチのようにラフなイラストが描かれており、どれも魅力的にキラキラと輝いて見える。
トロイメライブレンド。
苺ミルク。
レモンハーブティー。
ホット抹茶ラテ。
見ているだけでも心が踊るようなメニューを眺めていると、そのうちの1つに目が吸い寄せられる。
チョコウィンナーコーヒー。
メニューのイラストを見ると、ウィンナーコーヒーの雲のようなホイップの上に、甘美なチョコレートシロップがとろり、と掛けられている。
「これにします」
魔法か何かに操られるように私が指を差すと、お兄さんがメニューをみつめていた目線を上げて、にこっと微笑んだ。
「じゃあ、俺もそれで」
お兄さんはメニューを持って店主のところに行くと、注文を伝えてくれているような会話が聞こえてくる。
店主のことを名前で呼んでいるので、やはり長く通っているようだ。
あまり聞き耳を立ててもいけないと思い、目線を本棚に移す。
興味のありそうな背表紙を探しているうちに、お兄さんが忘れていった本と同じ著者の名前が目に入ってきて、やっと職場を飛び出した目的を思い出した。
注文を終えて戻ってきたお兄さんに忘れ物の本を渡し、これまで経緯をたどたどしく説明する。
お兄さんは顔を赤くしたり青くしたりしながらも、ゆっくりと話を聞いてくれていたが、
私が話し終わると、
「ありがとうございます。...でも、俺のせいで...」
としょぼんと背中を丸めてしまった。
私は慌てて、私が勝手にしたことだし、こうして無事に渡せたし、お兄さんのお陰で素敵な喫茶店まで知れて良かった、という旨を捲し立てるように伝える。
さっきまで世界の終わりのように泣いていた自分が、こうやって人を励ましているなんて、なんだか不思議だ。
お兄さんは少しの間、潤んだ瞳でテーブルの上の氷水を見つめていたが、私の言葉が終わると、ちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。
そして下を向いて少し考えるような仕草をすると少し迷うように、
「あの...もし嫌でなければ、お名前をお聞きしてもいいですか?」
と尋ねてきた。
突然お兄さんが名前を聞いてきた事に内心驚きながら、なんとか声を絞り出す。
するとお兄さんは、睫毛に縁取られた、黄色や橙色の宝石を閉じ込めたような瞳を真っ直ぐこちらに向けて、
「まのさん。...俺を探しに来てくれて、本当にありがとうございます」
と、優しく微笑んだ。
この世の不安を全て吹き飛ばすかのような美しすぎる笑顔と、突然名前を呼ばれた驚きで、しばらく体の機能が停止してしまう。
...このお兄さん、内気そうに見えて、意外と大胆なのかも..........?
逃げるようにその瞳から目を逸らし、氷水に口をつけると、冷えたガラスコップの冷たい感触とともに、ほのかなレモンの香りがした。
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さっきまで私がしゃがんでいた場所は、お兄さんの目的地である喫茶店の下階にある店の前だったようだ。
お兄さんが「冷えるといけないから」と一緒に喫茶店に入るよう誘ってくれたので、私はその背中の後ろについてき、階段を登った。
十数歩ほど階段を登ると、少し年季の入った木製のドアと「喫茶トロイメライ」と書かれた看板が目に入った。店名の横には、小さく蝶のイラストが寄り添っている。
ドアを開けると、すこし床が軋む音と共に、ほんのりと甘い香りが漂ってきた。
店に入るなりお兄さんはカウンターの店主に声をかけ、奥の方にある暖炉の前の席を案内してくれた。そして店主に何か聞きに行ったと思うと、戻ってくるお兄さんの腕には、バスタオルとブランケットが抱えられていた。
少し気が引けたが、店主の方を見ると目元を緩めて静かに頷いてくれたので、ありがたく好意に甘えることにする。
ふわふわのバスタオルとブランケットに身を包むと、雨でずぶ濡れになった冷たい体に、その暖かさと柔らかさがじんわり染み入ってくる。
暖炉のパチパチと爆ぜる音が耳に心地良い。
お兄さんは店主と親しげに言葉を交わしている。この店の常連なのかもしれない。
暖炉の前にいるうちに、冷たかった頬が暖かさを取り戻してきたので、店内を見回す。
アンティーク調の家具に囲まれた店内は、少し狭めだが、晴れたら日当たりの良さそうな立地に建っている。暖炉のそばの大きめの半円窓を見ると、雨がリズムよくガラスを打って流れている。
壁面には本棚がみっちりと並んでいる。本はどれも埃を被っておらず、何冊か抜き出した跡がある。
客はお兄さんと私の他に、誰も居ない。
ぱっと見て上階に喫茶店があると気づかない外観だったので、街の喧騒を避け、静かに営んでいるのかもしれない。
店主との話が終わったお兄さんが戻ってきて、席の向かいの椅子を引きながら、「少し落ち着きましたか?」と声をかけてくれた。
