協力者
「はい、これでいいわ。」
ロニーは店に戻るとクロエから事情を説明してもらいながら、ジャックの手当をし、ついでに左腕の包帯も直してやった。
「悪い……。」
ジャックは上着を着て服装を整えた。
「いいのよ、これぐらい。それよりも大変ねぇ…厄介な呪いなんてかけられちゃって。」
「まぁ俺はもうちょっとでその男を誘き寄せるエサにされかけたがな。」
バルはカウンターの椅子に腰掛けながら苦笑いした。
「あんたが悪いことしようとするからいけないんでしょ?今度は何しようとしてたのよ?」
ロニーは救急箱をしまいながらバルに尋ねた。バルは腕組みをしながらにっと笑った。
「実はな…あの政府の野郎を上手く騙して、ある場所の権利書を頂こうとしてたんだ。」
「ある場所って…どこなの?」
クロエはロニーに出してもらったオレンジジュースを持ちながら首をかしげた。
「それはな、町外れにある教会なんだ。そこには孤児院もあってよ、沢山の子供がそこで暮らしてんだ。」
「そこって、グレンって牧師がいる所?」
ロニーは目を見開きながらバルを見つめた。バルは図星といったような表情をした。
「お?よく分かったな。そのグレン牧師に恩があってな…ちょっくら困ってるって言うから助けてやろうとこの手に出たってわけだ。」
そう言うとロニーは満面の笑みを浮かべてバルを抱き締めた。
「あんたよくやったわぁ!!今までろくな事してなかったのに、見直したわっ!」
「オイオイ!!苦しいって……!」
バルはロニーの腕を叩きながら足をばたつかせた。クロエは呆れたような顔をしながらジュースを飲み、ふと横目でジャックの方を見た。その時、ジャックの瞳は光を宿しておらず、どこを見ているのかさえ分からなかった。クロエはジャックのその表情に少し恐怖を覚えた。
「…そういえば、困ってることって…何かあったの?」
ロニーはバルから離れながら尋ねた。バルは襟を正しながら咳き込んだ。
「ゲホッ…。前の牧師が政府の裏の人間に土地の権利書を売っちまってたんだ。とある計画のためだったんだが、その牧師が死んじまってパーになっちまったらしい……だが最近権利書を他の政府の人間が見つけてな、その土地を開拓して工場を作ると立ち退きを要求してきたんだとよ。」
「それであんたが権利書を取り戻そうとしたのね。」
「あぁ……亡命先で知り合った人間に協力してもらって金を作って、パーになった計画を再実行してやるって口実で権利書を買い取るつもりだった。まさかあいつがあの化物だったとは思わなかったぜ。」
バルはため息を吐いた。
「ボウズがいなかったら、俺ぁ死んでた。理由はともあれ、助かったぜ。」
「あ…あぁ……、俺こそ勘違いしてエサにしようとしてて、悪かった。」
ジャックはハッと我に返り、苦笑いした。
「とはいえ…肝心の権利書は置いてきちまったな……。今頃雨でグチャグチャかもなぁ…。」
バルは少し落ち込んだ様子で呟いた。それを聞いてクロエは何かを思い出し、ポケットを漁った。
「あ、それならあたし拾ってたのよね。何の権利書か後で見ようと思って…、あ!あったわ!」
「嬢ちゃん!!でかしたぞ!!」
バルはクロエから権利書を受け取り、嬉しそうにそれを見た。少し濡れたとはいえ、何の問題は無かった。
「これであの教会は安心だ……。グレン牧師も喜ぶ…!」
「ふふっ、よかったわね。」
クロエは子供のように喜ぶバルを見て微笑んだ。
「ああ、これで恩も返せるってわけだ。」
バルはにかっと笑い、大事に権利書を鞄にしまった。
「そういや、その恩ってのは?」
「へへっ……実はこの国に戻ってくる時に昔敵対してた連中に見つかっちまって、まぁ撃たれるわ斬られるわで死にかけてたわけよ。幸いにも死んだと思われて連中は帰っていったが、動けず倒れてた俺をガキどもが見つけて牧師を呼んできた…それがグレン牧師だったのさ。奴は俺が危険な奴等に狙われてると分かっても教会に匿ってくれて、介抱してくれた。ガキどもも人懐っこくてなぁ…見舞いの花や菓子をくれるんだよ。そんな奴らがどこにも行く場所がないのに政府に立ち退きを迫られてるって聞いたら、じっとしてらんなくてな。」
「そうだったの……。」
ロニーは頬に手を当てながらバルを見つめた。
「でも、あんたも変わったわね。昔のあんたなら、助けてもらったってこんなことしなかったでしょうに。」
