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ひとときの安らぎ

「……んんっ。」

暫くしてクロエは身動ぎすると、目を覚ました。まだ朝ではなく外は真っ暗だったが、リビングの電気はついていた。

「…あたし、いつ着替えて寝たのかしら。それに、冷え○タなんて……。」

クロエは自分の額に手を当てた。

「あら……あたし、熱あったの?」

「お、起きたか。」

するとジャックはおぼんを持って入ってきた。

「驚いたぜ。音がしねぇから探してみたら、キッチンで熱出して唸ってるんだからよ。」

ジャックはベッドの端に座り、おぼんを差し出した。その上には雑炊と薬が置いてあった。

「ほら、これ食ってゆっくり寝ろよ。結構熱高いからな。」

「…片手だから作れなかったんじゃなかったの?」

「あぁ、だから作るの苦労したんだろうが。玉子なんか何個無駄にしたか……。」

ジャックはため息を吐きながら肩を落とした。クロエは少しジャックを見つめてから体を起こした。

「急に動くなよ。」

ジャックはそっとクロエの背中を支え、枕を背もたれにしてやった。

「…ありがとう。」

クロエは枕にもたれかかり、雑炊を一口口に入れた。

「……何これ、美味しい。」

クロエは子供のように瞳を輝かせながら呟いた。(実際今は子供なのだが)

「だろ?伊達に一人暮らししてきてねぇぜ。」

ジャックは自慢気に胸を張った。

「何度この雑炊で風邪やインフルエンザを薬なしで乗り切ってきたことか。」

「それはただの馬鹿でしょ。インフルエンザは流石に治らないわよ。」

クロエは苦笑いしながら雑炊を食べ進めた。ジャックはそれを見て微笑んだ。

「ま、そんだけ食えりゃ、大丈夫だな。雨に濡れて体が冷えたんだろ。」

「子供の体は弱いから困るのよね…いつもの姿なら、こんなことでたおれたりしないもの。」

クロエはため息を吐きながら呟いた。

「そーだろうな。ま、大人の女が熱で倒れてたら色気満載で手を出さずにはいられねぇだろうけどな、シシシッ。」

ジャックは悪戯っぽく笑い、咄嗟にフライパンを出して殴ろうとしたクロエの攻撃を避けた。

「あなたがそんな変態だとは思わなかったわ!」

「変態じゃねぇよ、男の本能だ、本能。」

「さいってい!!」

二人は暫く睨み合ったが、途中我慢が出来なくなり、同時に笑い出した。

「フフッ、馬鹿馬鹿しい。」

「にしし、違いねぇや。」

二人は暫く笑いあうと、呼吸を落ち着かせながら言った。

「さ、食ったら薬飲んで寝ろ。また熱上がるぞ。」

「わかってるわよ。雑炊御馳走様。」

「ん。」

ジャックは返されたおぼんを受け取り、スッと立ち上がった。

「寝てる間に冷え○タ貼り替えてやるから、気にせず寝とけよ。」

「良いわよ別に、そこまでしなくても。」

「かっぴかぴになるだろ?」

ジャックはにっと笑うと、部屋を出た。

「おやすみ。」

「…おやすみ。」

クロエは微笑むと、薬を飲んで再び横になった。





「……ホントガキだなぁ。」

ジャックは扉を閉めるとふっと微笑み、食器をシングに置いてソファーに座り込んだ。

「雨に濡れたぐらいで風邪引くなんて、なんか可愛らしい感じもするけど、中身俺より年上なんだよなぁ。複雑だぜ…。」

ジャックはヘアバンドを取ると、髪の毛をクシャクシャと崩した。

「ま、なんか世話の焼ける妹みてぇで、悪くはねぇけど。」

ジャックはニヤリと笑い、ソファーに寝転がった。

「…暗殺鬼がこんなガキの世話してるなんて、馬鹿馬鹿しいが…今まで一人で退屈だった生活もちったぁマシになるか。変な呪いのおかげで強くなったし、これで本来の目的が達成できりゃ儲けもんだな。」

ジャックはナイフを取り出し、器用にクルクルと回し始めた。ナイフに関しては右手でも扱えるようだ。

「…あんたのやり残したこときっちりと片づけて…あんた自身を殺してやるよ、親父。」

そう言うとジャックはナイフを柱と天井の境目に投げつけた。そこには一人の男の写真が貼られており、既に何度も刺されてボロボロになっていた。

「この、『切り裂きジャック』の名にかけて…てな。」

その言葉に密かに込められたジャックの強い意志は、今はまだ誰にも知られることはなかった。
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