救いか苦しみか
「……うっ、ううっ!ズビーッ!ひっく、クロエちゃんの過去にそんな悲劇があっただなんてぇ……っ!」
「……ロニー、泣きすぎ……。」
話を聞き終わったロニーは大号泣し、顔をバスタオルで覆いながらオイオイと泣いていた。全て打ち明けたクロエは逆にスッキリし、大げさなロニーに若干引いていた。
「グズッ……でも、それが原因でクロエちゃんは嘘に対してトラウマを持ち、そのトラウマから逃れるために嘘を愛するようになったのね。そしてジュニちゃんにも、本当はゼウスってやつを殺してもジュニちゃんが助からないってことを隠して利用してた…。」
「……酷いでしょ?嘘を愛してるわけじゃないんだけど、結局大嫌いな嘘で自分の傷を癒したいだけだった…無理矢理自分のやり方を正当化して、そしてジャックを巻き込んだ……。」
クロエは自分を嘲笑するように笑い、そっと腕をさすった。
「自分が元に戻れればそれで良かったのに……あんな苦しませるとは思ってなくて…。いっその事死なせてあげれれば楽になるんだろうけど、あたしにはそこまでの勇気もない…結局自分が一番大事なのよ。」
「……確かに、死ねない体に普通死ぬ傷を与え続けるより、死なせてあげた方が楽でしょうけど…そんなの絶対ダメよ。」
ロニーは顔からタオルを外し、真っ直ぐクロエを見つめた。
「それでも生きているなら、絶対生きている方がいい。クロエちゃんも、そんな風にしてジュニちゃんを救おうとするなら、救わない方がいい。」
「ロニー……。」
「自分が一番大事なのは、当たり前のことよ。でも自分を守るために他の人を傷つけたり、ましてや命を奪うのも駄目。自分を大切にしながら、同時に周りも大切にするの……そうしたらきっと周りの人は自分を大切にしてくれるから。」
ロニーはニコッと笑い、クロエをそっと抱き上げて自分の膝に乗せた。
「……あたしの大切な人はね、クロエちゃんとは真逆だったわ。周りを守るために、自分なんか捨ててしまった……いつも傷ついて、苦しんで……それでも周りが悲しまないように平然を装っていた。本当に馬鹿な人だった……。」
「……それって、もしかして?」
クロエは恐る恐るロニーに問いかけた。ロニーは静かに頷き、カウンターの端に立ててあった写真をクロエに見せた。
「そう、ジュニちゃんのお父さん……ジョーカーの事よ。」
クロエはその写真をじっと見つめた。真ん中に綺麗な女性が満面の笑みで座っており、その両隣に男性が座っていた。ロニーはその後ろから三人をまとめて抱きしめていた。
「この真ん中の女の子が、ジュニちゃんのお母さんのマリアよ。そしてこっちの独特なファッションの男の人が、ジョーカー、もう片方はマリアに片想いをしてジョーカーと犬猿の仲だったグレン。」
「グレンって、この前バルが言ってた?」
「そうそう!あたしとグレンはこの中でも一番長い付き合いなのよ、ジョーカーはその後すぐに付き合い始めたけどね。」
ロニーは懐かしそうに写真を撫でながら話した。
「……それでも、彼がこの国のために裏で暗殺をしてたなんて知ったのは、マリアが来てからだった。」
「…『切り裂きジャック』は、お父さんが始めたのよね。ジャックは自分の存在を世に知らしめるとか言ってたし、実際皆その存在を知っていて怯えていたけれど、お父さんはその真逆だったんでしょう?」
クロエは不思議そうに首を傾げて問いかけた。ロニーは少し眉間にシワを寄せて考えた。
「そこなのよね…。どうしてジュニちゃんはわざと『切り裂きジャック』の存在を気付かせるようにやっているのかしら?何か別の目的があるのかしら…。」
「お話中悪いね、終わったよ。」
二人が悶々と考えている時、中年の医者が扉を開けて出てきた。白衣とエプロンは血だらけで、かなり奮闘した様子を物語っていた。
「ありがとう…本当に助かったわ。」
「長年この仕事をやってきたが、あんなのは初めてだ。もっと若い時にやりたかったもんだ……ふぅ。」
