歌と春風
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そらから再会するのにさほど時間はかからなかった。繁華街でギターを背負って歩く姿を見かけた。一方的な再会だ。視線はしっかりと前を向いていて、どうやら目的があるようだったので、その時は声を掛けずにその場を後にした。
それから数日経った頃。また駅前で歌っている姿を見付けた。彼女はこちらに気付いていない。ずっと忘れられない甘い匂いが、この距離をも超えて漂ってくる。やっぱり、美味しそう。ゆっくりと近付けば、彼女もまた僕に気付いて小さく手を振った。歌い始めたばかりなのか、今日もまだ足を止めている人はいなかった。顔も歌も匂いもいいと思うんだけどな、僕は。
「ウタさん!」
「こんばんは」
1曲歌い終わると、前みたいに目の前にしゃがむ僕と同じように、しゃがんで視線を絡めてきた。会えて嬉しいです、とふわりと笑む姿に胸の奥なのかお腹の奥なのかわならない、その辺の内臓がぞくりとした。お腹が空いてるのかな?お腹に手をやって首を傾げると、彼女の大きな瞳がパチパチと数回瞬いた。
「お腹、空いてるんですか?」
瞬いた後にふわりと笑みを浮かべて上げた声は、それはそれは楽しそうに響いた。彼女に噛み付いて腕の1本でも食べればこの感覚はなくなるのだろうか。よくわからない。ごくり、と唾液と食欲を飲み込んで立ち上がる。今日はもう彼女の傍にいるのは止めよう。そうみたい、と曖昧に返せば、夕飯の時間ですもんね〜、といつもと変わらない口調で言いながら顔が少し強ばって見えた。
「何か食べて来ようかな」
またね、と背中を向けて手を振る。食べる事ばっかり考えていたら、本当にお腹が空いてきたような気がする。手頃に食べ物があるといいんだけど。そんな事を考えながら2・3歩足を踏み出した時、つん、と袖が引かれる感覚がして足を止めた。
「あ、あの…これ…!」
袖を掴んだのは彼女で、真っ赤な顔をして真っ直ぐに見つめてくる。袖を掴んでいない方の手には名刺程のカードが握られていた。微かに震える手からそれを受け取ると、安堵の表情が広がった。丁寧な字で、漢字と数字とアルファベットが書かれたそれは、どうやら前もって作っていたようで、可愛らしく装飾がされていた。
「連絡、待ってます…!」
真剣な顔は変わらず真っ赤に染まっていて、まるで熟れた果実のようだ。美味しそう。もっと仲良くなったら、味見くらいさせてくれるだろうか。もっともっと仲良くなったら、色んな所を食べさせてくれるだろうか。そんな興味が湧いて、今は食べる時じゃない、と自分の中で結論づけた。
「連絡するね」
僕が笑いかけると、それまで強ばっていた顔にも漸く笑みが浮かんだ。こくり、と頷くのを見届けて、本格的に湧いてきた食欲を満たしに足を進めた。
それから数日経った頃。また駅前で歌っている姿を見付けた。彼女はこちらに気付いていない。ずっと忘れられない甘い匂いが、この距離をも超えて漂ってくる。やっぱり、美味しそう。ゆっくりと近付けば、彼女もまた僕に気付いて小さく手を振った。歌い始めたばかりなのか、今日もまだ足を止めている人はいなかった。顔も歌も匂いもいいと思うんだけどな、僕は。
「ウタさん!」
「こんばんは」
1曲歌い終わると、前みたいに目の前にしゃがむ僕と同じように、しゃがんで視線を絡めてきた。会えて嬉しいです、とふわりと笑む姿に胸の奥なのかお腹の奥なのかわならない、その辺の内臓がぞくりとした。お腹が空いてるのかな?お腹に手をやって首を傾げると、彼女の大きな瞳がパチパチと数回瞬いた。
「お腹、空いてるんですか?」
瞬いた後にふわりと笑みを浮かべて上げた声は、それはそれは楽しそうに響いた。彼女に噛み付いて腕の1本でも食べればこの感覚はなくなるのだろうか。よくわからない。ごくり、と唾液と食欲を飲み込んで立ち上がる。今日はもう彼女の傍にいるのは止めよう。そうみたい、と曖昧に返せば、夕飯の時間ですもんね〜、といつもと変わらない口調で言いながら顔が少し強ばって見えた。
「何か食べて来ようかな」
またね、と背中を向けて手を振る。食べる事ばっかり考えていたら、本当にお腹が空いてきたような気がする。手頃に食べ物があるといいんだけど。そんな事を考えながら2・3歩足を踏み出した時、つん、と袖が引かれる感覚がして足を止めた。
「あ、あの…これ…!」
袖を掴んだのは彼女で、真っ赤な顔をして真っ直ぐに見つめてくる。袖を掴んでいない方の手には名刺程のカードが握られていた。微かに震える手からそれを受け取ると、安堵の表情が広がった。丁寧な字で、漢字と数字とアルファベットが書かれたそれは、どうやら前もって作っていたようで、可愛らしく装飾がされていた。
「連絡、待ってます…!」
真剣な顔は変わらず真っ赤に染まっていて、まるで熟れた果実のようだ。美味しそう。もっと仲良くなったら、味見くらいさせてくれるだろうか。もっともっと仲良くなったら、色んな所を食べさせてくれるだろうか。そんな興味が湧いて、今は食べる時じゃない、と自分の中で結論づけた。
「連絡するね」
僕が笑いかけると、それまで強ばっていた顔にも漸く笑みが浮かんだ。こくり、と頷くのを見届けて、本格的に湧いてきた食欲を満たしに足を進めた。