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五悠ワンドロ

 対外的には死んだことになっている期間中、あまり大っぴらには出歩けないこともあって随分とたくさんの映画を見ていた虎杖は、その生活から解放された途端に「一生分の映画を見た気がする」とぼやいたことを覚えている。気分としてはまさにそんな感じであったのだけれど、ふと時間ができた瞬間に「映画でも見ようかな」と思わされる身体になってしまっていたことは想定外であった。
 地下室で見ていた映画は五条セレクトではあったものの、缶詰状態になる虎杖を気遣ってか、或いは単に趣味嗜好が似通っていたのか、それなりに楽しむことができる作品が揃っていた。まあ、白けてしまうような、眠くなってしまうような、つまらない作品もないわけではなかったが、それも、そんな精神状態できっちり呪力をコントロールする訓練のために、と主張されては否定する言葉が見つからない。そんな数作品に対する疑惑にさえ目を瞑ってしまえば、虎杖は五条の感性を信頼しているとさえ言っても良いだろう。だからというわけでもないのだが、ふと映画を見て過ごしたくなった時には、五条に一報を入れて部屋に上がり込み、棚を漁っては「ミニシアター」を楽しませてもらうことにしていた。家主は任務で家を開けていることも多かったが、気にせずにおいで、という優しさと共に渡された合鍵をありがたく使わせてもらっているところだ。
 テレビは寮にあるものよりも断然大きいし、画質も音響も格段に違う。元からストックは多かったが、虎杖が行く度に、それこそどこぞのレンタルショップのように「新作」「準新作」「さとるくんオススメ」の種別でパッケージが並べてあるものだから、飽きるどころか毎回のようにどれ見ようかと悩むことになる。という話を伏黒にしたところ、是非とも寮で一緒に見ないか、と誘われたので何本か持ち出しても良いかを確認しなければ。完全に「五条レンタル」である。
 目立つように並べられた作品にピンとくるものが無ければ、棚の左上から順に見ることにしている。ということは伝えたことはないのだけれど、きっとバレているに違いない。新作や準新作は、空きのある右下へと移動させられているのに、さとるくんのオススメらしい作品は、左上の「次に見る作品」の位置へ綺麗に収まっているもので。今回、虎杖が見ている作品も「左上にあったオススメ作品」である。典型的なラブストーリー……かと思いきや、恋人の浮気をきっかけに愛憎渦巻く殺戮劇の繰り広げられるスプラッタ系であった。悲しいことに「学校」で凄惨な現場は何度も目にしているはずなのだが、映像作品のそれはまた別物であるような気がしている。
「たっだいマンモスー!」
「う、わぁ、」
 いっそ小気味良いほど華麗に恋人の兄(浮気されたのだと嘆く主人公を親身になって慰めていたくせに、三股していた上、更に別の二人の女性との間にそれぞれ子供がいるという、そこだけでもう映画を作ってしまえと言いたくなるくらいに設定が渋滞していた)の首が宙を舞った瞬間に五条が明るく元気に帰宅したものだから、狙ったわけではないのだが、あたかも虎杖が五条の寒いギャグにどん引いたかのような状況になってしまった。
「ちょっと悠仁、ひど……くないね。このシーンはあの反応になるわ」
「よな? いや、まさかこうくると思ってなくて」
 今日のお土産、とポップコーンを机に置きつつ虎杖の横に座った五条からは、僅かに外の匂いがする。画面の中では父親にハニートラップを仕掛けた娘と、その隙に父親の首を刎ね飛ばした息子とが、熱く口付けを交わしながら互いに刺しあって息絶えたところだ。出逢い、惹かれ合った二人が実は半分血の繋がった兄妹であった、という典型的な設定であるはずなのに、この映画中に出てくるとなると途端に情報量が多く感じられてしまう不思議である。
「……先生は、浮気されたら誰を刺すの」
「んー? まあ、悠仁がするわけないしさせるつもりもないんだけど」
 そこで言葉を切った五条の視線は画面に固定されたままなのだけれども、どうも不思議な圧があった。
「相手を消して、悠仁を俺だけのものにしちゃおうかな」
 方法は明言されなかったものの薄らと察してしまえるほどには相手のことを知ってしまっているので、虎杖は慌てず騒がず「ふぅん」と相槌を打つに留めた。画面の中では、それでも愛されていたらしい恋人がぐずぐずに溶けてしまっている。
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