二次log
これは私の持論でしかないので反論も大いに結構なのだけれど、不良であることと学のなさはイコールではない、と思っているし、その根底には、そもそもイコールであるべきではない、と思っている。三桁の掛け算を暗算でできるようになれとは言わないが、お釣りの計算くらいはできた方がいい。江戸時代の歴代将軍を覚えておけとは言わないが、今の総理大臣の名前くらいは知っておいた方が良い。一時の享楽にかまけて最低限の知識すら習得しないことはただの怠慢でしかないと思っているので、やんちゃの激しくなってきた弟にも強く強く、時には力づくで言い聞かせている。その甲斐あってか最近の弟は、星を見て方角やおよその時間を計算する術を習得しようとしている。腕時計が無くても時間が分かるとか、便利だしかっこいいから、とのことだ。東京の夜空ではなかなか難しそうではあるものの、まあ、本人が楽しくやる気になっているのならば口は挟むまい。今日も弟はおバカわいい。
そんな弟の友達は当然のようにやんちゃ仲間であるのだけれど、その中の一人が相当にやばい、と泣きつかれたのは昨日のことだった。仲間内で何とかしようとしたのだけれど、全員が匙を投げるレベルの学力というか、知識というか。義務教育であるので「留年」なんてことにはそう簡単にならないはず、なのだけれど、このまま進級、卒業させたところでためにはならないから、せめて一年間、もう少し基礎学力をつけさせなければならないのではないか、と学年の先生方が真面目に話し合うくらいには危険な状況にあるのだという彼を何とかしてほしい、とのお願いだった。本人にもやる気がないわけではないのだが、どうしても詰め込むべき知識が空滑りしてしまう。抜け落ちてしまう。
「間違えるたびに一発、とかやってみてたんだけど、だんだん、そんなつもりないのに、っ、リンチ、みたいに」
「そのけーすけくんは、それだけ間違えちゃう、というか、抜け落ちちゃうのね」
そんなつもりじゃないのに、とぐずぐず言い始めた弟を含め、罰ゲームを変えようと言う案は何度も出たのだけれど、変なところで真っ直ぐな「けーすけくん」はそれを良しとはしなかった。出題側、罰を与える側に深い深い傷を負わせた事件を受け、これはもう自分たちにはどうしようもないことなのだ、という結論に至ったらしい。仲間内ではどうしようもない。先生方も、手を尽くした。それでもダメ、となって誰に縋るかという話になって真っ先に浮かんだのが羽宮一虎の姉、一蝶――つまりは私であったのだとか。
べしょべしょと泣き出す弟を宥め、どこまで何ができるかは分からないけれどもとりあえず連れといで、と言った翌日に早速の対面を果たすことになるとは、なるほど相当に参っているのだな、と思った。お世話になるから手土産です、とポテトチップスのBIGサイズとペヤングを渡してくれた辺りには好感が持てる。一区切りついたら一緒に食べようね、ということでご褒美の如く見やすいところに袋のまま飾ってみたまでは良いのだけれど、なるほど、道のりは長そうである。
「道を圭介くんと一虎の二人で歩いています」
「おう」
「すれ違いざま、四人に絡まれました。圭介くんと一虎、それぞれ何人を相手にすれば均等ですか」
「あっ、これちょうど昨日の帰り道のやつじゃん」
「だな! 答えは八人だ!!」
「待って、何で増えたの」
「一虎が最初に沈めたやつ、思ったより早く復活して増援呼びやがってさぁ」
「そうそう! 追加で十二人来たから合計十六人。で、それを二人で割って八人」
「やるならきっちり沈めろ一虎ァ!」
いや、思わず注意してしまったけれども違うそうじゃない。単純な割り算の確認をしたかっただけなのに。
「えっと、圭介くんはどうやって計算した?」
「まず一虎が一人沈めただろ? んで、向かって来たやつを連続で二人オレがやって、最後の一人を一虎がやった、と思ったら増えたからテキトーにやって、後で数えたら六人ずつやってたみてぇだから、十二人来てたんだな、弱えなって」
「……そっか」
喧嘩の流れを聞いたわけではなかったのだけれど、それでもまあ奇跡の一致が起こっていたようなのでそのまま使わせていただくことにする。紙に書いた計算式は二つ。「(4+12)÷2」と「4÷2+12÷2」。圭介くんの前に示してやると、ふんふん、と頷いてみせてはくれるがこれは絶対にわかっていないやつだ。
「まず、一虎の計算方法は先に敵の合計数を計算して、そのあとで一人あたりの担当数を出してる感じね」
「何人増えるかなんて、その時じゃねぇとわかんねぇだろ?」
「うん、そうだね。でも算数や数学の問題では分かってるから安心してゆっくり計算して」
「すげぇな!」
思わず弟を確認すると、虚ろな目で「スゴイネ」と返していた。なるほど、聞かなかったことにする。
「んで、圭介くんの計算の方法は、最初に絡んできたやつ、増えたやつをそれぞれ何人担当したか計算して、その後で合計何人を担当したか、みたいな計算方法かな」
「……でも、増えたやつが何人かなんてその時は」
「算数数学だと分かるの」
「すげぇな!」
ソウダネ、と返すしかない。だって、目をキラキラさせているもの。
簡単な割り算の確認から入るつもりだったのに、想定外の流れだった。因みに、昨日までも同じように「東卍メンバーが何人歩いていて、敵が何人来て」みたいな問題を出して地獄を見たという。メンバーのトップたるマイキーくんが登場すると途端にダメだったらしい。クソ雑魚相手にトップが出るまでもねぇオレがやる、という理論のもと導き出される結果はことごとく狂ったのだとか。そりゃそうだ。りんごやみかんの奪い合いという、ごくごく一般的な例題に落ち着かせるべきであった、と後になって気がつく弟と愉快な仲間たち、おバカわいい。