医者はわざとらしく腰や肩を叩いて疲れた様子を見せた。ロニーは苦笑いしながらクロエを膝から下ろし、立ち上がった。
「はいはい、報酬弾めばいいんでしょ?いくら出せばいいのかしら?」
「んにゃ、金はもう要らん。」
医者はニヤリと笑い、手を払った。
「瓶一本貰えりゃそれでいい。」
「んまっ、医者の不養生ね!全く……。」
ロニーは呆れた様子でため息をつくと、棚から高そうなお酒の瓶を二本取り出した。
「お金要求した方がよっぽどマシよ?」
「この年でこれ以上金を取ったって意味もない。残してやる相手もいないんでね。」
医者はロニーから酒を受け取ると、それをカバンに突っ込み、血がついた白衣とエプロンも一緒に突っ込んだ。
「それなら落ち着いて結婚でもしたらいいじゃない。もう戦争も終わったんだし。」
「ふんっ、戦争が終わったってわしらは変われんよ。お前さんだって、まだ『終わっていない』……そうだろ?」
「……まぁね。この『記憶』は、終わる日は来ないわね。」
ロニーは悲しそうに微笑み、カウンターに凭れた。
「国は忘れろと言うが、馬鹿馬鹿しい話だ。酒が無けりゃ、あのおぞましい光景が毎晩夢に出てくるんだからな。」
「グレンなんか、もう長年まともに寝てないんじゃない?あの子は一番弱かったんだから。」
「……『鷹の目』も、所詮弱いガキだったってこった。」
医者はふっと笑い、コートと帽子を身につけるとカバンを手に持った。
「それじゃ、失礼するよ。しばらく熱でうなされると思うがね、広いベッドで充分介抱してやることだな。」
「うん、本当にありがとうね、ドクター。」
医者は微笑み、軽く会釈すると店を出ていった。
「……よくわかんないけど、大変そうね。」
クロエは医者が出ていったドアを見つめながら呟いた。ロニーはクロエを撫でながらクスッと笑った。
「わからなくていいのよ。それより、ジュニちゃんを上のベッドに移しましょうか。」
「……うん。」
クロエは頷き、ロニーと一緒にジャックを上に運ぶために部屋に入っていった。あの後、あの医者が自宅前で殺されるとは知らずに…。
「……ロニー、泣きすぎ……。」
話を聞き終わったロニーは大号泣し、顔をバスタオルで覆いながらオイオイと泣いていた。全て打ち明けたクロエは逆にスッキリし、大げさなロニーに若干引いていた。
「グズッ……でも、それが原因でクロエちゃんは嘘に対してトラウマを持ち、そのトラウマから逃れるために嘘を愛するようになったのね。そしてジュニちゃんにも、本当はゼウスってやつを殺してもジュニちゃんが助からないってことを隠して利用してた…。」
「……酷いでしょ?嘘を愛してるわけじゃないんだけど、結局大嫌いな嘘で自分の傷を癒したいだけだった…無理矢理自分のやり方を正当化して、そしてジャックを巻き込んだ……。」
クロエは自分を嘲笑するように笑い、そっと腕をさすった。
「自分が元に戻れればそれで良かったのに……あんな苦しませるとは思ってなくて…。いっその事死なせてあげれれば楽になるんだろうけど、あたしにはそこまでの勇気もない…結局自分が一番大事なのよ。」
「……確かに、死ねない体に普通死ぬ傷を与え続けるより、死なせてあげた方が楽でしょうけど…そんなの絶対ダメよ。」
ロニーは顔からタオルを外し、真っ直ぐクロエを見つめた。
「それでも生きているなら、絶対生きている方がいい。クロエちゃんも、そんな風にしてジュニちゃんを救おうとするなら、救わない方がいい。」
「ロニー……。」
「自分が一番大事なのは、当たり前のことよ。でも自分を守るために他の人を傷つけたり、ましてや命を奪うのも駄目。自分を大切にしながら、同時に周りも大切にするの……そうしたらきっと周りの人は自分を大切にしてくれるから。」
ロニーはニコッと笑い、クロエをそっと抱き上げて自分の膝に乗せた。
「……あたしの大切な人はね、クロエちゃんとは真逆だったわ。周りを守るために、自分なんか捨ててしまった……いつも傷ついて、苦しんで……それでも周りが悲しまないように平然を装っていた。本当に馬鹿な人だった……。」
