歌と春風
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連絡する、とは言ったものの、いったいどんな連絡をすればいいのか。さっぱりわからず、数日が過ぎた。普段、誰かと連絡を取り合うなんてした事がないから、いくら考えても何も浮かんでこない。作業台に置かれたカードを横目に、これまた普段ほぼ使うことの無いスマホを手に取って11桁の番号を入力した。タップすれば一瞬で繋がってしまう緑色の丸をじっと見つめて、背もたれへと身体を預けた。連絡する、と言ったのだから、とりあえず電話だけでもしてみようかな。ゆるりと立ち上がって、店のドアに掛けられた札をCLOSEにしてから、緑へと触れた。プルル…と電子音が流れだし、再び作業台の前の椅子に座った時。2コールだったか3コールだったか、とにかく、思いの外それは早く繋がった。
「は、はい、もしもし…!」
緊張を含んだ声が届く。まだ数回しか会っていないのに、彼女の緊張した表情が目に浮かぶ。ふふ、と思わず笑ってしまった自分に驚いた。彼女とのやりとりを面白がっているなんて。
「こんばんは」
「ウタさん…ですか?」
そう。と短く返せば、よかったー、と間延びした返事が返ってきた。
「もう連絡もらえないんじゃないかと思いました」
小さくポツリと零れた声は、しっかりと僕の耳に響く。これは、喰種の耳のおかげなのか、はたまた彼女の声がよく響くのか、彼女のどんな小さな呟きでも僕は聞き逃さないような気がする。
「うん。遅くなって、ごめんね?」
いえ、と言う彼女の声は、まだ何かを話したそうにしていたから、黙って続きを促す。
「急すぎてダメだったかなーとか、わたしも連絡先きいておけばよかったーとか、いろいろ、いっぱい考えてました。ウタさんの事。」
静かに、穏やかに、けれどしっかりと話す彼女。
「いっぱい考えて、寂しくって仕方なかったのに…ちょっと声聞いただけで全部ふっとんじゃいました!」
ふふふ、と聞こえる笑い声と、1番最初に見たふわりとした笑顔がリンクする。そっか、と短く返せば、ゴクリ、と小さく喉が鳴るのが聞こえた。
「わたしからも…電話とかメールとか、していいですか?」
「勿論」
電話の向こうから盛大に、けれどひっそりと息を吐く音が聞こえた。よかった、とそれはそれは小さな声で呟かれた言葉も、僕の耳にはしっかりと届いた。もしかしたら、彼女すら僕に聞こえているなんて思っていないかもしれない。どこにも居ないのに、彼女の甘い香りが漂ってきた気がした。少し沈黙が続いたのを切っ掛けに、その日の電話は終わった。おやすみなさい、と言って切られた電話からは、ツーツー、と終了を告げる電子音。彼女はどうして僕に、こんなにも沢山の表情や感情を見せるのだろう。彼女の一喜一憂全てが伝わってくる。今度会った時にでも聞いてみよう。普段使わない手の中のそれに映る彼女の名前をそっとなぞった。指先が、内臓が、じんわりと暖かくなるような感覚がした。お腹、空いたな。
「は、はい、もしもし…!」
緊張を含んだ声が届く。まだ数回しか会っていないのに、彼女の緊張した表情が目に浮かぶ。ふふ、と思わず笑ってしまった自分に驚いた。彼女とのやりとりを面白がっているなんて。
「こんばんは」
「ウタさん…ですか?」
そう。と短く返せば、よかったー、と間延びした返事が返ってきた。
「もう連絡もらえないんじゃないかと思いました」
小さくポツリと零れた声は、しっかりと僕の耳に響く。これは、喰種の耳のおかげなのか、はたまた彼女の声がよく響くのか、彼女のどんな小さな呟きでも僕は聞き逃さないような気がする。
「うん。遅くなって、ごめんね?」
いえ、と言う彼女の声は、まだ何かを話したそうにしていたから、黙って続きを促す。
「急すぎてダメだったかなーとか、わたしも連絡先きいておけばよかったーとか、いろいろ、いっぱい考えてました。ウタさんの事。」
静かに、穏やかに、けれどしっかりと話す彼女。
「いっぱい考えて、寂しくって仕方なかったのに…ちょっと声聞いただけで全部ふっとんじゃいました!」
ふふふ、と聞こえる笑い声と、1番最初に見たふわりとした笑顔がリンクする。そっか、と短く返せば、ゴクリ、と小さく喉が鳴るのが聞こえた。
「わたしからも…電話とかメールとか、していいですか?」
「勿論」
電話の向こうから盛大に、けれどひっそりと息を吐く音が聞こえた。よかった、とそれはそれは小さな声で呟かれた言葉も、僕の耳にはしっかりと届いた。もしかしたら、彼女すら僕に聞こえているなんて思っていないかもしれない。どこにも居ないのに、彼女の甘い香りが漂ってきた気がした。少し沈黙が続いたのを切っ掛けに、その日の電話は終わった。おやすみなさい、と言って切られた電話からは、ツーツー、と終了を告げる電子音。彼女はどうして僕に、こんなにも沢山の表情や感情を見せるのだろう。彼女の一喜一憂全てが伝わってくる。今度会った時にでも聞いてみよう。普段使わない手の中のそれに映る彼女の名前をそっとなぞった。指先が、内臓が、じんわりと暖かくなるような感覚がした。お腹、空いたな。