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本当の脅威は…

ー時計台の屋上ー

「全く貴方という人は……あれほど派手に動くなと忠告しておいたというのに。」

不思議な力を使ってゼウスを救出したロナウドは、抱えていたゼウスをそっと下ろした。ゼウスはため息を吐きながら足を組んで座った。その様子は完全に参っていたようだ。

「今回ばかりは忠告を聞いておけばよかったと心底思ったよ…。普段はうるさいだけなのに。」

「殴られたいんですか?」

「冗談だよ、こんなに弱ってる僕にそんな怖いこと言わないで。」

ゼウスは本気で殴ろうと拳を握るロナウドを制し、頭を壁に凭れさせた。

「……まさか彼女がこのマフラーに気がつくとはね…。迂闊だった。」

「…完全にマフラー着けてる事、忘れてたんでしょう?」

ロナウドは呆れたようにため息を吐き、額に手を当てた。

「あははっ、バレた?」

ゼウスは苦笑いし、マフラーをクイッと持ち上げて口元を隠した。

「ロナウドだって、たまに眼鏡着けてる事忘れるじゃん?元々視力よかったから。」

「……老眼は気にしてるので、触れないでください。」

「いやまだ老眼って言ってないんだけど?」

ゼウスはくすりと笑い、ゆっくりと立ち上がった。

「まぁ、これから彼女と……あと彼に関わる時はもっと気をつけることにするよ。」

「そうして下さると、助かります。私のこの能力だって、いつでも使える訳ではないのですからね。「ロナウド!助けて!」と言われても時を止めてそさくさと逃げられない時もあるのですよ?」

「ハイハイ、スミマセンデシタ。」

「…本当にお願いしますよ。」

ロナウドはやれやれと頭を振り、いつの間にか回収していた懐中時計をズボンのポケットに突っ込んだ。

「そんな事より……あの黒い者達、そろそろ本気になってますよ。」

「僕が小石で脳天貫かれてたかもしれなかったのに、そんな事って何?」

ゼウスの鋭い目線を無視し、ロナウドは目を細めながら町を見下ろした。

「切り裂きジャックも我々が思っている以上の状況になってしまっている……このまま放っておけば、鍵となるあの娘も殺られ、切り裂きジャックもそこで終わってしまいますぞ?貴方様の『作戦』も、あの二人がいなければ失敗してしまいます。」

「わかってるよ、そんなことは。今のところ、まだ化け物共は僕の力を一発喰らえば怯む程度だ。まだ時間はあるよ。」

ゼウスも町を見渡すようにみて、そう言った。

「だが、あの人間兵器が蘇ったことで、新たにこの地に血が流れれば…その分時間は早く進んでしまう。それまでに切り裂きジャックにはこの国の罪に気付いてもらわないと……、」

ゼウスはニヤリと笑い、両手を広げて空を仰いだ。

「この国に、裁きを下せなくなってしまう。切り裂きジャックに消えてもらうのは、この国に裁きを下したその後なんだからさ。」

「……それで、どうなさるのですか?直接助けに行きますか?」

ロナウドはゼウスの言葉を急かすように尋ねた。しかしゼウスは首を横に振り、ロナウドを見た。

「まだまだ、甘やかす訳にはいかないよ。クロエが死ななければ、切り裂きジャックは死なないんだし、彼女だけ守ればなんとかなるよ。問題はあの人間兵器夫婦をどうやって止めるかだ。どうせまともに話は通じないだろうし、敵に回すにしても厄介な相手……殺すにしても、多分不死身だろうね。」

「不死身ですか。それはまた厄介過ぎますな……。様子を伺っていたところ、男の方はかなり血に飢えていた様ですし。」

ロナウドは顎に手を添え、深刻そうな顔をした。

「いや…彼はまだマシだよ。どちらかと言うと、厄介なのは女性の方だ。彼女からはどこからか闇を感じる…深くて暗い思いが、彼女の心にある気がする。」

ゼウスは目を細め、静かにそう言った。

「……化け物共の、『餌』にならないといいけど。」

「…確か、彼らは流れた血の中に秘められた憎しみや怒り……所謂負の感情を糧に力を強めるのでしたか?」

ロナウドは内ポケットに入れてあった手帳を開き、メモを見ながら確認した。ゼウスは頷き、街に背を向けて時計台の巨大な時計を見た。

「そう…そして失われた過去……自分達が生きていたという証を取り戻すために、過去を繰り返す。彼らはまだ、『戦争時代』の中にいるようなものさ。人を殺してきた戦争の記憶が、彼らの生きてきた唯一の証なんだ。」

ゼウスは暫く目を閉じると、深く呼吸をしてからロナウドにニコッと笑いかけた。

「でも好き勝手やられるのは困るからね。ロナウドは彼女、クロエの命を守ること。僕はあの夫婦を監視しておくから。」

「…かしこまりました。くれぐれもお気を付けて。」

ロナウドはそう言って胸に手を当てお辞儀をすると、一瞬にして姿を消した。ゼウスはそれを見届けると、これまた風のように消えた。
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