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探し物

それからジャックとクロエは店に戻り、体を休めた。クロエが風呂に入っている間、ジャックはソファーに座ってナイフを眺めながら考え事をしていた。

「……切り裂きジャックの俺、か。」

ジャックはソファーに凭れ、天井を見つめた。その表情はどこか寂しそうだった。

「…うっ、何だこの頭痛。」

ジャックは急に頭痛がし、頭を押さえた。

「くそっ…この呪いがかかってからちょいちょい頭痛がするんだよなぁ…。呪いの副作用か?いや、薬じゃねぇんだからそんなことねぇか…。どうであれ、たまったもんじゃねぇ。」

ジャックはブンブンと頭を振り、痛みを紛らわそうとした。

「何やってんのよ。とうとう頭イカれた?」

するとそこに風呂から上がったクロエがやってきて、ジャックの不思議な行動を呆れた様子で見ていた。

「うるせぇ、頭いてぇんだよ。」

「頭痛…?もしかしてロニーのバーにいた時もそうだったの?」

クロエは台に乗って冷蔵庫から牛乳を取り出しながら尋ねた。

「あ?ちょっと痛かったけどよ…そこまでじゃねぇよ。何でそう思ったんだ?」

「え?あ、いや…なんか様子がおかしいかった……かなぁって思ってたのよ。」

クロエは何となく誤魔化しながら牛乳をコップに注ぎ、ジャックの隣にちょこっと座った。

「なんか……どこ見てるか分からなかったというか…しんどいのかしら〜、なんて。」

「あ〜…。人のことよく見てんのな。」

ジャックは頭をワシャワシャと掻きながらそっぽを向いた。

「別に…グレン牧師と知り合いだったから、ちと心配だっただけだ。」

「あら?そうだったの?また仕事の関係で知り合ったのかしら?」

クロエは意外そうな顔をしながら牛乳を飲んだ。ジャックは少し表情を暗くさせながらしぶしぶ答えた。

「俺は……そこの孤児院で、産まれたんだよ。」

「え……。」

クロエは目を見開きながらジャックを見つめた。何か触れてはいけない事に触れてしまったような気がして、気まずくなった。

「…その、悪かったわね。気に触ったかしら…?」

「いやいや、別に孤児だった訳じゃねぇんだ。ただ……おふくろはそこで死んで、俺はその瞬間『切り裂きジャック』になった。」

ジャックがそう言った時、クロエの頭の中にジャックが『切り裂きジャック』になったきっかけが、最悪なものではないかという考えが過ぎった。幸いにもクロエがそれを確かめるため口を開く前に、ジャックがその答えを口にした。

「俺は……『おふくろを殺して切り裂きジャックになった』。」

「っ……!!!」

ジャックの瞳の奥が赤く光ったのを見て、クロエは風呂上がりにも関わらず寒気がした。自分が思い描いていた『切り裂きジャック』の姿が、ようやく現れ始めた気がした。

「これが、俺が『切り裂きジャック』になったきっかけ……。どうだ、人じゃねぇだろ?」

ジャックはふっと笑い、ソファーの上であぐらをかいた。クロエは暫く口が動かなかったが、勇気を振り絞って口を開いた。

「…何があったか知らないけど、あなたは何か事情がないとそんなことしないと思うわ。」

「…何だよ、気持ち悪ぃな…。いつもなら「ホント、流石殺人鬼ね……っ!親を殺すなんて、おかしいんじゃないの!?」とか言うだろうよ。」

ジャックは少し引きながらクロエの声を真似て言った。

「もう!そんな喋り方じゃないわよ!」

クロエはげしげしとジャックの横腹を蹴りながら怒った。

「ただ…あなたを見てると、思うのよ…。あたしの前にいる『切り裂きジャック』と、皆が思い描いて怯えている『切り裂きジャック』は違う。狂気に満ち、子供でも容赦なく殺してその身を血で染める…、でもあなたは人を助けてばっかり…バルは未遂だったとしても、あなたはあたしの前でまだ1度も人を殺してないわ。それに言ったじゃない、無闇に殺したりしないって。」

クロエは少し俯き、グラスを握りしめた。ジャックは心配そうにクロエの顔をのぞきこんだ。

「…どうしたんだよ急に…。あんたらしくねぇ。」

「うるさいわよ…。もういい、寝るわ。おやすみ。」

クロエはそう言ってグラスをテーブルに起き、さっさと自分の部屋に入ってしまった。

「……おやすみ…。」

一人残されたジャックはキョトンとしながら呟いた。





ークロエの部屋ー

「……っ。」

クロエは自分の部屋に入った後、何かこみ上げるものがあり、それを紛らわすようにベッドに飛び込んだ。

「……何で笑っていられるのよ。」

クロエは枕をぎゅっと抱きしめ、母親を殺したと言った時のジャックの顔を思い出した。

「今まで黙ってたってことは、本当は辛いんでしょ…?なのに何で笑うのよ…全然笑えないわよ…っ。」

クロエはふと自分のために死んだ少年のことを思い出し、ジャックと重ねてしまった。すると止めどなく涙が溢れ、大粒の涙が頬を伝った。

「…何であいつと重なるのよ…っ!何も一緒のところなんてないじゃ……っ。」

クロエは頭を抱え、肩を震わせた。するとふと呪いをかけた男が言っていた言葉が脳裏を過ぎった。

「…まさか、あの男が言っていたのって……。」

クロエは目を見開き、少年の運命とこの先のジャックの運命を比べてみた。

「あぁ……そういう事ね…。」

クロエは歪んだ笑みを浮かべ、顔を枕に埋めた。

「………もう引き返せないのよ、同情してる場合じゃない…あたしはあたしの人生を取り戻すのよ。同じ罪を辿ったって……あたしにはこの道しか残されてないの。」

クロエはまるで誰かに語りかけるように独り言を呟いた。すると誰かが自分の肩に触れたような気がし、そっとそこに触れた。

「……お願い、許してちょうだい……。」

クロエはそう呟き、糸が切れたように眠り始めた。その言葉をあの男に聞かれていたとは知らずに。
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