「……それって、もしかして?」
クロエは恐る恐るロニーに問いかけた。ロニーは静かに頷き、カウンターの端に立ててあった写真をクロエに見せた。
「そう、ジュニちゃんのお父さん……ジョーカーの事よ。」
クロエはその写真をじっと見つめた。真ん中に綺麗な女性が満面の笑みで座っており、その両隣に男性が座っていた。ロニーはその後ろから三人をまとめて抱きしめていた。
「この真ん中の女の子が、ジュニちゃんのお母さんのマリアよ。そしてこっちの独特なファッションの男の人が、ジョーカー、もう片方はマリアに片想いをしてジョーカーと犬猿の仲だったグレン。」
「グレンって、この前バルが言ってた?」
「そうそう!あたしとグレンはこの中でも一番長い付き合いなのよ、ジョーカーはその後すぐに付き合い始めたけどね。」
ロニーは懐かしそうに写真を撫でながら話した。
「……それでも、彼がこの国のために裏で暗殺をしてたなんて知ったのは、マリアが来てからだった。」
「…『切り裂きジャック』は、お父さんが始めたのよね。ジャックは自分の存在を世に知らしめるとか言ってたし、実際皆その存在を知っていて怯えていたけれど、お父さんはその真逆だったんでしょう?」
クロエは不思議そうに首を傾げて問いかけた。ロニーは少し眉間にシワを寄せて考えた。
「そこなのよね…。どうしてジュニちゃんはわざと『切り裂きジャック』の存在を気付かせるようにやっているのかしら?何か別の目的があるのかしら…。」
「お話中悪いね、終わったよ。」
二人が悶々と考えている時、中年の医者が扉を開けて出てきた。白衣とエプロンは血だらけで、かなり奮闘した様子を物語っていた。
「ありがとう…本当に助かったわ。」
「長年この仕事をやってきたが、あんなのは初めてだ。もっと若い時にやりたかったもんだ……ふぅ。」
医者はわざとらしく腰や肩を叩いて疲れた様子を見せた。ロニーは苦笑いしながらクロエを膝から下ろし、立ち上がった。
「はいはい、報酬弾めばいいんでしょ?いくら出せばいいのかしら?」
「んにゃ、金はもう要らん。」
医者はニヤリと笑い、手を払った。
「瓶一本貰えりゃそれでいい。」
「んまっ、医者の不養生ね!全く……。」
ロニーは呆れた様子でため息をつくと、棚から高そうなお酒の瓶を二本取り出した。
「お金要求した方がよっぽどマシよ?」
「この年でこれ以上金を取ったって意味もない。残してやる相手もいないんでね。」
医者はロニーから酒を受け取ると、それをカバンに突っ込み、血がついた白衣とエプロンも一緒に突っ込んだ。
「それなら落ち着いて結婚でもしたらいいじゃない。もう戦争も終わったんだし。」
「ふんっ、戦争が終わったってわしらは変われんよ。お前さんだって、まだ『終わっていない』……そうだろ?」
「……まぁね。この『記憶』は、終わる日は来ないわね。」
ロニーは悲しそうに微笑み、カウンターに凭れた。
「国は忘れろと言うが、馬鹿馬鹿しい話だ。酒が無けりゃ、あのおぞましい光景が毎晩夢に出てくるんだからな。」
「グレンなんか、もう長年まともに寝てないんじゃない?あの子は一番弱かったんだから。」
「……『鷹の目』も、所詮弱いガキだったってこった。」
医者はふっと笑い、コートと帽子を身につけるとカバンを手に持った。
「それじゃ、失礼するよ。しばらく熱でうなされると思うがね、広いベッドで充分介抱してやることだな。」
「うん、本当にありがとうね、ドクター。」
医者は微笑み、軽く会釈すると店を出ていった。
「……よくわかんないけど、大変そうね。」
クロエは医者が出ていったドアを見つめながら呟いた。ロニーはクロエを撫でながらクスッと笑った。
「わからなくていいのよ。それより、ジュニちゃんを上のベッドに移しましょうか。」
「……うん。」
クロエは頷き、ロニーと一緒にジャックを上に運ぶために部屋に入っていった。あの後、あの医者が自宅前で殺されるとは知らずに…。
