歌と春風
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今日は久しぶりに駅前でギター片手に歌っていた。彼のお店に直接行ったり、イトリさんのお店に行ったりしていたので、実は本当に久しぶりだ。チューニングをして、昨晩考えてきたセットリスト通りに歌っていく。彼と初めて会った時に歌っていた曲、勇気を出そうといつも歌っていた曲、彼のことを思いながら書いた曲、襲われた日に...彼と付き合いだしたあの日に書いた曲。彼に会う前に書いた曲も、どれもこれも、音になると彼との思い出ばかりが溢れてくる。そう言えば、彼が唯一口吟んでくれた曲もあったな。お店で作業をしている時にふと歌っていたから、もしかしたら彼自身無意識でだったのかもしれないけれど、その曲がカバーとかではなく自分で作ったものだったから、すごく嬉しかったのを覚えている。つい数日前の事なのに、何だか懐かしくなって次に歌う曲を変更した。春の暖かな風の中キラキラと咲き誇る桜の曲だ。彼の口吟む声が聞こえてくる気がした。
お客さんがいればMCをしようと思っていたスペースで水を飲んで少し休憩していると、遠くに見知った顔を見付けた。その人もこちらを見ていて、目が合った瞬間、
「四方さん!」
頭より先に身体が動いていた。彼の友人で、まだ一度しか会ったことのない相手。しかも、おそらく好かれてはいないであろう人物だ。そんな人物に駆け寄って、わたしは一体何がしたいのか。少しハッとしたけれど、もう既に後戻りは出来なくなっている。
「こ、こんばんは」
「.....。」
返事も、会釈すらも返ってこない。けれど、目を少し丸くしている様には見えた。驚かせてしまっただろうか。
「ウタさんの所に行ってたんですか?」
「.....。」
もちろん、返事はない。もはやこの人は喋れないんじゃないだらろうかとさえ思うが、彼とこの人が会話をしているところをバッチリと聞いている。やっぱりわたし、嫌われてる...?目の前の人物にバレないよう、ひっそりと小さくため息を吐く。
「えっと、あの...急に話しかけてすみません...」
戻りますね、と無理やりに笑みを向け踵を返した。先程まで歌っていた所へともどろうとするが、何やら後ろから着いてきている気配がする。何だろう、何かやらかしてしまっただろうか。不安になり振り返ると、思っていたよりもすぐ近くにその存在があり、ヒュッと息を吸ってしまった。
「いつも、こうやって会うのか?」
唐突に降ってきた質問に何がなにやらわからず、頭の中で数度復唱して、漸く彼との事を聞かれているのだとわかった。
「あ、いや、最近はウタさんのお店で会ってます。こうやって歌っているのを聞きに来てくれたのは...数回かと」
「そうか。」
長い沈黙。これが気にならないような付き合いはまだ出来ていないので、焦る心を必死に表に出すまいと笑顔を貼り付ける。
「えっと...戻り、ますね?」
沈黙なのに、ガッツリと視線は寄越してくるこの人物をどう対処すべきか。一歩歩を進めれば、後ろも同じように進む。止まればピタリと止まる。えぇ、何なんだろう!?そう内心焦っていると、おい、と声を掛けられた。背中が律立つ。ギギギと音を立てて振り返ると、やっぱり感情の読めない顔がそこにはあった。
「お前たちと俺たちでは住む世界が違う。面白がっているだけなら、さっさと目を覚ました方がいい。」
付き合いの浅さからか、はたまたポーカーフェイスが上手いのか、表情からは何も掴ませてはくれない。けれど、おそらくこの人は、彼の事が心配で堪らないのではないだろうか。ウタさんと言う大切な友人が、こんな人間の小娘に絆されたから。人間と喰種の恋愛なんて聞いた事もない事に、自分の大切な友人が巻き込まれて、その末に彼が傷付く事になると思っているのかもしれない。
