歌と春風
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『おはよ』
『おはようございます!今起きたんですか?』
『うん。今日は歌ってくの?』
『はい!その予定です☺︎』
開店準備と言う名の寝起きの身支度をしながら、短いメッセージのやり取りをする。彼女は今、丁度お昼休みらしい。付き合い始めて数日、毎日お昼休みにメッセージだったり電話で僕を起こしてくれる。彼女自身はそんなつもりじゃないようなので言わないけれど。このモーニングコールのお陰でここ最近の開店時間が規則正しい。もちろん、いい意味だ。夢から醒めて一番に彼女の声が聞けるなんて、こんな嬉しいことはない。メッセージのやり取りにもどかしくなり、履歴の一番上の番号をタップすると、1コール鳴り終わるか終わらないかで彼女の、もしもし、と言う声が聞こえてきた。
「この時間にウタさんから電話してくれるなんて珍しいですね」
ふふふ、と耳元で響く柔らかい笑い声。あぁ、今すぐに会って抱きしめたくなる。
「うん、声が聞きたくなっちゃってさ。夜まで待ってられなかった」
えっ、と言ったその声音は、顔を真っ赤にして照れていそうな音をしていた。自分の口元が緩むのがわかる。
「今日聞きに行くね」
はい、と返ってきてから数分、他愛もない話をして通話は終了した。店のドアに掛かる札を"OPEN"にして、早速マスク作りへと取り掛かった。彼女の声で元気も出たことだし、今日もがんばろ。
マスク作りの合間にアクセサリーを作ってみたり、頭の中の彼女をデッサンしてみたり、そんな事をしているうちにあっという間に日は沈み、月が昇り始めていた。閉店するにはまだ早い時間ではあったが、特にマスクの引渡しなども無かったので、店を閉めて彼女がいるであろう駅前へと向かった。ニット帽を被り、サングラスをして、カーディガンを羽織って。駅に近付くにつれ彼女の匂いが強くなっていき、自然と足が早くなっていく。今日も春風のようにふわりと鼓膜を震わせてくる声。彼女の姿を捉えると、彼女もまた僕を捉えた。にこりと微笑む彼女に手を振るとそのまま後方で眺めた。昨日も会っていたのに、彼女が足りなくてすっかり酸欠状態になった僕は、まるで金魚のようにパクパクと彼女の匂いを胸に吸い込んだ。その後、数曲と短いMCで今日の路上ライブは終了した。彼女はいつも慌てて片付けをするから、早々に彼女の元へと行き、ゆっくりでいいよ、と声をかける。僕の名前を呼びながらキラキラした瞳で振り向く彼女を今すぐにでも抱き締めたくなったが、先日それをしてそれはそれは困らせてしまったので、今日はグッと我慢する。他愛もない話をしながら片付けを終わらせれば、漸く彼女に触れられた。とは言っても、手を握るだけだけれど。
「送ってくね」
「ありがとうございます」
こうして彼女の家に行き、思う存分抱き締めて、コーヒーをもらって帰るのが、新しく僕の週間になった。
「明日も、駅で待ってていいですか?」
ソファーで2人肩を寄せあって寛いでいると、ふと彼女が肩に頭を預けてきた。いいよ、と返しながら頭を撫でると、気持ちよさそうに擦り寄せてくる。いつまでも、少しでも長く、この時間が続いてほしいと思う。
「若葉ちゃんさえ良ければなんだけど、僕のお店に来てくれていいんだよ?」
喰種の店だから、もちろん客層は主に喰種だ。時々人間がくることもあるけれど、本当に稀だ。そんな環境に身を置くのは彼女も怖いだろうし無理強いはしない。本心は、少しでも長く一緒にいたいから、仕事が終わったら直で店に来て欲しいくらいだけれど。店なら周りを気にせず彼女を抱きしめられる。僕にとってはメリットしかない。うーん、と考えあぐねる彼女に、怖い?、と聞くと首を振る。
「お仕事の邪魔になりませんか...?」
そんな事を悩んでいたのか。彼女らしいな、とひっそり笑うと、上目遣いに見上げてくる視線が絡む。
「そんな事ないよ。」
ぐっと顔を近付け、来て欲しいな、と耳元でそっと囁いてから、鼻が触れるくらいに顔を寄せれば、真っ赤に頬を染めた彼女が自然と目を瞑る。触れるだけの短いキスをして、ぎゅっと彼女を抱き込んだ。
「じゃあ明日はお店に伺いますね」
頭を胸に擦り寄せて小さく丸まる姿はまるで小型犬の様で、永遠に撫でていられるような気がした。
「うん、待ってるね」
そう言って彼女の頭に、額に、頬に、唇に、キスを落としていった。愛しい彼女の匂いと味を僕に刻み込むように。10数時間会えなかった時間と、10数時間会えなくなる時間を埋めてしまえるように。
