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二次log

 次に行われる特命調査は、慶応甲府が戦地となる。
 どうやら、此度の戦には監査官が同行するらしい。
 その情報が出回った瞬間に、心が震えたことを自覚した。ここまで、本当に長かった。ようやく、ようやくだ。待ち望んでいた日、悲願の成就する日は近い。
「監査官、ということはまたお前か、にゃ」
「さて、俺はこの本丸の刀剣であって、政府所属の身ではないからね。その辺りの情報はさっぱりだよ」
 持っている情報は未だ己が政府に所属していた頃のもの。変わっている可能性だってあるのだから、曖昧な憶測で物を言うわけにもいくまいと。本当か、と探るような眼差しを向けてくる昔馴染みに、仮に知っていたとしても情報漏洩は流石にね、と続けてやれば戦闘終了。引き際を弁えてくれているようで何よりである。
 いつもの如く、慶応が西暦何年なのか、それが何時代なのかという確認から入る主を遠目に眺めながらも、山姥切長義の纏う雰囲気はいっそ怖くなるほどに楽しそうで、期待に満ち溢れている。ここでそれを指摘してしまうと容赦なく照れ隠しに切りかかられてしまうような仲であるので、南泉一文字は沈黙を選んだ。
(……こういう時、結構な確率でオレも巻き込まれるんだよな)
 叶うのならば被害は分散させてしまいたいが、そもそも、理想としてはそんな面倒事が起こらないに限るのだ。何事も起こらないことを切に願う南泉一文字のことなど知らぬとばかりに、山姥切長義は遠くない未来へと思いを馳せていた。

 向かう戦場のことを考えるのならば新選組に縁のある五振りと陸奥守吉行であろう、とは満場一致で揉めることもなかった。かつての主の関係性から初めの頃に大きくぶつかったことが幸いしてか、はたまた夜の京都で敵の本陣を求め何度も彷徨ったことが幸してか、今となっては頼れる「幕末組」である。文久土佐における特命調査において新選組刀が尽力したこともまた、此度の特命調査で陸奥守吉行が真っ先に部隊への参加に手を挙げた要因のひとつであろう。現地で合流した監査官と共に、順調に進軍しているところである。
 同行する監査官が山姥切長義ではないと分かった途端、知り合いなのかと囲まれることになった山姥切長義であるが、彼は一貫して「事前情報なく接した方が良いだろう?」と答え続けていた。納得して引き下がりつつも、なるほど知り合いだな、と察した面々が出陣組を応援する力に熱が入る。声援を武器にというわけでもないが、愛したかつての主の歴史を蹂躙されては、それを早く正すために気合も入るというもの。賽の目に左右される進軍速度ではあったが、無事に調査を終わらせて「優」の評価を勝ち取るに至った。そして、今。
「全員、揃ってる?」
 長く続いた出陣から帰還したばかりの初期刀殿は、その疲れを微塵も見せることなく大広間に集まった顔触れを確認していた。新入りを迎え入れる際、まずは全振りとの顔合わせをするというのがこの本丸の決まりであるのだが、集合の伝達をせずとも自然と大広間に集まっていたのだから皆の期待の大きさが窺える。特命調査への参加報酬として政府から新たな刀剣男士の配属が認められるのだということは、既に一通りの調査を終えた本丸からの情報によって周知されていたので当然の光景だと言えるだろう。明言こそされていなかったが、その刀剣男士は一文字一家にとって大切な御方。それだけでも緊張するというのに、南泉一文字の脳裏を過るのは特命調査について事前通達があった際の、そして此度の監査官について問われた際の山姥切長義の姿である。
(巻き込まれたら面倒でしかない布陣じゃねぇか……)