「面白がってなんていませんよ」
冗談じゃない。まるでわたしが遊んでるみたいな言い方にムッとした。そんな訳がない。わたしは正真正銘、心の底から彼のことを愛しいと思っているのに。
「何が心配ですか?」
今まで一歩引いてしまっていたけれど、ぐっと踏ん張り目の前の男を見上げた。
「恋愛の末、白鳩にリークされ殺された喰種を山程知っている。」
冷たく目が細められる。どうやら、わたしが彼を裏切ってCCGに情報を売るのではないかと懸念しているようだ。冗談じゃない、と怒りも湧いてくるが、それより四方さんがそう思う気持ちも分かるので、ぐっと堪える。自分の大親友が喰種と付き合う事になったら、きっとわたしも同じように懸念してしまうと思う。まずはこの彼の友人を攻略しておかなければ。
「四方さんが心配になる気持ちもわかります。だから...」
一つ深呼吸をして覚悟を決めた。
「わたしがウタさんを裏切ったと思ったら、その時は貴方がわたしを殺してください。」
四方さんの手を自分の首に持っていく。まっすぐに見つめた先の四方さんは目を丸くして、そして薄く笑った。
「そうさせてもらう」
すっと手を解いてポケットに突っ込むと、そのまま背中を向けて人混みに紛れて行ってしまった。ぷっつりと切れた糸と、急に来た安堵感にその場に座り込んでしまった。大きく深呼吸をして、目をぱちぱちと瞬かせる。とんだ事を言ってしまった。口から出まかせではないけれど、正直ほっとした。はーーー、と長いため息を吐いたところで、頭上から、若葉ちゃん?、と声が降ってきた。
「ウタさん!こんばんは」
へたり込んだままのわたしを立ち上がらせると、クンと鼻を鳴らした。
「蓮司くんと会ってたの?」
「さっきここで会ったんですよ」
「ふぅん、変なことされなかった?」
大丈夫です、と答えながらも、むしろしてしまった側なのでは、と苦笑を浮かべた。
「ウタさんは愛されてますね」
「え?誰に?」
「...四方さん」
「え?そうなの?」
ふふふ、と笑うと彼は首を傾げた。何話したの?と聞いてくる彼に、掻い摘んで説明をしながら家路へと着いた。いつか、ウタさんの周りの人達にも受け入れてもらえたら、この恋はずっと続くのだろうか。どうか、おじいちゃんおばあちゃんになっても、こうして手を繋いで笑いあっている未来がきますようにーー。
お客さんがいればMCをしようと思っていたスペースで水を飲んで少し休憩していると、遠くに見知った顔を見付けた。その人もこちらを見ていて、目が合った瞬間、
「四方さん!」
頭より先に身体が動いていた。彼の友人で、まだ一度しか会ったことのない相手。しかも、おそらく好かれてはいないであろう人物だ。そんな人物に駆け寄って、わたしは一体何がしたいのか。少しハッとしたけれど、もう既に後戻りは出来なくなっている。
「こ、こんばんは」
「.....。」
返事も、会釈すらも返ってこない。けれど、目を少し丸くしている様には見えた。驚かせてしまっただろうか。
「ウタさんの所に行ってたんですか?」
「.....。」
もちろん、返事はない。もはやこの人は喋れないんじゃないだらろうかとさえ思うが、彼とこの人が会話をしているところをバッチリと聞いている。やっぱりわたし、嫌われてる...?目の前の人物にバレないよう、ひっそりと小さくため息を吐く。
「えっと、あの...急に話しかけてすみません...」
戻りますね、と無理やりに笑みを向け踵を返した。先程まで歌っていた所へともどろうとするが、何やら後ろから着いてきている気配がする。何だろう、何かやらかしてしまっただろうか。不安になり振り返ると、思っていたよりもすぐ近くにその存在があり、ヒュッと息を吸ってしまった。
