歌と春風
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気が付いたら空腹が満たされ、手も服も血だらけだった。それからは彼女の甘い匂いが漂っていて、全てを悟った。やってしまった。彼女の前で食事はできないから、おやつをストックして気を付けていたのに。食べてしまっては気を付けていたなんて言えない。焦点の合わない視界にぼんやりと映る手元にはしっかりと人の腕らしき物が握られているのだから、もう逃れようもない。いっその事、自分の事でも食ってやりたい気分だ。打ちひしがれていると、ふわりと包まれた。いよいよ幻覚まで見えだしたのだと思ったけれど、噎せ返るほどのこの匂いは、柔らかくて暖かいこの感触は、紛れもなく彼女だった。あれ、生きてる?そしてこの匂いは、やっぱり食欲をそそる。ゆっくりと優しく背中を摩る彼女の手のお陰で、漸く蓮示くんの足元が視界に入った。あぁ、彼が助けてくれたのか。よかった。...よかった?いや、よくないよね。肩や腕から流れる血を見て、触れる事も心配する事もできなかった。これをやったのは紛れもなく自分なのだ。なのに、それなのに彼女は僕と目を合わせて笑ってくれる。優しく抱き締めて、未来の話をしてくれる。僕は彼女に甘えていいのだろうか。これ以上彼女を傷付けない為には一緒に居てはいけないと思う。けれどそばに居たいと、ずっとこうして触れていたいと、心の底から溢れてくる。彼女の、大丈夫です、と言う声が何度も降ってくるんだ。今度こそ、僕が全ての事から君を守るから、だから、どうか君と共に居たいと思う僕を許して欲しい。
抱き締める彼女はやっぱり華奢で、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうだった。顔をあげればふわりと笑ってくれる彼女に触れるだけのキスをした。
「蓮示くん、若葉ちゃんを守ってくれてありがとう。」
背を向けていた彼は、ちゃんと食えよ、と呟いて、包みを放って渡してくれた。そのまま無言で割れた窓から出ていったところで、漸く部屋の惨状を知った。はたはたと揺れるカーテンの下には、ベッドに硝子片と血が飛び散る惨劇が広がっている。そうだ、まずは彼女の傷の手当をしないと。
「若葉ちゃん、傷見せて」
服をずらすと現れる痛々しい噛み跡。消毒液を含ませた脱脂綿を当てるとピクリと肩が跳ねた。
「ごめんね、ちょっと我慢して」
「大丈夫です」
そう言って笑う彼女をそっと撫でる。こうすると必ず頭を擦り寄せてくるのが堪らなく可愛いと思う。肩と腕に巻いた包帯に、やっぱり触れられずにただただ凝視することしかできない。そんな僕の頬を彼女は両手で包み、顔を上げさせた。自然と絡む視線。彼女は笑ってはいなかった。真面目な顔で真っ直ぐに僕を見つめてくる。こんな表情、レアだ。
「人間だって傷は治ります。今は痛んでも、今だけです。」
だから大丈夫ですよ、と笑って僕の手を肩に乗せた。そのまま包帯を撫でるように僕の手を動かして、肩に乗せたまま彼女の手は離れていった。僕が触っても、いいんだ。触れているところから感じる彼女の温もりがもっと欲しくて、そのまま肩を引いて抱きしめた。彼女の甘い匂いと暖かい腕に包まれるのは、それはそれは心地よかった。もう絶対に君を傷付けたりなんてしないよ。心の中てひっそりと、固く誓った。
抱き締める彼女はやっぱり華奢で、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうだった。顔をあげればふわりと笑ってくれる彼女に触れるだけのキスをした。
「蓮示くん、若葉ちゃんを守ってくれてありがとう。」
背を向けていた彼は、ちゃんと食えよ、と呟いて、包みを放って渡してくれた。そのまま無言で割れた窓から出ていったところで、漸く部屋の惨状を知った。はたはたと揺れるカーテンの下には、ベッドに硝子片と血が飛び散る惨劇が広がっている。そうだ、まずは彼女の傷の手当をしないと。
「若葉ちゃん、傷見せて」
服をずらすと現れる痛々しい噛み跡。消毒液を含ませた脱脂綿を当てるとピクリと肩が跳ねた。
「ごめんね、ちょっと我慢して」
「大丈夫です」
そう言って笑う彼女をそっと撫でる。こうすると必ず頭を擦り寄せてくるのが堪らなく可愛いと思う。肩と腕に巻いた包帯に、やっぱり触れられずにただただ凝視することしかできない。そんな僕の頬を彼女は両手で包み、顔を上げさせた。自然と絡む視線。彼女は笑ってはいなかった。真面目な顔で真っ直ぐに僕を見つめてくる。こんな表情、レアだ。
「人間だって傷は治ります。今は痛んでも、今だけです。」
だから大丈夫ですよ、と笑って僕の手を肩に乗せた。そのまま包帯を撫でるように僕の手を動かして、肩に乗せたまま彼女の手は離れていった。僕が触っても、いいんだ。触れているところから感じる彼女の温もりがもっと欲しくて、そのまま肩を引いて抱きしめた。彼女の甘い匂いと暖かい腕に包まれるのは、それはそれは心地よかった。もう絶対に君を傷付けたりなんてしないよ。心の中てひっそりと、固く誓った。
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