「まぁ、そうかもなぁ…。俺も徹底的に潰されてから、色々孤独だったから、人の優しさってのに気付いたのかもな。」
バルはフッと微笑み、髭を撫でた。 (目の前に潰した本人がいるとも知らずに)
「「うわっ、寒っ!」」
ジャックとクロエは口を揃えて言った。バルは顔を真っ赤にさせながら恥しそうに怒鳴った。
「ほ、ほっとけいっ!!」
「まぁまぁ、そう怒らないの。寒いオッサン。」
「お前もかっ!!」
ポンと肩を叩いたロニーの手をバルは振り払った。
「つーか、あんたもグレン牧師と知り合いなのか!?」
「ええ、そうよ?もうかれこれ二十年近い付き合いかしら?」
ロニーは頬に手を当てながら微笑んだ。
「戦争中に同じ軍隊に所属してたのよ。まぁあの子はあたしと四歳ぐらい離れてて、まだ成人してなかったんだけどね…、『鷹の目』とか言われちゃってて、射撃で大勢殺してたわ…。」
「え?二十年前って、この国戦争してたの!?」
クロエは目を見開いて驚いた。
「ええ、そりゃ派手にぶちまかしてたわ。そう…もう若い子達は知らないのねぇ。」
ロニーは少し悲しそうな顔をしながら呟いた。
「結局この国は周りの国を一気に征服して、大国家になったわ。その分多く血が流れた…味方も敵もね。王権が終わる時、二度とあの戦争が繰り返されないよう次に生まれてくる世代には戦争そのものを教えなかったわ。そしてあたし達は、あの記憶を自分の中に閉じ込めたの……忘れられない、あの地獄の記憶を。」
「そう言えば、あの化物もそんなこと言ってたわね。それで、我々はどうなる…的なことも言ってたわ。」
クロエは顎に手を添えながら先ほどの化物の言葉を思い出した。
「…まぁ、分からないこともないわよね。実際恐ろしい数の人間が死んだ酷い戦争だった……それが忘れられてしまうのは、何だか複雑だわ。」
「俺達ぁ、ただあの地獄を飲み込んで…墓場まで持っていかなきゃならねぇ。それもまた苦しいもんだよな…。」
バルもロニーと同じように悲しげな表情を見せた。
「…でも、それで戦争が起こらなくなるなら仕方ないんじゃないの?」
クロエは少し気まずそうにしながらも、そう言った。するとジャックは不機嫌そうに呟いた。
「…死んだ人間も、忘れられちまう。」
「え…?」
クロエはふと振り返り、ジャックを見つめた。ジャックは独り言のように、さらに続けた。
「そりゃ戦争が起こらなくなるのはいい事だ。だが、その戦争で死んだ人間も忘れられちまったら、その人間が生きてた証ってのが無くなる。誰かが覚えてなきゃ…死んだ人間がどんな生き方をして、どうやって死んだか…。」
「…お父さんと同じ事言うわね…。」
「あ…?」
ジャックはハッと顔を上げ、ロニーを見た。ロニーは少し微笑み、ジャックを撫でた。
「あの人も前に、同じようなこと言ってたわ。『死んだ者のことは、自分がしっかりと記憶する。そして、伝えるまでが、切り裂きジャックの務めだ。』ってね。」
「え!?『切り裂きジャック』って、あなたから始めたんじゃなかったの!?」
クロエは驚きを隠せず、目を見開いた。
「おう、『切り裂きジャック』は親父から引き継いだもんだ。ま、親父がどんな風にやってたかは知らねぇけどな。」
ジャックは鼻で笑い、背もたれに凭れた。ロニーは苦笑いしながらジャックを見た。
「流石親子って感じね。口調は全然違うけど、雰囲気はそっくり…。何だか懐かしいわ。」
「…あんま俺の前で親父の話しないでくれ。嫌いなんだよ、そーゆーの。」
ジャックは頭をわしゃわしゃと掻きながら不機嫌そうに言った。
「あらあら、それはごめんね。」
ロニーはよしよしとジャックを撫でながら謝った。ジャックは子供扱いされているのが気に食わず、さらにムスッと不機嫌になった。
「…でも、あたしはお父さんのことジャックって呼んでたからややこしいわね…。あ、Jrだからジュニちゃんって呼ぼうかしら!」
「ジュニちゃん!?」
「ハハハッ!いいじゃねぇか、可愛らしくてよ!」
バルは少し馬鹿にしたように笑った。クロエも必死に笑いを堪えていたが、プルプルと震えていた。
「でしょ!?じゃあジュニちゃん、これからあたしもその呪いをかけた男の捜索、協力するわ!よろしくね!」
「……その呼び方やめろぉおお!!!」
こうしてジャックとクロエに強力な助っ人、ロニーが加わった。