「いつも、こうやって会うのか?」
唐突に降ってきた質問に何がなにやらわからず、頭の中で数度復唱して、漸く彼との事を聞かれているのだとわかった。
「あ、いや、最近はウタさんのお店で会ってます。こうやって歌っているのを聞きに来てくれたのは...数回かと」
「そうか。」
長い沈黙。これが気にならないような付き合いはまだ出来ていないので、焦る心を必死に表に出すまいと笑顔を貼り付ける。
「えっと...戻り、ますね?」
沈黙なのに、ガッツリと視線は寄越してくるこの人物をどう対処すべきか。一歩歩を進めれば、後ろも同じように進む。止まればピタリと止まる。えぇ、何なんだろう!?そう内心焦っていると、おい、と声を掛けられた。背中が律立つ。ギギギと音を立てて振り返ると、やっぱり感情の読めない顔がそこにはあった。
「お前たちと俺たちでは住む世界が違う。面白がっているだけなら、さっさと目を覚ました方がいい。」
付き合いの浅さからか、はたまたポーカーフェイスが上手いのか、表情からは何も掴ませてはくれない。けれど、おそらくこの人は、彼の事が心配で堪らないのではないだろうか。ウタさんと言う大切な友人が、こんな人間の小娘に絆されたから。人間と喰種の恋愛なんて聞いた事もない事に、自分の大切な友人が巻き込まれて、その末に彼が傷付く事になると思っているのかもしれない。
「面白がってなんていませんよ」
冗談じゃない。まるでわたしが遊んでるみたいな言い方にムッとした。そんな訳がない。わたしは正真正銘、心の底から彼のことを愛しいと思っているのに。
「何が心配ですか?」
今まで一歩引いてしまっていたけれど、ぐっと踏ん張り目の前の男を見上げた。
「恋愛の末、白鳩にリークされ殺された喰種を山程知っている。」
冷たく目が細められる。どうやら、わたしが彼を裏切ってCCGに情報を売るのではないかと懸念しているようだ。冗談じゃない、と怒りも湧いてくるが、それより四方さんがそう思う気持ちも分かるので、ぐっと堪える。自分の大親友が喰種と付き合う事になったら、きっとわたしも同じように懸念してしまうと思う。まずはこの彼の友人を攻略しておかなければ。
「四方さんが心配になる気持ちもわかります。だから...」
一つ深呼吸をして覚悟を決めた。
「わたしがウタさんを裏切ったと思ったら、その時は貴方がわたしを殺してください。」
四方さんの手を自分の首に持っていく。まっすぐに見つめた先の四方さんは目を丸くして、そして薄く笑った。
「そうさせてもらう」
すっと手を解いてポケットに突っ込むと、そのまま背中を向けて人混みに紛れて行ってしまった。ぷっつりと切れた糸と、急に来た安堵感にその場に座り込んでしまった。大きく深呼吸をして、目をぱちぱちと瞬かせる。とんだ事を言ってしまった。口から出まかせではないけれど、正直ほっとした。はーーー、と長いため息を吐いたところで、頭上から、若葉ちゃん?、と声が降ってきた。
「ウタさん!こんばんは」
へたり込んだままのわたしを立ち上がらせると、クンと鼻を鳴らした。
「蓮司くんと会ってたの?」
「さっきここで会ったんですよ」
「ふぅん、変なことされなかった?」
大丈夫です、と答えながらも、むしろしてしまった側なのでは、と苦笑を浮かべた。
「ウタさんは愛されてますね」
「え?誰に?」
「...四方さん」
「え?そうなの?」
ふふふ、と笑うと彼は首を傾げた。何話したの?と聞いてくる彼に、掻い摘んで説明をしながら家路へと着いた。いつか、ウタさんの周りの人達にも受け入れてもらえたら、この恋はずっと続くのだろうか。どうか、おじいちゃんおばあちゃんになっても、こうして手を繋いで笑いあっている未来がきますようにーー。