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切り裂きジャックと魔女のクロエ

「…んで?これからどうするんだよ。」

睨み合いが終わった後、ジャックは不機嫌そうに紅茶をいれながらクロエに訪ねた。利き手が使えない為、やはり動きが鈍かった。

「取り敢えず、初めに情報を集めないとね。あたしもあなたも、あいつと関わった時間は少ないし、何より何者か全然検討がつかないわ。」

「おいテメェ、魔法使いとか何とか言ってなかったか?」

「それは例えみたいなものよ。あたし程度の呪いならそこらの魔法使いでも出来るでしょうけど、あなた程の呪いはそうはいかないわ。」

「ふーん。魔法使いとか魔女とか、そんなホイホイいるもんなのかよ。」

ジャックはクロエの前に紅茶を置き、自分の分も持ってくると、椅子に座った。クロエは砂糖を入れてから紅茶を飲むと、頷いた。

「ちょっと魔法を使えるぐらいならそこら辺にいるわよ。ま、あたしぐらいになるとそうはいかないけど。」

「魔法で男誑かした挙句呪いかけられて何もできねぇ奴が何言ってんだか。」

ジャックが馬鹿にしたように鼻で笑うと、クロエはまたフライパンでジャックを殴った。

「いってっ!!テメェいい加減そのフライパンで殴るのやめろ!てかフライパンどっから出てくるんだよ!?」

「フライパン出すぐらいの術は出来るのよ。」

クロエはふんっとそっぽを向きながらフライパンを傍らに置いた。

「魔法と術の違いってなんだよ。」

「あら、そんなことも知らないの?魔法は魔力でしか扱うことは出来ないけど、術は魔方陣とか方法さえ理解すれば誰だってできるのよ?まぁ、相当勉強しなきゃいけないけど。」

「あー、だからテメェはフライパン出すぐらいの術しかできねぇんだ。」

「もっかい殴るわよ。」

クロエはぎろっとジャックを睨んだが、ジャックはお構い無しに紅茶を飲んだ。

「で、情報つってもどうすんだよ。ほぼ手掛かりなしだろうが。」

「あんなやつが普通にそこら辺で生活してるとは思えないしね…、でも罪を犯し続ける者に呪いをかけるなら、そんな感じの奴らを監視してみればいいんじゃない?きっと現れるはずよ。」

「おー、たまにはまともな事言えるじゃねぇか。」

「たまには余計よ!」

クロエはむっと頬を膨らました。ジャックはくくっと笑いながら椅子にもたれた。

「じゃあ早速そこら辺の悪党を片っ端から監視するか。つっても前に俺がほぼ殺しちまったから、数は限られてるけどな!」

「うーん、良いのか良くないのか分からないけど、二人だけじゃ見れる人数も限られるしね。」

クロエは苦笑いすると、ある事を思い出した。

「あ、そうそう…あたしが死んだらあなたも必然的に死んじゃうんだから、あたしの事は何が何でも守り抜きなさいよ?」

「…は!?護衛までやれってのか!?」

「当たり前じゃない、あたしの武器はあなたを殴るフライパンしか無いんだし、こんな可憐な少女に何が出来るっていうの?」

「かーっ!可憐どころか、とんだ我が儘自己中女だな!!」

ジャックは頭をわしゃわしゃと掻きながら吐き捨てるように言った。 今すぐにでもクロエを放り出してやりたかったが、何かあって死なれても困るため渋々要件を飲んでやることにした。





ー数時間後ー

「……んー、これっていう奴がいねぇなぁ。」

その後ジャックは書類を漁りながら、あの男が狙いそうな犯罪者を探していたが、以前に殆ど壊滅させてしまったのでなかなか見つからなかった。

「いっそのこと誰かを誑かして大犯罪起こさせたら?あなたなら余裕じゃないの?」

クロエは自前の水晶を手の中で転がしながら寛いでいた。

「うるせぇ、俺はそんな外道なこと簡単にしねぇよ。」

「ふーん、意外と切り裂きジャックは手荒な真似しないのねぇ。」

「そんな事しても何も面白くねぇからな。てか、テメェも少しは手伝え!グダグダしやがって…!」

「あたしだって遊んでるわけじゃないのよ。一応この水晶であの男の事を見ようとしてるんだけど、何度やっても何も見えないのよ。」

クロエはぐぬぬと水晶を睨みながら言った。

「そんなので本当に見えんのかよ。」

「見えるからあなたが切り裂きジャックだって分かったのよ?国が暴けなかった正体…それがわかった時はちょっと興奮したわ~。」

クロエはふふっと笑いながら言った。ジャックは少し不服そうな顔をしていた。

「まさかあの切り裂きジャックが成人もしていないチャラそうな男だとは思わなかったわ。もっとこう…色っぽいサドスティックな感じの男かと…。」

「テメェは『切り裂きジャック』を何だと思ってんだ!!どうせついでに誑かして自分のもんにしようと思ってたんだろ!つかチャラいってなんだ!!」

「変に髪の毛あげちゃって、服装も妙にお洒落な物ばかり…。年相応のチャラさがプンプンしてるわよ?」

クロエは溜め息をつきながら言った。確かにジャックのクローゼットにはお洒落な感じの服が揃っており、お気に入りの上着は三着ほど同じものがあった。

「あ!テメェ人のクローゼット勝手に見たな!?」

「違うわよぉ、水晶で見えちゃったのよぉ。」

「嘘つけ!」

「痛い痛い!!」

ジャックはクロエの頬をつねりながら怒鳴った。

「女の子に手を上げるなんて最低よ!?」

「喧しいわ!!散々男漁っといて!」

「それとこれは別でしょう!?」

クロエはジャックの手を振り払いながらムスッとした。

「大体、なんであの男だけ見えねぇんだよ!」

「あたしが聞きたいわよ…、多分何らかの結界みたいなのが張られてるんだと思うんだけど。」

クロエは水晶を撫でながら考え込んだ。

「きっと只者じゃないわね…これだけの呪いをかけておきながら、強力な結界まで張り続けているなんて頭おかしいわ。」

「ふーん、それがどんなにすげぇかは知らねぇけど、とっとと殺して呪いを解きてぇなぁ。」

ジャックは書類を再び見返しながら呟いた。それを聞くと、クロエは少しニヤリと笑った。

(馬鹿ね…死の呪いはかけた術者を殺したって解けない。それどころかあたしの呪いだけ解け、あたしはあなたを忘れてしまう…つまりそこであなたの命は終わりなのよ。)

クロエはただ男を殺して、自分の呪いを解く事しか考えていなかった。そのため、ジャックの呪いが本当は解けないことを知っているのにも関わらず、あえて希望を与えて利用しようとしているのだ。自分さえ元に戻れれば、それ以外の人間がどうなろうとどうでもいい…クロエはひそかにそう思っていた。
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