謎の襲撃者
「……。」
ジャックは町の商店街を歩きながらタバコを一本咥え、静かに火をつけた。いつもなら家で普通に吸っているのだが、クロエが臭いと文句を言うので、仕方なく外で吸うようになった。
「…ちっ、居候のくせに人の事情に首突っ込もうとすんなよな。」
ジャックは煙を吐くと、ふと空を見上げた。
「…なんか天気が怪しいな…。くそ、今日はついてねぇ。」
ジャックはある程度タバコを吸うと、早めに戻ろうとした。すると路地の方に黒い何かが入っていくのを見かけた。
「あ?何だありゃ…猫か?」
ジャックは何となく気になり、それを追いかけて路地に入ってみた。しかしそこには何もなく、空き缶が転がっているぐらいだった。
「…見間違いだったか。」
ジャックはふっと笑い、戻ろうと踵を返した。すると、目の前に真っ黒な人らしきものが立っていた。
「……。」
「……。」
ジャックは暫く黙ってそれと顔を見つめ合うと、一度背を向け、路地の奥を見て落ち着こうとした。
「…待て待て、落ち着け、落ち着け俺…。何も無い、何も無かった。そうだ、真っ黒な人間なんていなかった。どっかの探偵物の犯人みたいな人間なんて……。」
ジャックはそう呟きながらもう一度後ろを振り返ってみたが、やはりそれは存在していた。それはスッと腕を振りあげると、手を鎌のような形に変え、ジャックに振り下ろしてきた。
「……ぎぃいやぁああああ!!!」
ジャックは悲鳴をあげながら鎌を避け、それの脇下をくぐって逃げ出した。
「なんだなんだ!?意味がわかんねぇ!!あんなん人間じゃありえねぇよ!?どうなってんだ一体!!」
それはジャックを追いかけるようにゆらりと路地から出てきた。それを見た他の住民たちは、悲鳴をあげて逃げ出した。それは暫く逃げ惑う住民たちを眺めるように立っていたが、やがて恐怖で立ち竦む子供に近付いていった。
「っ!」
ジャックはそれを見て足を止めた。
「あ…っ。」
子供は声も出ず、ただ震えて座り込んでしまった。それは音も立てずに静かに鎌を振り上げ、子供に向かって振り下ろした。
「クソッ!!」
ジャックは咄嗟に左肩の包帯を引きちぎりながら走りだした。すると今まで感じたことのないような感覚が全身に行き渡り、地を蹴った足の跳躍力がピストルの弾のように上がって一瞬で子供の前に辿り着いた。そして左肩からあの真っ黒な腕が現れると、鎌をそれで受け止めた。
「くっ…!!」
ジャックは状況が全く出来なかったが、今はそれどころではなかった。鎌を受け止めている腕は多少痛みはあるものの、全く刃を通しておらず、まるで鉄のような硬さになっていた。
「何なんだよお前…どこのバケモンだゴルァア!」
ジャックは鎌を振り払い、それを思い切り蹴り飛ばした。その蹴りの強さも今までとは比べ物にならないくらい強くなっており、それは反対側の建物の壁に叩き付けられた。
「おい、逃げるぞ!」
ジャックは右腕で子供をヒョイっと抱え込んだ。
「お、お兄ちゃんありがと……っ。」
子供は少しジャックの腕に戸惑いながらも、しっかりとしがみついた。ジャックはにっと笑い、他の人々と紛れて走りながら叫んだ。
「テメェらももっと走れ!あれは誰構わず殺しに来るぞ!!死にたくなかったら早く逃げろ!!」
様子を窺っていた住民もジャックの声を聞いて逃げ出し、国の中心部にある避難地域へ入っていった。そこには5mもある壁がそびえ立っており、食料や兵器、戦機まで揃っている。
「取り敢えずお前はここにいろ、きっと親もすぐに迎えに来る。」
ジャックは子供を下ろすと、兵隊の一人に預けた。
「…お兄ちゃんは?」
「俺は連れを探しに行く。お前より弱くて、足くそ遅せぇからな。」
