歌と春風
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Helter Skelterと書かれた看板には、そこが開いている事を告げる明かりが灯っている。彼女に出会うまではそれなりに頻繁に顔を出していたが、すっかりご無沙汰になってしまった。カラン、と小気味いい音を立てて扉を開ければ、昔馴染みの1人がカウンターの向こう側で顔を上げた。
「あれ、ウーさん久しぶり」
やあ、と手を挙げて入れば、早々にニヤついた笑みを浮べてグラスをカウンターに置いた。ここに座れ、と口に出さずに喋ってくる。それがわかるのだから、伊達に10年以上も関わっていない。グラスに注がれた真っ赤なお酒に口をつけるのと、昔馴染みが口を開いたのはほぼ同時だった。
「ウーさんともあろう人が何か悩み事かい?」
至極楽しそうにケタケタと笑う。イトリさんは人が困っている話とか悩んでいる話とか、そんな話が大好きだ。僕がその標的になるような話を持っていると気付くあたり、勘が鋭い。この人には適わないなぁ。
「今日さ、女の子に好きだって言われたんだ」
「うんうん、自慢話かな?」
「そうじゃなくて、僕も嫌いじゃなかったし好きだって言ったら泣いちゃったんだよねぇ」
なんでかな?、と首を捻るけれど、答えなど出ない。いつでも彼女は笑っているし、実際には泣いていなかった。むしろ、口元はちゃんと弧を描いていた。けれど、今にも泣き出しそうに見えたのはどうしてだろう。どうしてそう見えたのかも分からないし、どうして彼女がそんな顔をしたのかも分からない。分からない事だらけだ。
「ウーさんも罪な男だねぇ」
意味がわからなくて首を傾げるけれど、イトリさんは此方なんてお構い無しで、掌を上にして小さく手を広げてどこか上の方を見る。
「て言うか、その子も物好きねぇ。」
思わず、え、と声を出してしまったが、だまって続きを促した。恐らく、この昔馴染みはまだ僕の質問に答えてくれる気はない。
「確かにウーさんは男前だけど、見た目取っ付き難いし、取っ付いてみれば独特だし、よくまぁ好きになったわね」
褒めてはくれたけれど、酷い言われようだ。いくら僕でも傷付くなぁ、なんて心にも無い事を言ってもお見通し。見事にスルーされた。
「で、なんで泣いてたのかな?」
「じゃあ、ウーさんの"好き"ってのはどんな意味なんだい?」
やっとこちらを見たかと思えば、僕の質問に関係があるのかないのか分からない答え。好きに意味なんてあるのだろうか。彼女に会うとお腹が空くのは、好きだから?じゃあ、食べたくないと思うのは、好きじゃないから?考えれば考える程分からなくなっていく。沈黙している僕に、目の前の昔馴染みは面白いオモチャを見るような笑顔をしていた。彼女とは似ても似つかない笑顔だ。
「好きだし美味しそうだけど、食べたくないとも思うよ。すごく面白くて、ずっと見てたいんだ」
食べてしまったら、あの笑顔も、赫眼をキレイだと言う声も、春風のような歌も、全部なくなってしまうから。好きだけど、食べてしまいたくない。
「………ウーさんの恋の相手が人間だなんて…。」
ため息とともに手を合わせて拝まれた。
「白鳩を連れてくるのだけは止めてよね」
彼女は白鳩ではないし、例え連れてくることになったとしてもイトリさんなら大丈夫だろう。それより、僕の恋とはなんの事か。恋という言葉は知っているけれど、僕のどの状況が恋だと言うのか。
「ま、ウーさんのしたいようにすればいいんじゃない?幸いにもその子はウーさんの事好きだって言ってるんだし」
その内分かるわよ、と情報屋らしからぬ返答だったけれど、なんだか吹っ切れたような気がした。結局何も解決はしていないけれど、彼女には笑っていて欲しいと確かに思った。
「ありがとう、イトリさん。」
はやく、あの暖かい風に包まれたいなぁ。
「あれ、ウーさん久しぶり」
やあ、と手を挙げて入れば、早々にニヤついた笑みを浮べてグラスをカウンターに置いた。ここに座れ、と口に出さずに喋ってくる。それがわかるのだから、伊達に10年以上も関わっていない。グラスに注がれた真っ赤なお酒に口をつけるのと、昔馴染みが口を開いたのはほぼ同時だった。
「ウーさんともあろう人が何か悩み事かい?」
至極楽しそうにケタケタと笑う。イトリさんは人が困っている話とか悩んでいる話とか、そんな話が大好きだ。僕がその標的になるような話を持っていると気付くあたり、勘が鋭い。この人には適わないなぁ。
「今日さ、女の子に好きだって言われたんだ」
「うんうん、自慢話かな?」
「そうじゃなくて、僕も嫌いじゃなかったし好きだって言ったら泣いちゃったんだよねぇ」
なんでかな?、と首を捻るけれど、答えなど出ない。いつでも彼女は笑っているし、実際には泣いていなかった。むしろ、口元はちゃんと弧を描いていた。けれど、今にも泣き出しそうに見えたのはどうしてだろう。どうしてそう見えたのかも分からないし、どうして彼女がそんな顔をしたのかも分からない。分からない事だらけだ。
「ウーさんも罪な男だねぇ」
意味がわからなくて首を傾げるけれど、イトリさんは此方なんてお構い無しで、掌を上にして小さく手を広げてどこか上の方を見る。
「て言うか、その子も物好きねぇ。」
思わず、え、と声を出してしまったが、だまって続きを促した。恐らく、この昔馴染みはまだ僕の質問に答えてくれる気はない。
「確かにウーさんは男前だけど、見た目取っ付き難いし、取っ付いてみれば独特だし、よくまぁ好きになったわね」
褒めてはくれたけれど、酷い言われようだ。いくら僕でも傷付くなぁ、なんて心にも無い事を言ってもお見通し。見事にスルーされた。
「で、なんで泣いてたのかな?」
「じゃあ、ウーさんの"好き"ってのはどんな意味なんだい?」
やっとこちらを見たかと思えば、僕の質問に関係があるのかないのか分からない答え。好きに意味なんてあるのだろうか。彼女に会うとお腹が空くのは、好きだから?じゃあ、食べたくないと思うのは、好きじゃないから?考えれば考える程分からなくなっていく。沈黙している僕に、目の前の昔馴染みは面白いオモチャを見るような笑顔をしていた。彼女とは似ても似つかない笑顔だ。
「好きだし美味しそうだけど、食べたくないとも思うよ。すごく面白くて、ずっと見てたいんだ」
食べてしまったら、あの笑顔も、赫眼をキレイだと言う声も、春風のような歌も、全部なくなってしまうから。好きだけど、食べてしまいたくない。
「………ウーさんの恋の相手が人間だなんて…。」
ため息とともに手を合わせて拝まれた。
「白鳩を連れてくるのだけは止めてよね」
彼女は白鳩ではないし、例え連れてくることになったとしてもイトリさんなら大丈夫だろう。それより、僕の恋とはなんの事か。恋という言葉は知っているけれど、僕のどの状況が恋だと言うのか。
「ま、ウーさんのしたいようにすればいいんじゃない?幸いにもその子はウーさんの事好きだって言ってるんだし」
その内分かるわよ、と情報屋らしからぬ返答だったけれど、なんだか吹っ切れたような気がした。結局何も解決はしていないけれど、彼女には笑っていて欲しいと確かに思った。
「ありがとう、イトリさん。」
はやく、あの暖かい風に包まれたいなぁ。