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切り裂きジャックと魔女のクロエ

「…あらら、だから言ったのに。」

「……んぁ?」

ジャックが目を覚ますと、傘をさしたクロエが顔をのぞき込んでいた。

「テメェ…なんでここに……?」

「左腕、見てみなさいよ。」

「左腕……?」

(左腕はさっき、あいつにぶった切られてて…。)

まだ体の感覚が完全に戻っていない中、ジャックは恐る恐る左腕を動かしてみた。すると先程とは違って、確かな感触があった。

「はっ…何だ、腕あるじゃねぇ…か……。」

ジャックはゆっくりと左腕を上げて見てみた。しかしそれは自分の左腕ではなく、真っ黒な影のような腕だった。しかもその指先はまるでナイフのように鋭く尖っていた。

「……な、なんだよこれ…っ!?」

ジャックは目を見開いて叫んだ。クロエは溜め息をつきながら説明した。

「呪いをかけられたのよ。それも一番最悪なのをね。」

「な、何の呪いだよ……?」

ジャックは青ざめながらクロエを見つめた。クロエは一息ついてから、こう告げた。

「……『死の呪い』よ。」

「『死の呪い』…だと。」

「そうよ、しかもただ死ぬんじゃない。自分の事を、皆忘れていくの。自分を知る者がいなくなった時、独り寂しく死んでいく…。」

「そんな…じゃあこの町の奴らは俺のことを……、『切り裂きジャック』の存在を忘れちまうのかよ!?」

ジャックは無理やり体を起こしながらクロエに訪ねた。

「ええ、そうよ…恐らくこの世界であなたの事を覚えているのは、あたしだけ。皆『切り裂きジャック』のことを言っても、何の事か分からないわ。」

「…んな馬鹿な事あるかよ…!俺は信じねぇぞ…っ!!」

ジャックはフラフラと立ち上がり、落ちているナイフを右手で拾った。

「信じないって言っても、その腕が証拠でしょう?いい加減認めたら?」

「うるせぇ…、俺は…俺はこの存在を知らしめる為に今まで生きてきたんだ…!それを…こんな馬鹿げた事で無にされてたまるかっての!」

ジャックはナイフをクロエに向けた。

「あたしを殺しても呪いは解けないわよ。呪いをかけた本人を殺さないと…。」

クロエはそう言うと、ジャックのナイフに触れながら微笑んだ。

「…哀れな哀れな切り裂きジャック、私と一緒に悪い魔法使いを退治しましょ?」

「お断りだ!」

「はぁ!?」

ジャックがスッパリと断ると、クロエは後ずさった。

「な、何でよ!?このタイミングで断れるわけないじゃないの!」

「うるせぇ!俺は呪いとか魔法とか信じねぇって言ってるだろ!どうせこれは悪い夢なんだろ…?じゃあこいつを刺せば目覚めるはず…!」

ジャックはナイフを自分の太股に思い切り突き刺した。しかし夢は覚めることはなく、代わりに激痛が走った。

「いってぇえっ!!!」

「馬鹿ねぇ、さっきズタボロにやられた時の痛みがまだあったでしょ?」

クロエは呆れた様子でジャックを見た。

「くっ…そういやそうだった…っ。」

ジャックは悔しそうにナイフを抜き、その場に座り込んだ。

「くそっ…こんな非日常みてぇなことが現実だなんて…!」

「仕方ないわよ。あたしだって信じたくないもの。」

クロエはジャックの前でしゃがみこんだ。

「でも、いいことを教えてあげる。同じ者に呪いをかけられた者で、呪いがかかる前に知り合った者はあなたを忘れないの。つまりあたしはあなたを忘れない…だからあなたは死なないわ。」

「…嬉しいような、どうでもいいような…。」

「喜びなさい!!」

クロエはジャックの頭を思い切り叩いた。するとジャックはぐらっとふらついて、そのまま倒れてしまった。

「ちょ、ちょっと…?」

「……駄目だ、体に力が入んねぇ…。」

「…もう、無理して動くからでしょ。その呪い自体で死なない限り、あなたは不死身になるけど、傷の治りとか体力の回復はちょっと早くなるだけなんだから。」

「それ、早く言えよ…!」

ジャックは動かない体を必死に動かそうとしたが、今度は全く動かなかった。

「しょうがないわね……。」

クロエは小さな体で何とかジャックを背負い、ズルズルと引き摺りながら運んだ。

「っ……。」

ジャックは情けなく思いながら、再び意識を手放した。
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