 どちらの側に立っても揶揄われることは必須であるので中立の立場で在りたいが、そうやって足掻く姿も含めて楽しまれる未来しか見えないので手詰まり感が半端ない。改めて弁解するとなると気恥ずかしさしかないが、嫌っているわけではないのだ。ただ、何というか、悪友には親戚に猫可愛がりされている姿を見られ、親戚には悪友と悪ぶっている姿を見られる感覚とでも言おうか。単体ならばいい。手を取り合って来るな、という話である。
 近付いてくる未来からの現実逃避を試みたいところであるが、悲しいことに南泉一文字の隣を陣取るのは山姥切長義。味方に死を運んでくるなと言いたい。言えないけれども。こうして皆と並んで落ち着いて座っているように見えるが、明らかに意識がふわついている。
「あー、いつもより嬉しそうだな……?」
「そりゃあ、新たに戦力が増えることはいいことだからね」
 誤魔化されてはやるが、果たして彼は己の感情が漏れ出していることを自覚しているのやら。鯰尾藤四郎や後藤藤四郎は、少し離れていることをいいことに面白がっている表情を隠しもしていない。羨ましい限りである。
 皆が察していることを察しているはずなので、もう知り合いであることを隠さずとも良いだろうにそれを口にしないのは何故か。まあ、万が一、億が一にでも何かしらの「監査」が入った時のため、なのだろう。情報漏洩なんてしていませんよ、皆さんの逞しい想像力によって偶々正解が導き出されてしまったようだけれど、といったところか。その手の言った言わないは手厳しいらしく、特に政府に関係のあるものであれば疑わしきは罰せよ、という風潮はなかなか拭い去れないと聞く。これだけ公然の秘密に等しい状況にあってもなお貫くかと思わないでもないが、まああと数分で終わるのだから黙っておいてやろう、と考えた矢先のことだった。
(――そういや、こいつの刃紋は桜に喩えられていたか)
 ふわり、とその綻ぶ瞬間を見てしまう。ようやく姿を現した噂の「監査官」よりもそちらに目を惹きつけられてしまったものだから、それに気がついた山姥切長義は白々しくも、あの装束は一文字に縁のある御刀かな、などと笑っている。
「ほらほら、顔合わせはもう済んだんだからその薄っぺらい言葉はいらねぇだろ、にゃ」
「薄っぺらいとは失礼な。己と皆を守るための大切な防護壁だというのにね」
 言いつつも視線は上座、主人の横に立ち名乗る一文字則宗から離れない。嬉しさを隠しきれていないし、この場がもっと私的で砕けていれば勢いのままに駆け出していそうな様子である。彼もまたそれなりに長く在る刀ではあるけれど、所謂徳美組や長船派の中では「末の長義」と可愛がられている末っ子であることを久しぶりに思い出してしまった。
「それで? 同じ監査官同士、同僚ってとこか?」
「その響きもいいね」
 つまり違うのか、と密かに「同僚」へと賭け金を乗せていた面々の表情が曇る。が、続けられた言葉に心の中で拳を突き上げた。ちなみに、主と出陣組と山姥切長義以外の全振りが賭け金(なお、それは飴玉ひとつであったり内番に励む権利であったり、その「金額」は多岐に渡る)を二振りの関係性は同僚であるというものへと賭けていたので、皆で仲良く掛けられたものを交換し合うこととなった。単なるプレゼント交換会ではないか、とは賭けの対象にされていると知りつつ放置していた山姥切長義の言葉である。畑当番を賭けに出した一振りは無事に一仕事を誰かに押し付けることができたと思いきや、運命の悪戯なのか別の一振りが賭けに出した馬当番を引き当てていたし、その馬当番を賭けに出した一振りが畑当番を引き当てていたので、悪いことはできないな、と肩を落としていた。
「より正確にいうならば相棒、バディってやつかな」
「それって、結局のところ同僚じゃねぇのか?」
「その他大勢の同僚とは別の、特別な存在だったということだよ猫殺しくん」
 その発言が耳に届いたらしい面々から小さなどよめきが起こるが、色恋めいたものはなく、本当に二振り一組で動く相棒だったという意味だけでの特別なのだろう。その確率は九割ほどだと信じているのだけれど、もしも仮に残る一割の色恋沙汰が正しかったとするならば、果たして自分はこの本丸でどのような立ち居振る舞いをするべきなのか、と頭が痛くなってきた気がするので南泉一文字は考えることをやめた。深くは考えない。何かが起こってしまったら、その時はその時、である。
