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1章 出会い

帰省や旅行客で賑わう車窓から、過ぎ去っていく景色をぼんやりと眺めていた。
クリスマスが過ぎ、世間はあっという間に年末ムード。
長期休暇で浮足立った世の中を後目に、接客業は繁忙期の真っ只中だ。

こんな時期に研修で遠方出張……。
隣には「可愛いガールちゃんとの出会いねぇかな~」と浮かれた同僚。
ため息ひとつもつきたくなるような状況だが、飲み込んで調子を合わせた。

「ハイカラスクエアって清楚な感じの子とか多そうなイメージやわ~」
「良い!!俺、夜は清楚可愛いガールちゃんとワンナイトの予定だから、ホテルの部屋は広々使いたまえ」
「はいはい」
「マコすけも良いボーイとの出会いあるといいな」
「お気遣いど~も~」

退屈を掌の上で転がしながら、電車は目的地に向かって走っていく。
窓の外には、腹立たしいぐらい脳天気な青空が広がっていた。


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ハイカラスクエアに到着し、ホテルに荷物を預け、同僚と共に研修場所へと向かう。
自分たちの住んでいるバンカラ街とは違い、空気が澄んで呼吸がしやすい。

「ハイカラスクエア、初めて来た」
「俺も」
「…今思ってること、せーので言おうぜ。せーの」
「「ゴミがない」」
「24時間体制でゴミ拾いしてんちゃう?」
「そうとしか思えん」

三十路間近の大人ふたりとは思えないしょうもない話題でケラケラと笑った。

研修場所である店舗は、メイン通りから少し離れた落ち着いた場所にあった。
自分たちの働く店はアクセサリーショップだが、この店舗では洋服をメインに扱っているそう。
なんでも店長の知り合いが経営する店で、接客が良いと評判なんだとか。
今日はその接客を見学させてもらうことになっている。

事前の約束通り、従業員入り口へ向かうと担当者と思われる青年が立っていた。

その姿を見て、時が止まったように錯覚した。
心がざわつく。
知り合いでもない、初対面の相手に。

なぜかというと、

(……やば~…め~~っちゃタイプなんやけど…)

青年はこちらに気付くと一礼してにこっと柔らかく微笑んだ。
笑った、じゃなくて『微笑んだ』なのがミソなんよ。

一言で表すならば、清楚という言葉がよく似合う。
シロシャツにヒッコリーワークキャップというシンプルなコーディネートが、すらっとした身体と綺麗な肌を引き立てていた。

身体もそうなんやけど、マジで顔が良い。
大人っぽい整った顔立ちやけど、ぱっちりした目と微笑んだ時にできるえくぼがちょこっとあどけなさをプラスしていて、良い。
たまらなく、良い。

(え~…こんな好みなことある…?)

動揺を押し殺すことだけで精一杯で、誤魔化すように同僚の一歩後ろについた。

「こんにちは、バンカラ店の方ですよね」
「そーです!今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。オーナーから伺ってますので、どうぞ」

青年は扉を支えながら入室を促す。近づいて会釈すると、「段差になっているので、気を付けてくださいね」と優しく言われ、思わず目を逸らしたくなった。
なんとか平静を装いながら「ありがとうございます~」と返すと、にこっと近くで笑顔を向けられて、どうにかなりそうだった。

(こんなドタイプのヒトがおる店に一日中おらなあかんの…?夜の飲み会も、多分このヒトもくるんよな…え~……正気でいられる自信ないんやけど……)

初手から不安だらけの研修が始まった。
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