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協力者

「昼間っから騒がしいッ!!!」

すると誰かが化け物の背中に向かって飛び蹴りを食らわせた。化け物の体はミシミシと鈍い音を立てながらジャックを通り越して突き飛ばされた。

「………うわっ。」

ジャックは状況が理解できず、キョトンとしていたが、跳び蹴りをした本人を見て顔を青ざめさせた。

「全く!化け物め!!こちとら開店準備で忙しいのよ!!道も壊しやがって客が減るじゃないのよ!!」

ジャックの目の前には筋肉が付いたがたいの良い体をした坊主の男が立っていたが、話し方はどこか女っぽく、身につけていたエプロンも大変可愛らしい物だった。

「大丈夫か、ボウズ!?」

するとその後ろから先程の男が駆け寄ってきた。

「てめぇ、逃げろって言ったのに…!」

「ガキ置いて自分だけ助かるほど神経腐ってねぇわ!嬢ちゃんも大丈夫か!?」

「えぇ……大丈夫だけど……。誰このおか……ムグッ。」

クロエがある言葉を口にしようとすると、ジャックは咄嗟にクロエの口を塞いだ。

「シーッ!!」

「あら……今何か失礼な言葉が聞こえてきたような気がしたんだけど?」

「い、いやぁ……そんなことは無いと思いますがねぇ、あは、あはは!」

ジャックは必死にごまかしながら苦笑いした。そうこうしている間に、化け物はのそっと起き上がってきた。

「まだ動くの?しつこいわねぇ、もう一発食らわせてあげましょうか?」

女口調の男は拳を握って身構えたが、急に雨が上がり、化け物の動きが止まった。

「あ、雨が……。」

クロエが呟くと、化け物は地面に溶け込むようにして消えていった。

「ふんっ。一昨日きやがれってのよ!」

「すまんな、突然連れ出しちまって……。『鉄拳のロニー』なら何とか相手できんじゃねぇかと思ってな…。」

男は申し訳なさそうに頭を軽く下げた。『鉄拳のロニー』と呼ばれた女口調の男、ロニーは苦笑いした。

「やめて頂戴、その呼び方は…。今の私は『BARを営む乙女』よ。」

「ははっ!そうだったな!!」

男は自分の膝を叩きながら笑った。そしてジャックの方を見て、手を差しのべた。

「俺を逃がしてくれてありがとよ。俺はバルってんだ、今度礼をさしてくれ。」

「お、おう……。」

ジャックはバルの手を取り、ゆっくり立ち上がった。

「うちの常連が久々に現れたと思ったら、ガキを助けてくれって言うんだもの。びっくりしちゃったわ。」

ロニーは腕組みをしながらじっとジャックとクロエを見つめた。

「あんたも何したか知らないけど、こんな訳ありのガキと女の子に助けられちゃって面目ないわね。また悪いこと企んでたんじゃないの??」

「まぁ考えてねぇとは言えねぇな。だが今回はちょっと違うぜ?」

バルは少し伸びた髭を触りながら微笑んだ。ロニーは怪しいと言わんばかりにじとっとバルを睨んだが、すぐにジャックに視線を移した。

「……。」

(……ちょっとジャック!なんか凄い見られてるわよ!?しかもあなたこのオカマのこと知ってるっぽいじゃない!どういう関係!?)

クロエはジャックの袖を引っ張りながら小声で話し掛けた。

(いやぁ……呪いがかかる前に情報屋として協力してくれてたんだよ。なんせ親父と縁があってな。)

ジャックは苦笑いしながら答えた。

(だが今じゃ俺のこと覚えてねぇんだろ?色々面倒だしよ、ここは初対面ってことでやり過ごそうぜ?)

(まぁそうだけど……まだ見てるわよ……?)

クロエはチラッとロニーを見たが、ロニーは腕組みをしたままジャックを見つめ続けていた。

「……あ、あのぉ…何か俺の顔についてます?」

ジャックは恐る恐るロニーに尋ねた。暫く黙ってからロニーはそっと口を開いた。

「…ジャック……?」

ロニーのその言葉に、クロエは目を見開いた。

「な、何故あなたのことを覚えているの……こんなの、あり得ない!」

クロエは混乱し、頭を抱えた。その一方で、ジャックはすぐに原因が分かったのか案外平然としていた。

「何でそんなに落ち着いてるのよ!!呪いのかかってない人間があなたのことを覚えているはずないのよ!?」

「いや、だってよ……って、うぉっ!?」

ジャックは訳を話そうとしたが、それはロニーがジャックの肩をガシッとつかんで間近で顔を見つめ始めたことによって遮られた。

「……いや、違う。でもそれにしては似すぎてるわ…匂いも同じ。」

「犬!?」

クロエの突っ込みも気にせず、ロニーはジャックの頬にそっと触れた。

「……まさか、あなた……ジャックの?」

「……あぁ、息子さ。」

ジャックは苦笑いしながら頷いた。するとロニーはぱぁっと嬉しそうに笑みを浮かべながら、ジャックを思い切り抱き締めた。

「あぁっ!!やっぱりね!!あの後どうなったのかよく分かってなかったから心配してたけど……こんなに立派に育ってたのねぇ…!!」

「グォエッ……!?」

「おいおい、ボウズ死んじまうぜ。」

バルは呼吸が出来ずに泡を吹きかけているジャックからロニーを慌てて引き剝がした。クロエは意味が理解できず、キョトンとしていた。

「……息子?ジャックの息子が……ジャック??え??」

「あら?あの子ったら子供に父親の名前をつけたの?」

ロニーは顎に手を添えながら首を傾げた。ジャックは深く息を吸い込みながら体勢を整えた。

「いや、そう言うわけじゃなくてよ……。」

「まさか……ジャックの仕事、勝手に継いだんじゃないでしょうね!?」

ロニーはものすごい鬼の形相でジャックに詰め寄った。ジャックはギクッと肩を振るわしながら後退りした。

「ゲッ……バレた……。」

「バレた、じゃないわよ!この馬鹿息子!!それがどういうことなのか分かってるの!?」

ロニーはジャックの胸ぐらをつかみ、怒鳴りつけた。

「……分かってるさ。」

ジャックは静かにそう答え、ロニーの手を掴んだ。

「……それを、ジャックやマリアが望んでると思ってるの?そんなものを、子供に背負わせたいと……!!」

「……俺が望んで背負ってんだよ…っ!!」

「っ……!」

ジャックが俯きながらそう叫ぶと、ロニーはハッとして手の力を緩めた。それを見てバルはロニーの肩を掴んだ。

「……外じゃなんだ、今日は俺が店を貸し切るから、一杯しながらゆっくり話そうぜ?」

「……そうね…。あなたたちもおいで、傷の手当てもしなきゃ。」

ロニーは少し悲しそうに微笑みながら立ち上がった。ジャックも黙って頷き、立ち上がった。

「……。」

クロエは『切り裂きジャック』にはただならぬ過去があることを悟り、とんでもない者に手をかけてしまったような気がした。そして店に向かって歩き出したジャックの背中から何かの感情も感じたが、それが決して明るいものではないこと以外よくわからなかった。

「おい、置いてくぞ。」

ジャックが振り返ってクロエに声をかけたとき、クロエは我に返って慌ててジャックの背中を追い掛けた。
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