『おはようございます!今起きたんですか?』
『うん。今日は歌ってくの?』
『はい!その予定です☺︎』
開店準備と言う名の寝起きの身支度をしながら、短いメッセージのやり取りをする。彼女は今、丁度お昼休みらしい。付き合い始めて数日、毎日お昼休みにメッセージだったり電話で僕を起こしてくれる。彼女自身はそんなつもりじゃないようなので言わないけれど。このモーニングコールのお陰でここ最近の開店時間が規則正しい。もちろん、いい意味だ。夢から醒めて一番に彼女の声が聞けるなんて、こんな嬉しいことはない。メッセージのやり取りにもどかしくなり、履歴の一番上の番号をタップすると、1コール鳴り終わるか終わらないかで彼女の、もしもし、と言う声が聞こえてきた。
「この時間にウタさんから電話してくれるなんて珍しいですね」
ふふふ、と耳元で響く柔らかい笑い声。あぁ、今すぐに会って抱きしめたくなる。
「うん、声が聞きたくなっちゃってさ。夜まで待ってられなかった」
えっ、と言ったその声音は、顔を真っ赤にして照れていそうな音をしていた。自分の口元が緩むのがわかる。
「今日聞きに行くね」
はい、と返ってきてから数分、他愛もない話をして通話は終了した。店のドアに掛かる札を"OPEN"にして、早速マスク作りへと取り掛かった。彼女の声で元気も出たことだし、今日もがんばろ。
マスク作りの合間にアクセサリーを作ってみたり、頭の中の彼女をデッサンしてみたり、そんな事をしているうちにあっという間に日は沈み、月が昇り始めていた。閉店するにはまだ早い時間ではあったが、特にマスクの引渡しなども無かったので、店を閉めて彼女がいるであろう駅前へと向かった。ニット帽を被り、サングラスをして、カーディガンを羽織って。駅に近付くにつれ彼女の匂いが強くなっていき、自然と足が早くなっていく。今日も春風のようにふわりと鼓膜を震わせてくる声。彼女の姿を捉えると、彼女もまた僕を捉えた。にこりと微笑む彼女に手を振るとそのまま後方で眺めた。昨日も会っていたのに、彼女が足りなくてすっかり酸欠状態になった僕は、まるで金魚のようにパクパクと彼女の匂いを胸に吸い込んだ。その後、数曲と短いMCで今日の路上ライブは終了した。彼女はいつも慌てて片付けをするから、早々に彼女の元へと行き、ゆっくりでいいよ、と声をかける。僕の名前を呼びながらキラキラした瞳で振り向く彼女を今すぐにでも抱き締めたくなったが、先日それをしてそれはそれは困らせてしまったので、今日はグッと我慢する。他愛もない話をしながら片付けを終わらせれば、漸く彼女に触れられた。とは言っても、手を握るだけだけれど。
「送ってくね」
「ありがとうございます」
こうして彼女の家に行き、思う存分抱き締めて、コーヒーをもらって帰るのが、新しく僕の週間になった。
「明日も、駅で待ってていいですか?」
ソファーで2人肩を寄せあって寛いでいると、ふと彼女が肩に頭を預けてきた。いいよ、と返しながら頭を撫でると、気持ちよさそうに擦り寄せてくる。いつまでも、少しでも長く、この時間が続いてほしいと思う。
「若葉ちゃんさえ良ければなんだけど、僕のお店に来てくれていいんだよ?」
喰種の店だから、もちろん客層は主に喰種だ。時々人間がくることもあるけれど、本当に稀だ。そんな環境に身を置くのは彼女も怖いだろうし無理強いはしない。本心は、少しでも長く一緒にいたいから、仕事が終わったら直で店に来て欲しいくらいだけれど。店なら周りを気にせず彼女を抱きしめられる。僕にとってはメリットしかない。うーん、と考えあぐねる彼女に、怖い?、と聞くと首を振る。
「お仕事の邪魔になりませんか...?」
そんな事を悩んでいたのか。彼女らしいな、とひっそり笑うと、上目遣いに見上げてくる視線が絡む。
「そんな事ないよ。」
ぐっと顔を近付け、来て欲しいな、と耳元でそっと囁いてから、鼻が触れるくらいに顔を寄せれば、真っ赤に頬を染めた彼女が自然と目を瞑る。触れるだけの短いキスをして、ぎゅっと彼女を抱き込んだ。
「じゃあ明日はお店に伺いますね」
頭を胸に擦り寄せて小さく丸まる姿はまるで小型犬の様で、永遠に撫でていられるような気がした。
「うん、待ってるね」
そう言って彼女の頭に、額に、頬に、唇に、キスを落としていった。愛しい彼女の匂いと味を僕に刻み込むように。10数時間会えなかった時間と、10数時間会えなくなる時間を埋めてしまえるように。