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1章 出会い

「マコすけ、口開いてんぞ」

同僚に言われ、咄嗟に自分の口を手で覆った。
ピークタイムを迎えた店内は賑わっており、自分たちは客に紛れる形で見学をしている。
口に手を当てたまま、隣の同僚に耳打ちする。

「な~」
「んだよ」
「一目惚れ、したかも」
「ふーん。この系統は珍しくね?」
「確かに今までとは違う雰囲気なんやけど……」
「マコすけはもっと派手めのフクが好きなイメージだったわ」

噛み合わない会話。
同僚の視線を追うと、自分が無意識の内に手に取っていたシンプルなTシャツがあった。

「いやフクの話ちゃうわ!」
「じゃあなんだよ」
「あさぎさん」
「誰?」
「さっき入り口で出迎えてくれたやん、オーナーさんがそう呼んでた」
「あぁ……あのボーイの名前……はっ!?一目惚れぇ!?」
「ちょ、声でかいて」

周辺の客が驚いたように振り向いたが、すぐにそれぞれの日常に戻っていく。
二人の間にぽっかり空いた沈黙に流れ込むように、女学生と思しき客らの会話が耳に入った。

「も~はやく連絡先渡しちゃいなよ〜!」
「無理だよ〜……!あさぎさん絶対彼女いるって!」

分かる。分かってんよ、こちとら長年ゲイなんやし。
自分が、彼の恋愛対象に掠りもしないことは自覚している。

「…悪いけど、俺もそう思う」
「別にええよ」
「いいんだ」
「誰だって綺麗なものは見て愛でたいやろ。カチョーフーゲツ的なやつやん。そんだけ」
「ふ~ん……俺には理解できん世界だわ。それよりもあの可愛い店員ちゃんのおっぱいの方が気になる。俺は遠目に見るだけじゃ満足できないけどな」
「俺はそっちのが理解できんわ〜」
「マジで気ぃ合わねえな」
「今に始まったことやないやん」
「そうだな」
「報告書書かなあかんのやし、真面目に見ぃや」
「いやこっちのセリフだわ!」

同僚とは趣味も価値観も合わないが、素でいられる分、居心地は悪くなかったりする。
動揺が少し和らいだ。
改めて、あさぎさんを目で追ってみる。
これは下心やなくて、仕事。

ベストなタイミングで声をかけ、バイトの子に指示を出し……
レジで客を待たせることもなく、お見送りもバッチリ。
客一人ひとりをよく見ている きめ細やかな接客だなと感心する。
彼が数少ない社員の一人だというのも納得だ。

ほんのひととき、客足が落ち着いたタイミングで服を畳み、次の客が気持ちよく手に取れるよう備える。
フクを畳む姿も綺麗やな……。
優しく撫でて皺を伸ばし、手際良く陳列していく。
いや、なんかもう……綺麗っていうか……エロい、はい。エロいです。
決して下心ではないんやけど。
フク畳んでるだけでこんなエロいヒト、見たことないわ。
手大きいけど、器用やな。俺もフクになって優しく撫でられた……

「だから、くち」
「んむっ」

慌てて再び口を覆った。
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