「あー！それはこっちに置くのよ！そっちにはこの棚置いてちょうだい！！」

「……この野郎、俺のエリアどんだけ狭くすれば気が済むんだ！！」

クロエは部屋に戻るやいなや、買ったものを広げて部屋の模様替えを始めた。一部屋のつもりが、ドンドン範囲が広がっていき、四分の三ほどクロエのエリアになってしまっていた。

「あ～、快適空間～！これぐらい最低ないとねぇ。」

「黙れ黙れ黙れ！！！どっちが居候かわからねぇことになってんだろうが！！ただでさえてめぇにベッド取られてソファーでしか寝れねぇのに部屋まで制限するたぁとんだご身分だなおいっ！！！」

「元々部屋がらがらで使ってなかったじゃないの。あたしが活用してあげてるのよ、か・つ・よ・う。」

クロエはジャックににこっと微笑みかけながら言った。それが余計にジャックを苛ただせた。

「何が、か・つ・よ・うっだ！！仕事の書類やらナイフの手入れで使うのに必要最低限しか置いてねぇんだよ！ガチャガチャ置いてたら作業できねぇだろうが！！」

「そうゆうの几帳面過ぎるっていうのよ。嫌な男の典型的な性格よねぇ。」

「フンッ。てめぇこそ人に迷惑かけまくる自分勝手な嫌な女だろうが。」
　
ジャックはぼすっとソファーに座り、山積みになったレシートをまとめ始めた。

「あなたがやっていいって言ったんじゃないのよ。」

「誰がここまでやっていいって言った！」

「ケチ。」

クロエは頬を膨らませながら香水の瓶を並べた。

「…っ。」

するとクロエは急に頭を押さえて顔をしかめた。ジャックはそれに気がつくと、肘おきに顎を置いて尋ねた。

「どうした？」

「…いや、ちょっと頭が痛くて……。」

「ほーら、人のこといじめるからまた呪いかけられてんじゃねぇの？ギャハハッ！！」

「もうっ！本当に痛いんだから！てか、あなたの笑い方きもいんだけど、なんとかならないの？」

クロエは眉間を擦りながらジャックをじとっと睨んだ。

「んなっ！？きもいってなんだよ！？」

「きもいものはきもいのよ！あーもう、おなかすいたからご飯作りなさいよ！」

「この野郎！またわがまま言いやがって！俺が今右手しか使えねぇのわかってんだろうが！！自分でそんぐらい作れよ！」

「あたしがキッチンの高さに足りてないの知ってるでしょう！？どうやって作れって言うのよ！」

「じゃあ出来てるの買ってこいよ！俺はもう疲れた！」

ジャックはそう言うと毛布を頭までかぶり、ソファーでうずくまった。

「……フンッ。」

クロエは眠ったジャックを少し寂しそうに見つめると、キッチンに行き何かないかと台に乗って冷蔵庫を漁った。

「…うぅっ、頭痛いっ…。」

しかしだんだん頭痛は酷くなり、クロエは台の上で頭を抱えてうずくまった。

「っ……。」




「……ん。」

暫く寝たふりをしていたジャックは物音がしなくなったことに気がつき、体を起こした。

「…諦めて寝たか？」

ジャックは立ち上がり寝室を覗いてみたが、クロエの姿はなかった。

「…外には出ていってねぇしなぁ。どこだ？」

ジャックはトイレや風呂を覗き、最後にキッチンに行ってみると、クロエが台に座って冷蔵庫に凭れていた。

「あ？おい、何して…」

ジャックはクロエの肩をつかむと、すぐに異変に気がついた。クロエの体は熱くなっており、呼吸も荒くなっていた。

「……あーあ、こりゃ雨にやられたな。全くどこまでも迷惑かけやがって。」

ジャックは呆れたように苦笑いし、器用に片腕でクロエを抱き抱えると、ベッドまで運んでゆっくりと寝かせた。

「………さすがに着替えさせると犯罪になるよな、これ。いや、実際は俺より年上だからセーフか？……いやアウトか。」

ジャックは悶々と悩んだが、流石に汗で冷えて悪化されても困るので、仕方なくなるべく見ないようにパジャマに着替えさせた。

「………これで殴られたらマジで理不尽だぜ。」