 名乗りを上げ、特命調査中に関係性を築いたのであろう六振りとの談笑に近くのものたちが加わっていく中、ふらりと山姥切長義が立ち上がる。皆の中心から少し外れた場所ではあったが、誰もが二振りの関係性を察していただけにその一挙一動から目が離せない。当然、それは注目の片割れ、一文字則宗とて同じこと。あ、と声を掛けようとしたのだろう彼の言葉は、華やかな山姥切長義の表情により封じられた。
 すぅ、と呼吸を整えたことに、近くに座っていた数振りだけが気がついた。と、と駆け出した足取りが軽くて流されてしまいそうになるけれど、微かに混ざる緊張感に目を白黒とさせるもの数振り。向かう先は分かりきっていて、自然とその直線上に居たものたちは道を開けた。助走は十分。さあ来い、とばかりに身構えた一文字則宗まであと数歩、というところで山姥切長義は勢いを殺さぬままに床を蹴り、そして。
「っしゃおらぁ!」
 気合十分な掛け声と共に待ち受けるその腕の中へと飛びかかると、それはそれは見事なラリアットを決めた。
 元気に敵をぶった斬りながら、政府時代に培いつつもリセットされてしまった経験値を取り戻すこと二年と少し。刀剣男士として身に付けることのできる力の全てを取り戻した山姥切長義は、所謂「カンスト」状態である。対して一文字則宗はほんの数分前に本丸へと配属されたばかり。真っ新になって、さあここから本丸の色に染まれ、という状態である。まあ、何が言いたいかというと、一文字則宗は戦場へと出る前に本丸内で負った怪我により手入れ部屋へと送られた。

 刀剣男士の正装とは、戦装束である。先日の戦場脳死周回に出ていた山姥切長義は、金の軽騎兵刀装をしっかりと装備していた。おかげで機動力が上がり飛びかかる勢いは増していたし、打撃もしっかりと上がっていた。まあ、新入りに対して先輩のやる攻撃ではなかった、とだけ。被害者たる一文字則宗が気にしていないのであまり強くは叱られなかったが、そうでもなければ、つんと口を尖らせて分かりやすく臍を曲げて見せている山姥切長義の姿は本丸の先輩としてあり得ない。何ともまあ子どもらしい姿であることか。そうした姿も、この場には山姥切長義の他に一文字則宗と南泉一文字しか居ないからだろう。
「うははは、元気そうだなぁ桜の坊主」
「そう、じゃなくて元気なんだよ」
 ああスッキリした、と小さく笑って気持ちを切り替えたらしい山姥切長義は、ようやく真っ直ぐに一文字則宗の顔を見た。
「この素晴らしい本丸へようこそ、菊の監査官殿。ここでの先輩として歓迎しよう」
「長きに渡るお勤めご苦労だったな、桜の監査官殿。ここでは後輩として、楽しませてもらうとするかな」
 格式張った挨拶が本気であるのか戯れであるのか、二振りの関係性を掴みきれずにいる南泉一文字には分からない。ただ何となく、これが政府所属の刀剣男士としては最後の会話のつもりなのだろうな、ということは分かった。この部屋を出てしまえば、そこに居るのは元政府所属の刀剣男士でしかないのだろう、と。
 相棒だったのだという二振りだけでゆっくりと話せばよいものを、どうして己も巻き込まれているのか。これならば、緊張することに変わりなくとも山鳥毛や日光一文字と共に席を外した方がずっとマシだった。立とうとした途端に、腐れ縁からのどこへ行くのかと問うような圧、それを感じ取った家長や兄貴分からの粗相をするなと言うような圧、もう踏んだり蹴ったりである気がしてならない。
「……あー、その」
「あまり大っぴらに言う話でもないから胸の内に秘めておいてほしいんだが」
 なら言うな、という言葉は黙殺された。
