歌と春風
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一緒に過ごすことが増えて分かったことがある。彼女は家の中でもよく歌う。鼻歌だったり、アカペラだったり、弾き語りだったり。とりわけベッドの上に胡座をかいて静かに弾き語ってる時は、それはそれは幸せそうに穏やかな春風が広がる。かと思えば時折嵐のように激しく吹き荒れる時もあった。そんな時はだいたい、床に座ってベッドに背もたれている。俯いて目元を隠す前髪からたまに覗く眉間のシワ。それを撫でて額にキスをすれば、はにかみ、そして笑う。穏やかでも激しくても暖かな風は、僕にとってはとても新鮮で刺激的だ。
そしてもう1つ分かったのは、彼女はあまり食べない。人間は朝昼晩と食事を摂るはずだけれど、僕と一緒にいる間に何かを口にしているのは何回かしか見たことがない。コーヒーを一緒に飲むくらいはあるけれど。『食事<歌』のようだ。それでも痩せていく事はないから、ずっとそんな生活を続けているのだろう。今日も今日とて、彼女は口ずさんでばかりで何かを食べる気配はない。
僕は僕で作製に夢中になると何も聞こえなくなることがあるらしく、気が付いたらお店の片隅でひっそりと歌う彼女が居ることも何度かあった。自分が熱中すると周りが見えなくなるタイプだったなんて。そんなことを逡巡しながら、彼女の歌を聞いているとまたアイディアが浮かんでくるんだから困ったものだ。堂々巡り、だなぁ。苦笑いを浮かべるけれど、これが幸せだと思ってしまうからついついそのままだ。彼女の目の前に座ってローテーブルにスケッチブックを開くと自分もまた没頭していった。
製作途中に空腹で集中を切らされた。お腹空いたなぁ、なんて悠長に思っていられるような空腹でなくて焦る。最後にご飯を食べたのは何時だったか。一体何時間マスク作りに没頭していたのか。今日は2人で過ごす初めての休日で、ずっと彼女と一緒にいたから、おやつも口にしていなかったような気がする。疼く胃袋に無意識に垂れてくる涎。心臓がとても早く鳴っている。ほんの少し空いていた窓から流れ込んできた風に乗って漂ってくる甘い馨しい匂い。なんて、食欲をそそる匂いだろう。匂いを辿って振り向けばそこには、大切な、とても愛しい、彼女がベッドに横たわって眠っている。安らかに眠る寝顔に、なんて美味しそうなんだと思う自分と愛しくて愛しくて堪らない自分とが存在していて、もう何が何だか分からない。少しだけ。いや、ダメだ。彼女の腕を鷲掴みにして、けれども危害を加えないようにと必死に抑える。腕に指がめり込む程には力が入っていて、痛みからか彼女の目がパチリと開いた。
「...っ!ウタさん!?」
微睡む暇も、寝ぼける余裕もなく、はっきりと発せられる声。彼女の腕にたてた爪から真っ赤な鮮血が流れる。つぅっと伝う血からは噎せ返るほどの甘い匂いが漂ってくる。プツリと何かが切れて、口中が甘いものでいっぱいになる。はぁ、おいしい...♥
そしてもう1つ分かったのは、彼女はあまり食べない。人間は朝昼晩と食事を摂るはずだけれど、僕と一緒にいる間に何かを口にしているのは何回かしか見たことがない。コーヒーを一緒に飲むくらいはあるけれど。『食事<歌』のようだ。それでも痩せていく事はないから、ずっとそんな生活を続けているのだろう。今日も今日とて、彼女は口ずさんでばかりで何かを食べる気配はない。
僕は僕で作製に夢中になると何も聞こえなくなることがあるらしく、気が付いたらお店の片隅でひっそりと歌う彼女が居ることも何度かあった。自分が熱中すると周りが見えなくなるタイプだったなんて。そんなことを逡巡しながら、彼女の歌を聞いているとまたアイディアが浮かんでくるんだから困ったものだ。堂々巡り、だなぁ。苦笑いを浮かべるけれど、これが幸せだと思ってしまうからついついそのままだ。彼女の目の前に座ってローテーブルにスケッチブックを開くと自分もまた没頭していった。
製作途中に空腹で集中を切らされた。お腹空いたなぁ、なんて悠長に思っていられるような空腹でなくて焦る。最後にご飯を食べたのは何時だったか。一体何時間マスク作りに没頭していたのか。今日は2人で過ごす初めての休日で、ずっと彼女と一緒にいたから、おやつも口にしていなかったような気がする。疼く胃袋に無意識に垂れてくる涎。心臓がとても早く鳴っている。ほんの少し空いていた窓から流れ込んできた風に乗って漂ってくる甘い馨しい匂い。なんて、食欲をそそる匂いだろう。匂いを辿って振り向けばそこには、大切な、とても愛しい、彼女がベッドに横たわって眠っている。安らかに眠る寝顔に、なんて美味しそうなんだと思う自分と愛しくて愛しくて堪らない自分とが存在していて、もう何が何だか分からない。少しだけ。いや、ダメだ。彼女の腕を鷲掴みにして、けれども危害を加えないようにと必死に抑える。腕に指がめり込む程には力が入っていて、痛みからか彼女の目がパチリと開いた。
「...っ!ウタさん!?」
微睡む暇も、寝ぼける余裕もなく、はっきりと発せられる声。彼女の腕にたてた爪から真っ赤な鮮血が流れる。つぅっと伝う血からは噎せ返るほどの甘い匂いが漂ってくる。プツリと何かが切れて、口中が甘いものでいっぱいになる。はぁ、おいしい...♥