ロニーは店に戻るとクロエから事情を説明してもらいながら、ジャックの手当をし、ついでに左腕の包帯も直してやった。
「悪い……。」
ジャックは上着を着て服装を整えた。
「いいのよ、これぐらい。それよりも大変ねぇ…厄介な呪いなんてかけられちゃって。」
「まぁ俺はもうちょっとでその男を誘き寄せるエサにされかけたがな。」
バルはカウンターの椅子に腰掛けながら苦笑いした。
「あんたが悪いことしようとするからいけないんでしょ?今度は何しようとしてたのよ?」
ロニーは救急箱をしまいながらバルに尋ねた。バルは腕組みをしながらにっと笑った。
「実はな…あの政府の野郎を上手く騙して、ある場所の権利書を頂こうとしてたんだ。」
「ある場所って…どこなの?」
クロエはロニーに出してもらったオレンジジュースを持ちながら首をかしげた。
「それはな、町外れにある教会なんだ。そこには孤児院もあってよ、沢山の子供がそこで暮らしてんだ。」
「そこって、グレンって牧師がいる所?」
ロニーは目を見開きながらバルを見つめた。バルは図星といったような表情をした。
「お?よく分かったな。そのグレン牧師に恩があってな…ちょっくら困ってるって言うから助けてやろうとこの手に出たってわけだ。」
そう言うとロニーは満面の笑みを浮かべてバルを抱き締めた。
「あんたよくやったわぁ!!今までろくな事してなかったのに、見直したわっ!」
「オイオイ!!苦しいって……!」
バルはロニーの腕を叩きながら足をばたつかせた。クロエは呆れたような顔をしながらジュースを飲み、ふと横目でジャックの方を見た。その時、ジャックの瞳は光を宿しておらず、どこを見ているのかさえ分からなかった。クロエはジャックのその表情に少し恐怖を覚えた。
「…そういえば、困ってることって…何かあったの?」
ロニーはバルから離れながら尋ねた。バルは襟を正しながら咳き込んだ。
「ゲホッ…。前の牧師が政府の裏の人間に土地の権利書を売っちまってたんだ。とある計画のためだったんだが、その牧師が死んじまってパーになっちまったらしい……だが最近権利書を他の政府の人間が見つけてな、その土地を開拓して工場を作ると立ち退きを要求してきたんだとよ。」
「それであんたが権利書を取り戻そうとしたのね。」
「あぁ……亡命先で知り合った人間に協力してもらって金を作って、パーになった計画を再実行してやるって口実で権利書を買い取るつもりだった。まさかあいつがあの化物だったとは思わなかったぜ。」
バルはため息を吐いた。
「ボウズがいなかったら、俺ぁ死んでた。理由はともあれ、助かったぜ。」
「あ…あぁ……、俺こそ勘違いしてエサにしようとしてて、悪かった。」
ジャックはハッと我に返り、苦笑いした。
「とはいえ…肝心の権利書は置いてきちまったな……。今頃雨でグチャグチャかもなぁ…。」
バルは少し落ち込んだ様子で呟いた。それを聞いてクロエは何かを思い出し、ポケットを漁った。
「あ、それならあたし拾ってたのよね。何の権利書か後で見ようと思って…、あ!あったわ!」
「嬢ちゃん!!でかしたぞ!!」
バルはクロエから権利書を受け取り、嬉しそうにそれを見た。少し濡れたとはいえ、何の問題は無かった。
「これであの教会は安心だ……。グレン牧師も喜ぶ…!」
「ふふっ、よかったわね。」
クロエは子供のように喜ぶバルを見て微笑んだ。
「ああ、これで恩も返せるってわけだ。」
バルはにかっと笑い、大事に権利書を鞄にしまった。
「そういや、その恩ってのは?」
「へへっ……実はこの国に戻ってくる時に昔敵対してた連中に見つかっちまって、まぁ撃たれるわ斬られるわで死にかけてたわけよ。幸いにも死んだと思われて連中は帰っていったが、動けず倒れてた俺をガキどもが見つけて牧師を呼んできた…それがグレン牧師だったのさ。奴は俺が危険な奴等に狙われてると分かっても教会に匿ってくれて、介抱してくれた。ガキどもも人懐っこくてなぁ…見舞いの花や菓子をくれるんだよ。そんな奴らがどこにも行く場所がないのに政府に立ち退きを迫られてるって聞いたら、じっとしてらんなくてな。」
「そうだったの……。」
ロニーは頬に手を当てながらバルを見つめた。
「でも、あんたも変わったわね。昔のあんたなら、助けてもらったってこんなことしなかったでしょうに。」