「俺たち監査官も、二振りで一組で動いていた、ということだよ。一度目の監査と、そこから広がるであろう火種による問題のある本丸の炙り出し。銘を取り戻し山姥切長義の名を知らしめたいという俺の意欲とも合致した作戦でね」
 所謂、山姥切問題の発生も想定内。悪質な本丸はその時点で摘発や指導を行った。勿論、何の問題もなく「優」の判定を下し本丸へと配属された山姥切長義は大勢いる。その一方で、中には経過観察の認定を下された本丸もあり、そういった本丸にも山姥切長義は変わらず配属された。良い方向へ転がれば良い。悪い方向へと転がるならば正し、悪路を転がり続けるのならば証拠を一揃え。
「一度目の監査における評定を踏まえつ、二度目の監査で全てを刈り取るというわけさ。言ったろう? もう大体決まっている、とな」
 いやあ政府は慈悲深い、と笑う祖の姿に息を呑む。だって、彼は、怒っている。
 ぺちり、と間抜けな音が鳴って緊張は解けた。が、その音の発生源に気付いてしまえばまた別の理由で血の気が下がった。
「ちょ、おま、なに、は!?」
「呪いのせいかな? 言葉になっていないよ猫殺しくん」
 間抜けな音の出所は祖の額。鳴らしたのは悪友の綺麗に揃えられた指先。この蛮行を止められなかったことは粗相に入るのか、と思考の飛び掛けた南泉一文字をよそに、再度の「暴力」を受けた一文字則宗は目をまあるくすると、そっと緩ませた。
「逆境上等。そこで名を叫ぶことを選んだのは俺たちで、それは俺たち自身の問題だ」
「……そうだ、そうだったな」
 針の筵であること、茨の道であることを分かって進んだのは山姥切長義であり、説得に応じないとみるやその行く末に幸あれと送り出したのが一文字則宗であった。ほんの二年ほど前の出来事であるはずなのに、色々なことがありすぎた。
「ふふ、少し会わない間に耄碌してしまったのかな」
「じじいだからな、若いのに肩入れしすぎてしまってなぁ」
「人の子の方が若いだろうに」
「愛を叫ぶ姿に心揺さぶられたのさ」
 それなら仕方ないね、仕方ないか、と笑い合う二振りの姿に南泉一文字はほっと力を抜きながら、やはりどうして自分はこの場所に残されてしまったのかと頭を悩ませることになる。と、そこでふと思い出した。
「そういや化け物切り、お前、何で急に御前に攻撃なんか」
 ここでのやり取りを見る限り、政府で関係が悪かったというわけではないのだろう。むしろ良かったように見える。それなのに、あの顔合わせの大広間において山姥切長義が取った行動は明らかに「攻撃」であった。やっと来てくれた、嬉しい、という明るい感情ばかりではなかったように思われるのだ。だからこそ何故、と問い掛けた南泉一文字の言葉に、穏やかに笑っていたはずの山姥切長義は分かりやすく「機嫌を損ねました」とでも言うように顔を顰めた。そっと窺い見た一文字則宗は、仕方がないなぁと呟きながらも小さく苦笑いを零した。
「あれは全面的に僕が悪かったな」
「一厘ほどは俺の甘えだよ」
「せめて一割って言えよお前、にゃあ」
 思わず口を挟んでしまい、べしりと叩かれた。常ならば遠慮なくやり返しているところであるが、祖の目前、粗相なきようにと言い含め残されている身の上であるせいで動けない。ぐぬぬ、と唸る南泉一文字の耳に、そっとこぼされた言葉が届く。
「聚楽第における特命調査がね、最後になる覚悟を互いにしながら始まった監査だったんだよ」
 小さな声で白状された内容に、はっとさせられる。山姥切問題、と簡単にラベルを貼られてしまった一連の騒動には思うところがあった。本丸の立ち上げにも携わる「初期刀」として配属された山姥切国広も多い中で、敢えて強い言葉で銘を取り戻そうとした姿。反発心から不当な扱いを受ける山姥切長義も一定数存在し、その最期は折れたもの、折られたもの、刀解されたもの、消滅したものなど、様々な噂が飛び交った。そのうちのいくつが真実であったのかは知らないが、それでも、二度と会えぬ覚悟を決めて始められた監査であることには違いない。閉鎖空間である本丸が正常であるか、審神者として、物の声を聞き励起する者として、名の意味を正しく理解しているのか、初めて行われた監査によって明るみに出た闇も多かったはずだ。