私がこくりと頷くと、お兄さんは少し安心したように微笑む。
その笑顔に胸のあたりがほっと暖かくなるのを感じていると、お兄さんが店主に貰ってきたメニューブックを開いてこちらに見せてくれた。
「ここのカフェ、メニューを頼んだら好きなだけ本が読めるんです。どれか頼みたいものはありますか?」
こちらの様子を気遣いながらも、どこかわくわくした様子のお兄さんが、そう声をかけてくる。
お兄さんがこの喫茶店の常連になる理由が、なんとなく分かった気がした。
とはいえ、ポケットの中にはスマートフォン、職場のロッカーの鍵、自宅の鍵に加えて、緊急時用の小さいコインケースしか持ってきていない(ロッカーに入れっぱなしの荷物について、この時やっと思い出した)。
しかも間の悪いことに、コインケースの中には大きめの硬貨が1枚寂しく転がっている記憶しかない。
スマホ決済は使えますか...?とお兄さんにおそるおそる尋ねると、お兄さんは「あ、大丈夫ですよ...!俺が出しますから」と頭を振る。
それは流石に...とコインケースを開けるが、予想通り大きい硬貨1枚しか入っていない。メニューに載っている一番安いメニューを頼むには、もう少し小さい硬貨1枚分不足している。
水を持ってきてくれた店主にお兄さんが確認を取ると、どうやら支払い方法は現金のみらしい。
泣きそうになりながら事情を説明すると、お兄さんは少し笑って、
「本当に大丈夫ですよ。俺も、最近あんまり人と一緒に来ていなくて、ちょっと寂しかったので...」と、少し俯いて微笑む。
前は誰かと一緒に来ることがあったのだろうか。
思わず探ってしまう思考を振り切り、やはり申し訳ないと私が主張を重ねた結果、今度職場の本屋に来たときにお返しする、と言う形で合意を得たのだった。
「...というわけで、どれが良いですか?」
お兄さんがにこにこと差し出してきたメニューを、少し身を乗り出して覗き込む。
メニュー名の下にはスケッチのようにラフなイラストが描かれており、どれも魅力的にキラキラと輝いて見える。
トロイメライブレンド。
苺ミルク。
レモンハーブティー。
ホット抹茶ラテ。
見ているだけでも心が踊るようなメニューを眺めていると、そのうちの1つに目が吸い寄せられる。
チョコウィンナーコーヒー。
メニューのイラストを見ると、ウィンナーコーヒーの雲のようなホイップの上に、甘美なチョコレートシロップがとろり、と掛けられている。
「これにします」
魔法か何かに操られるように私が指を差すと、お兄さんがメニューをみつめていた目線を上げて、にこっと微笑んだ。
「じゃあ、俺もそれで」
お兄さんはメニューを持って店主のところに行くと、注文を伝えてくれているような会話が聞こえてくる。
店主のことを名前で呼んでいるので、やはり長く通っているようだ。
あまり聞き耳を立ててもいけないと思い、目線を本棚に移す。
興味のありそうな背表紙を探しているうちに、お兄さんが忘れていった本と同じ著者の名前が目に入ってきて、やっと職場を飛び出した目的を思い出した。
注文を終えて戻ってきたお兄さんに忘れ物の本を渡し、これまで経緯をたどたどしく説明する。
お兄さんは顔を赤くしたり青くしたりしながらも、ゆっくりと話を聞いてくれていたが、
私が話し終わると、
「ありがとうございます。...でも、俺のせいで...」
としょぼんと背中を丸めてしまった。
私は慌てて、私が勝手にしたことだし、こうして無事に渡せたし、お兄さんのお陰で素敵な喫茶店まで知れて良かった、という旨を捲し立てるように伝える。
さっきまで世界の終わりのように泣いていた自分が、こうやって人を励ましているなんて、なんだか不思議だ。
お兄さんは少しの間、潤んだ瞳でテーブルの上の氷水を見つめていたが、私の言葉が終わると、ちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。
そして下を向いて少し考えるような仕草をすると少し迷うように、
「あの...もし嫌でなければ、お名前をお聞きしてもいいですか?」
と尋ねてきた。
突然お兄さんが名前を聞いてきた事に内心驚きながら、なんとか声を絞り出す。
するとお兄さんは、睫毛に縁取られた、黄色や橙色の宝石を閉じ込めたような瞳を真っ直ぐこちらに向けて、
「まのさん。...俺を探しに来てくれて、本当にありがとうございます」
と、優しく微笑んだ。
この世の不安を全て吹き飛ばすかのような美しすぎる笑顔と、突然名前を呼ばれた驚きで、しばらく体の機能が停止してしまう。
...このお兄さん、内気そうに見えて、意外と大胆なのかも..........?
逃げるようにその瞳から目を逸らし、氷水に口をつけると、冷えたガラスコップの冷たい感触とともに、ほのかなレモンの香りがした。
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