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過去怖スレPart∞

 それは、生活、と呼ばれていた授業のカリキュラムであったように思う。正確なことは覚えていないが、とにかく、命の大切さを学ぶことを目的として教室で金魚を飼っていた。名前は何か決めていたような気もするけれど、それぞれが好きなように呼んでいた。
 水槽は教室の後ろ、皆のランドセルを入れていた棚の上に置かれていた。初めは窓側にあったものの、時間によっては直射日光の当たる位置。これはまずいのではないかと誰かが言い出して、廊下側へと移されていた。休み時間になると多くが観察のために集うものだから、先生が軽く苦言を呈したことは覚えている。せめて、通路は確保しましょうね、と。
 ひらひらと泳ぐ姿が可愛い、と近くに座っていた女子生徒は口にしていたけれど、個人の正直な感想としてはどこか薄気味悪さを感じていた。今でこそ光の屈折について何となく理解したものの、当時はそれが分からなかった。見る位置によって大きさを歪に変える姿が、はくはくと水を喰む姿が、理解の範疇を超えていた。得体の知れない存在は総じて薄気味悪く、決して自ら水槽へ近付こうとはしなかった。
 しかしながら、小学生の興味関心は移りやすいものだ。初めこそ新鮮だった水槽が教室の一部として馴染む頃には、休み時間に集う人数は極端に減った。きっちりと世話をしていたのだって、飼育係の生徒ただ一人だけになっていた。

 ある日のことだった。登校すると教室がざわついていて、どうやら金魚が死んだらしい。それも、水槽の外に飛び出して、と。どれだけの時間をそこで過ごしたのか、鱗が乾いてしまっている。あんなに可愛がっていたのに、誰もが遠巻きにしていて、先生を、なんて言い合う始末。
 案の定、その子をすくい上げたのは飼育係のあの子だった。手のひらの上に乗せ、もう片方の手を覆い被せて。僅かに視線を泳がせ、そしてぴたりと止まった先に立っていた生徒はビクリと身体を震わせた。
「通して」
 探していたのは扉への最短ルートだったようで、彼女は教室を抜け出すとどこかへ姿を眩ませた。だから、自分たちで飼っていた金魚だというのにその墓標の場所を知らない。でも、彼女の選んだ場所ならばきっと大丈夫だ。

 と、これで終われば普通の、多分普通の回想だったのだけれど。
 少ししてから、お調子者で「やんちゃ」だったやつの様子が少しおかしくなった。周囲をきょろきょろと気にして、まるでなにかに怯えるように。金魚が、なんてぶつぶつ言っているのを聞いたやつもいて、ああ、こいつが何かしたんだな、とは口にしないけれども皆が感じていた。
 そのまま卒業してそいつとはそれきり、だったから、そこから先にどうなったのかまでは分からないけどね。
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