 政府の目論見と山姥切長義の「戦い」は相性が良かった。故に、互いに互いを利用した。納得しきれずとも、理解はできてしまった。だから、その背を見送ったのだ。たった一振り、戦地へ向かう君に幸あれ。いつか並び立つその日まで、と。そんな願掛けで止まってくれたならば良かったのだ。それなのに。
「それなのにこの菊、よりにもよって聚楽第へ一歩を踏み出したその瞬間に何て言ったと思う?」
 びしっと突き立てたられた山姥切長義の人差し指を叩き落としつつ、南泉一文字が飲み込んだ言葉は「知らん」である。が、言えるわけもないので必死に考えた。山姥切長義の神経を逆撫でする一言を。
「えっと、あー、あれか? 後のことは任せろ、的な?」
 単に、後の政府での業務は任せろという意味合いであれば良いのだろうけれど、気の立っている山姥切長義であったならば、それが己の失敗を想定した言葉であるように聞こえるのではないだろうか。つまりは、敵討ちは任せろ、という。平時であれば、そしてそれなりの関係性を築くことができていれば、適切な発破としても機能していたであろうそれが、これから一振りで戦地へと向かう彼にどう響いたのか。そっと答えを知るであろう男に目を向けると、決まり悪そうに顔を背けられた。なるほど、これは地雷を見事に踏み抜いてしまったのかもしれない。
 訊いたのはそっちだろうとは思うがここで受け止めるのも年長者の定め、と覚悟を決めたというのに予想していた反応がない。南泉一文字の言葉を噛み締め、そしてやはり顔を顰めている。
「……それはそれで苛立つな」
「……違ったのかよ」
「そもそも蛇足だという減点はあるが、遠回しの言葉を選択したことを加点、可をあげようね」
 つまりは直接的な言葉が選ばれたのだと理解してしまえば、決まり悪そうな姿に納得しかない。
「俺の長年連れ添った相棒様はね、仇討の逸話を背負わせてくれるなと言い放ってくださったのさ」
 踏み出してしまっていたから、もう戻れない。何という言い様だ、と怒りをぶつけるべき相手の姿はもう見えないし、一度本丸に配属されてしまえば、そう簡単に政府側には向かえない。故に、待った。待ち続けた。いずれ、二度目の監査がある。なに、この本丸が問題なく「優」を取ることができることは、一度目の監査でも、その後の特命調査における調査員の判断でも確実なのだ。その日が来た時に一発、それで綺麗に水に流してやろう、と。
「発破のつもりだったんだが、あの場面ではなぁ……もっと気の利いた言葉にするべきだったと反省したさ」
「だろうと思ったし、何かあった時に仇討をしてくれるくらいには、俺との時間を好ましいと思っていてくれたわけだからね」
 それはありがたいことであるので、全ては一発に込めてしまおう。侮ってくれるなという憤り、そう言わせてしまった悔しさ、まとめてぶつけるためにと刀を振るい続けた日々。おかげでこんなに強くなりました、と笑う山姥切長義を見つめる一文字則宗の眼差しに込められているのは愛情だ。とは言っても双方向で繋がっている親愛の情でありそうなので、居心地が悪いとまでは言わないがどこかむず痒い。
(……オレは何を見せられてんだろうなぁ)
 ひとまず、この二振りが政府時代からの付き合いで仲が良いのだということは理解した。それで十分に役目は果たしたのではないかと思うのだけれど、まだまだこの自由な監査官たちの会話が続きそうな様子に、南泉一文字はくぁと欠伸をひとつ。いっそ眠っている間に全てが終わってはいないだろうか、と。
 ――御前にそのような姿を見せるとは何事か、と叩き起こされたのはその数刻後のことであった。
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