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ラプンツェル

 私の親は、魔女である。
 家族について説明をしろと言われたら迷わずにそう答えてきた。私にとっての親は魔女さんただ一人なので当然のことなのだけれど、当の魔女さんはそれを否定する。本当の親ではないのだから、決して「母」とは呼ぶな、と。
 まだ幼かった私には細かいことなんて分からなかった。優しくしてくれて、愛してくれて、慈しんでくれて。本当の親、なんてものが与えてくれないものを与えてくれる人。それなのに私たちの関係性を大好きな魔女さん自身に否定されてしまったような気がして、悲しかったことはよく覚えている。他の呼び方なんて教えてくれないから、それなのに「母」とは呼ぶなと言うものだから、私には「魔女さん」と呼ぶことしかできなかった。お母さん、と呼んでみた時期もあったのだけれど、魔女さんが居心地悪そうにしていることが嫌ですぐにやめた。
 魔女さんがくれる本の中には、いつだって優しい両親や悪い魔女が出てきていた。それでもね、私にとっては悪いのが「親」で優しいのが「魔女」だった。だって、本当の親は私を捨てたもの。魔女さんが私を育ててくれたもの。だから、だからね。
「魔女さん、もっと魔法を教えて!」
 魔女さんの仕事を手伝えるように。
 そう言って抱きついたときの、魔女さんの嬉しそうな微笑み。少しずつ教えてあげるわ、と抱きしめてくれた声のあたたかさ。
 私にできるのは、早く、たくさんの魔法を使えるようになること。それだけなのに、魔女さんが喜んでくれるのが嬉しくて仕方がなかった。もっと、魔女さんの助けになりたくて。守られるばかりでは、申し訳なくて。
 誰かを幸せにするために存在しているのだという「魔法」をたくさん覚えて、そして大好きな魔女さんを幸せにしてあげたかった。私に幸せを教えてくれた魔女さんに、幸せを返してあげたかった。

 深い森の中、二人で暮らす小さなおうち。
 それだけが、私の世界だった。他には何もないけれど、それのどこが悪いというの。誰の悪意にも晒されない、誰にも迷惑をかけることがない。ただただ小さな、二人で暮らした記憶。他には何もいらなかった。それだけで、幸せだった。
 これは、そんな幼い世界を守ろうとした私のお話。
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