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作品小ネタ集

玉座を磨く人

2020/03/10 00:48
二次
*pkmn剣盾sss。特に誰の話というわけでもなく。

 ガラル地方に激震の走ったあの年。ふわふわとした気分のまま、あの人に並び立とうと、あわよくば追い越してしまおうと、そんな未来を描くことのできた最後の夜。願いが叶うのならば、その瞬間の己の前に降り立って、連れ去ってやりたいと思っている。
 勝利の瞬間、王冠を手にしたその瞬間からの高揚感。マイクを向けられ、フラッシュを焚かれ、世界の祝福を存分に感じられたのはほんの一瞬。待ち受けていたのはチャンピオンとしての重責とチャンピオンに対する期待ばかりで、さて、自分の名前は何だったかな、なんて。
 チャンピオンという識別名を得たあの日を後悔している、とは言わない。ただほんの少しだけ、逃げ出してしまいたくなる瞬間がある。王冠を下ろし、大空へと飛び立ってしまいたく。それができるのは少なくとも次のジムチャレンジが開催されてからのことで、もしもそこで防衛に成功すれば大空までの距離は縮まらない。かといって手を抜くなんてことはありえないので、せっせと窮屈な玉座を磨くだけの簡単なお仕事。傷をつけてしまったら、なんて余計な不安が刺激的。
 あの日の自分をこの未来から逃がしてやりたいとも、今の自分が逃げ出してしまいたいとも、そのどちらをも叶えてくれるのが「過去の自分との逃避行」だったというだけで、それが叶わない夢だということはとうの昔に知っている。勿論、悪いことばかりではないし、トーナメントを勝ち抜いたチャレンジャーとのバトルには、かつての自分が常に抱いていた感情の欠片がいたる所に散りばめられている。ひとつひとつを拾い集め、そしてようやく「自分」を思い出す。
 ただ、それでは遅すぎることも確かにあると知ってしまったので。あの日食い尽くされてしまった「自分」を迎えに行ってやりたいのだ。

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