ジャックは子供の頭をポンポンと撫でると、店に戻ろうとした。すると兵隊が敬礼しながらジャックにお礼を言った。
「子供を救助していただき、感謝致します!くれぐれもお気を付けて、すぐこちらに避難してください!」
「…あぁ。」
ジャックは少し複雑な気持ちになりながら、クロエを探しに雨が降り出した町へ戻っていった。
「…さてはて、これは一体どういう事ですかな?」
ジャックの様子を遠くの塔の上から見ていた一人の老人は、傍にいる男を見つめた。その男は以前ジャックに殺されかけ、呪いをかけた張本人だった。男は首を傾げながら苦笑いした。
「さてね…僕にもよく分からない。だけど、まさか切り裂きジャックを覚えている人物がいただなんてね…。たぶん、罪の罰を受けて死ぬはずだった彼が奇跡的に生き残ってしまい、今まで彼に殺された者の怨念が成仏できずに暴走してしまったんじゃないかな?」
「もしそれが『上』にバレたら一体どうなさるおつもりで?貴方様に全て責任が問われますぞ。」
老人は少し低めの声で男に言った。男はふっと笑い、町を見つめた。
「さぁ?元々この仕事を僕に任せたのは彼らだろ?どうなろうと、それを僕に任せた彼らが悪い。それに…、」
男は瞳を細めながら呟いた。
「…この国そのものが、罪の塊なんだ。滅んだって仕方ない身さ。」
「全く貴方様はいつもそうですな…。少しは私の立場も考えて頂きたいものです。」
老人は頭を抱えながら溜息を吐いた。男はクスッと笑いながら老人を見た。
「そう言うけど、僕の側近を名乗り出たのは貴方自身じゃないか。それに、本当は少し楽しいんじゃない?」
「…まぁ、否定はできませぬな。」
老人がふっと笑うと、男はロングコートを羽織って傘をさした。
「さぁ、楽しいパーティーはこれからだ。この国の運命を、しかとこの目に焼き付けようじゃないか…この、罪の運命をね。」
男はそう言うと、塔から飛び降り、泡の様に消えた。
ジャックは町の商店街を歩きながらタバコを一本咥え、静かに火をつけた。いつもなら家で普通に吸っているのだが、クロエが臭いと文句を言うので、仕方なく外で吸うようになった。
「…ちっ、居候のくせに人の事情に首突っ込もうとすんなよな。」
ジャックは煙を吐くと、ふと空を見上げた。
「…なんか天気が怪しいな…。くそ、今日はついてねぇ。」
ジャックはある程度タバコを吸うと、早めに戻ろうとした。すると路地の方に黒い何かが入っていくのを見かけた。
「あ?何だありゃ…猫か?」
ジャックは何となく気になり、それを追いかけて路地に入ってみた。しかしそこには何もなく、空き缶が転がっているぐらいだった。
「…見間違いだったか。」
ジャックはふっと笑い、戻ろうと踵を返した。すると、目の前に真っ黒な人らしきものが立っていた。
「……。」
「……。」
ジャックは暫く黙ってそれと顔を見つめ合うと、一度背を向け、路地の奥を見て落ち着こうとした。
「…待て待て、落ち着け、落ち着け俺…。何も無い、何も無かった。そうだ、真っ黒な人間なんていなかった。どっかの探偵物の犯人みたいな人間なんて……。」
ジャックはそう呟きながらもう一度後ろを振り返ってみたが、やはりそれは存在していた。それはスッと腕を振りあげると、手を鎌のような形に変え、ジャックに振り下ろしてきた。
「……ぎぃいやぁああああ!!!」
ジャックは悲鳴をあげながら鎌を避け、それの脇下をくぐって逃げ出した。
「なんだなんだ!?意味がわかんねぇ!!あんなん人間じゃありえねぇよ!?どうなってんだ一体!!」
それはジャックを追いかけるようにゆらりと路地から出てきた。それを見た他の住民たちは、悲鳴をあげて逃げ出した。それは暫く逃げ惑う住民たちを眺めるように立っていたが、やがて恐怖で立ち竦む子供に近付いていった。
「っ!」