「まぁ、そうかもなぁ…。俺も徹底的に潰されてから、色々孤独だったから、人の優しさってのに気付いたのかもな。」
バルはフッと微笑み、髭を撫でた。 (目の前に潰した本人がいるとも知らずに)
「「うわっ、寒っ!」」
ジャックとクロエは口を揃えて言った。バルは顔を真っ赤にさせながら恥しそうに怒鳴った。
「ほ、ほっとけいっ!!」
「まぁまぁ、そう怒らないの。寒いオッサン。」
「お前もかっ!!」
ポンと肩を叩いたロニーの手をバルは振り払った。
「つーか、あんたもグレン牧師と知り合いなのか!?」
「ええ、そうよ?もうかれこれ二十年近い付き合いかしら?」
ロニーは頬に手を当てながら微笑んだ。
「戦争中に同じ軍隊に所属してたのよ。まぁあの子はあたしと四歳ぐらい離れてて、まだ成人してなかったんだけどね…、『鷹の目』とか言われちゃってて、射撃で大勢殺してたわ…。」
「え?二十年前って、この国戦争してたの!?」
クロエは目を見開いて驚いた。
「ええ、そりゃ派手にぶちまかしてたわ。そう…もう若い子達は知らないのねぇ。」
ロニーは少し悲しそうな顔をしながら呟いた。
「結局この国は周りの国を一気に征服して、大国家になったわ。その分多く血が流れた…味方も敵もね。王権が終わる時、二度とあの戦争が繰り返されないよう次に生まれてくる世代には戦争そのものを教えなかったわ。そしてあたし達は、あの記憶を自分の中に閉じ込めたの……忘れられない、あの地獄の記憶を。」
「そう言えば、あの化物もそんなこと言ってたわね。それで、我々はどうなる…的なことも言ってたわ。」
クロエは顎に手を添えながら先ほどの化物の言葉を思い出した。
「…まぁ、分からないこともないわよね。実際恐ろしい数の人間が死んだ酷い戦争だった……それが忘れられてしまうのは、何だか複雑だわ。」
「俺達ぁ、ただあの地獄を飲み込んで…墓場まで持っていかなきゃならねぇ。それもまた苦しいもんだよな…。」
バルもロニーと同じように悲しげな表情を見せた。
「…でも、それで戦争が起こらなくなるなら仕方ないんじゃないの?」
クロエは少し気まずそうにしながらも、そう言った。するとジャックは不機嫌そうに呟いた。
「…死んだ人間も、忘れられちまう。」
「え…?」
クロエはふと振り返り、ジャックを見つめた。ジャックは独り言のように、さらに続けた。
「そりゃ戦争が起こらなくなるのはいい事だ。だが、その戦争で死んだ人間も忘れられちまったら、その人間が生きてた証ってのが無くなる。誰かが覚えてなきゃ…死んだ人間がどんな生き方をして、どうやって死んだか…。」
「…お父さんと同じ事言うわね…。」
「あ…?」
ジャックはハッと顔を上げ、ロニーを見た。ロニーは少し微笑み、ジャックを撫でた。
「あの人も前に、同じようなこと言ってたわ。『死んだ者のことは、自分がしっかりと記憶する。そして、伝えるまでが、切り裂きジャックの務めだ。』ってね。」
「え!?『切り裂きジャック』って、あなたから始めたんじゃなかったの!?」
クロエは驚きを隠せず、目を見開いた。
「おう、『切り裂きジャック』は親父から引き継いだもんだ。ま、親父がどんな風にやってたかは知らねぇけどな。」
ジャックは鼻で笑い、背もたれに凭れた。ロニーは苦笑いしながらジャックを見た。
「流石親子って感じね。口調は全然違うけど、雰囲気はそっくり…。何だか懐かしいわ。」
「…あんま俺の前で親父の話しないでくれ。嫌いなんだよ、そーゆーの。」
ジャックは頭をわしゃわしゃと掻きながら不機嫌そうに言った。
「あらあら、それはごめんね。」
ロニーはよしよしとジャックを撫でながら謝った。ジャックは子供扱いされているのが気に食わず、さらにムスッと不機嫌になった。
「…でも、あたしはお父さんのことジャックって呼んでたからややこしいわね…。あ、Jrだからジュニちゃんって呼ぼうかしら!」
「ジュニちゃん!?」
「ハハハッ!いいじゃねぇか、可愛らしくてよ!」
バルは少し馬鹿にしたように笑った。クロエも必死に笑いを堪えていたが、プルプルと震えていた。
「でしょ!?じゃあジュニちゃん、これからあたしもその呪いをかけた男の捜索、協力するわ!よろしくね!」
「……その呼び方やめろぉおお!!!」
こうしてジャックとクロエに強力な助っ人、ロニーが加わった。