◇場地圭介(中二の姿)
おみやげにペヤングを選んだ。
◇羽宮一虎(中二の姿)
おみやげにポテチを選んだ。
◇羽宮一蝶(高一の姿)
どちらもおいしくいただいた。
そんな弟の友達は当然のようにやんちゃ仲間であるのだけれど、その中の一人が相当にやばい、と泣きつかれたのは昨日のことだった。仲間内で何とかしようとしたのだけれど、全員が匙を投げるレベルの学力というか、知識というか。義務教育であるので「留年」なんてことにはそう簡単にならないはず、なのだけれど、このまま進級、卒業させたところでためにはならないから、せめて一年間、もう少し基礎学力をつけさせなければならないのではないか、と学年の先生方が真面目に話し合うくらいには危険な状況にあるのだという彼を何とかしてほしい、とのお願いだった。本人にもやる気がないわけではないのだが、どうしても詰め込むべき知識が空滑りしてしまう。抜け落ちてしまう。
「間違えるたびに一発、とかやってみてたんだけど、だんだん、そんなつもりないのに、っ、リンチ、みたいに」
「そのけーすけくんは、それだけ間違えちゃう、というか、抜け落ちちゃうのね」
そんなつもりじゃないのに、とぐずぐず言い始めた弟を含め、罰ゲームを変えようと言う案は何度も出たのだけれど、変なところで真っ直ぐな「けーすけくん」はそれを良しとはしなかった。出題側、罰を与える側に深い深い傷を負わせた事件を受け、これはもう自分たちにはどうしようもないことなのだ、という結論に至ったらしい。仲間内ではどうしようもない。先生方も、手を尽くした。それでもダメ、となって誰に縋るかという話になって真っ先に浮かんだのが羽宮一虎の姉、一蝶――つまりは私であったのだとか。
べしょべしょと泣き出す弟を宥め、どこまで何ができるかは分からないけれどもとりあえず連れといで、と言った翌日に早速の対面を果たすことになるとは、なるほど相当に参っているのだな、と思った。お世話になるから手土産です、とポテトチップスのBIGサイズとペヤングを渡してくれた辺りには好感が持てる。一区切りついたら一緒に食べようね、ということでご褒美の如く見やすいところに袋のまま飾ってみたまでは良いのだけれど、なるほど、道のりは長そうである。
「道を圭介くんと一虎の二人で歩いています」
「おう」
「すれ違いざま、四人に絡まれました。圭介くんと一虎、それぞれ何人を相手にすれば均等ですか」
「あっ、これちょうど昨日の帰り道のやつじゃん」
「だな! 答えは八人だ!!」
「待って、何で増えたの」
「一虎が最初に沈めたやつ、思ったより早く復活して増援呼びやがってさぁ」
「そうそう! 追加で十二人来たから合計十六人。で、それを二人で割って八人」
「やるならきっちり沈めろ一虎ァ!」
いや、思わず注意してしまったけれども違うそうじゃない。単純な割り算の確認をしたかっただけなのに。
「えっと、圭介くんはどうやって計算した?」
「まず一虎が一人沈めただろ? んで、向かって来たやつを連続で二人オレがやって、最後の一人を一虎がやった、と思ったら増えたからテキトーにやって、後で数えたら六人ずつやってたみてぇだから、十二人来てたんだな、弱えなって」
「……そっか」
喧嘩の流れを聞いたわけではなかったのだけれど、それでもまあ奇跡の一致が起こっていたようなのでそのまま使わせていただくことにする。紙に書いた計算式は二つ。「(4+12)÷2」と「4÷2+12÷2」。圭介くんの前に示してやると、ふんふん、と頷いてみせてはくれるがこれは絶対にわかっていないやつだ。
「まず、一虎の計算方法は先に敵の合計数を計算して、そのあとで一人あたりの担当数を出してる感じね」
「何人増えるかなんて、その時じゃねぇとわかんねぇだろ?」
「うん、そうだね。でも算数や数学の問題では分かってるから安心してゆっくり計算して」
「すげぇな!」
思わず弟を確認すると、虚ろな目で「スゴイネ」と返していた。なるほど、聞かなかったことにする。
「んで、圭介くんの計算の方法は、最初に絡んできたやつ、増えたやつをそれぞれ何人担当したか計算して、その後で合計何人を担当したか、みたいな計算方法かな」
「……でも、増えたやつが何人かなんてその時は」
「算数数学だと分かるの」
「すげぇな!」
ソウダネ、と返すしかない。だって、目をキラキラさせているもの。
簡単な割り算の確認から入るつもりだったのに、想定外の流れだった。因みに、昨日までも同じように「東卍メンバーが何人歩いていて、敵が何人来て」みたいな問題を出して地獄を見たという。メンバーのトップたるマイキーくんが登場すると途端にダメだったらしい。クソ雑魚相手にトップが出るまでもねぇオレがやる、という理論のもと導き出される結果はことごとく狂ったのだとか。そりゃそうだ。りんごやみかんの奪い合いという、ごくごく一般的な例題に落ち着かせるべきであった、と後になって気がつく弟と愉快な仲間たち、おバカわいい。
◇場地圭介(中二の姿)
おみやげにペヤングを選んだ。
◇羽宮一虎(中二の姿)
おみやげにポテチを選んだ。
◇羽宮一蝶(高一の姿)
どちらもおいしくいただいた。
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