ジャックはそれを見て足を止めた。
「あ…っ。」
子供は声も出ず、ただ震えて座り込んでしまった。それは音も立てずに静かに鎌を振り上げ、子供に向かって振り下ろした。
「クソッ!!」
ジャックは咄嗟に左肩の包帯を引きちぎりながら走りだした。すると今まで感じたことのないような感覚が全身に行き渡り、地を蹴った足の跳躍力がピストルの弾のように上がって一瞬で子供の前に辿り着いた。そして左肩からあの真っ黒な腕が現れると、鎌をそれで受け止めた。
「くっ…!!」
ジャックは状況が全く出来なかったが、今はそれどころではなかった。鎌を受け止めている腕は多少痛みはあるものの、全く刃を通しておらず、まるで鉄のような硬さになっていた。
「何なんだよお前…どこのバケモンだゴルァア!」
ジャックは鎌を振り払い、それを思い切り蹴り飛ばした。その蹴りの強さも今までとは比べ物にならないくらい強くなっており、それは反対側の建物の壁に叩き付けられた。
「おい、逃げるぞ!」
ジャックは右腕で子供をヒョイっと抱え込んだ。
「お、お兄ちゃんありがと……っ。」
子供は少しジャックの腕に戸惑いながらも、しっかりとしがみついた。ジャックはにっと笑い、他の人々と紛れて走りながら叫んだ。
「テメェらももっと走れ!あれは誰構わず殺しに来るぞ!!死にたくなかったら早く逃げろ!!」
様子を窺っていた住民もジャックの声を聞いて逃げ出し、国の中心部にある避難地域へ入っていった。そこには5mもある壁がそびえ立っており、食料や兵器、戦機まで揃っている。
「取り敢えずお前はここにいろ、きっと親もすぐに迎えに来る。」
ジャックは子供を下ろすと、兵隊の一人に預けた。
「…お兄ちゃんは?」
「俺は連れを探しに行く。お前より弱くて、足くそ遅せぇからな。」
ジャックは子供の頭をポンポンと撫でると、店に戻ろうとした。すると兵隊が敬礼しながらジャックにお礼を言った。
「子供を救助していただき、感謝致します!くれぐれもお気を付けて、すぐこちらに避難してください!」
「…あぁ。」
ジャックは少し複雑な気持ちになりながら、クロエを探しに雨が降り出した町へ戻っていった。
「…さてはて、これは一体どういう事ですかな?」
ジャックの様子を遠くの塔の上から見ていた一人の老人は、傍にいる男を見つめた。その男は以前ジャックに殺されかけ、呪いをかけた張本人だった。男は首を傾げながら苦笑いした。
「さてね…僕にもよく分からない。だけど、まさか切り裂きジャックを覚えている人物がいただなんてね…。たぶん、罪の罰を受けて死ぬはずだった彼が奇跡的に生き残ってしまい、今まで彼に殺された者の怨念が成仏できずに暴走してしまったんじゃないかな?」
「もしそれが『上』にバレたら一体どうなさるおつもりで?貴方様に全て責任が問われますぞ。」
老人は少し低めの声で男に言った。男はふっと笑い、町を見つめた。
「さぁ?元々この仕事を僕に任せたのは彼らだろ?どうなろうと、それを僕に任せた彼らが悪い。それに…、」
男は瞳を細めながら呟いた。
「…この国そのものが、罪の塊なんだ。滅んだって仕方ない身さ。」
「全く貴方様はいつもそうですな…。少しは私の立場も考えて頂きたいものです。」
老人は頭を抱えながら溜息を吐いた。男はクスッと笑いながら老人を見た。
「そう言うけど、僕の側近を名乗り出たのは貴方自身じゃないか。それに、本当は少し楽しいんじゃない?」
「…まぁ、否定はできませぬな。」
老人がふっと笑うと、男はロングコートを羽織って傘をさした。
「さぁ、楽しいパーティーはこれからだ。この国の運命を、しかとこの目に焼き付けようじゃないか…この、罪の運命をね。」
男はそう言うと、塔から飛び降り、泡の様に消えた。