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二次log

 まあ、彼に何度もぶつかることができていたのだからそうだろうな、と。第二性の検査結果が届いた時の感想としては、受け取ったランボ自身も含めて概ね同じものであった。まあ、中には何かの間違いだとか冗談だとか言う輩もいたのだけれど、優しいボスの超直感によって「本音」だと判定された面々にはみっちりねっちょりお勉強の時間が用意されたと聞いている。自身では選ぶことのできない体質の話で、むやみやたらと噛み付くものではありません、という当たり前の内容なのだけれど、裏社会のみならず表社会でも蔑ろにされがちなもの。それをわざわざ実績ある外部の講師を招いてまで矯正しようとするのは、自身が虐げられる者として下に見られがちだということばかりが理由でもないだろう。
 第二性がどのパターンに属するのかということは、おおよそ第二次性徴期に判明する。余程のことがない限りは生まれ持った素質であるため、はっきりとは分からないながらも薄々は推測のできるような場合もある。ランボがまさにそのタイプで、赤ん坊ながらも強力なDom性を有しているリボーンに、ああも繰り返し噛み付くことができているのだからSubやSwitchではないだろう、であるならばDomかNormalとなるのだけれど、Subである沢田綱吉にああもくっついて離れないのだから、まあきっとDomなのだろう、と、非常にざっくりとした推測である。そろそろ判定ができるのではないかという年齢に達し、第二性発現の兆候も見られたために実施された検査ははっきりと「Dom性です」という結果を伝えてきていて、そのことに密かに安堵したことは生涯をかけて守るべき秘密のひとつであろう。
「ランボはDomだったかぁ」
「やっぱり、と顔に書いてありますよ」
「まあ、そりゃあね。この世で一番ランボと過ごす時間の長いSubを自負している俺が、察せないわけないだろ」
 リボーンを追って渡日したのは五歳の頃。それから十年間、まるで弟であるかのように面倒を見てくれた優しい家族。沢田綱吉を兄とし、そして沢田奈々を母として過ごした時間が今の土台となっている。なるほど、その彼がDomだと感じていたのであれば、それが覆ることもなかっただろう。なにせ、歴代の中でも優れた超直感を持つ男なのだから。いつの頃からか動く第二性判定機などという称号を手にした当人に言わせれば、第一性と同じような感覚らしいのだが。「分かりにくい人も確かにいるが、基本的には見れば分かる。みんなそうじゃないの」なんて発言には唖然とする者、呆れる者、賞賛する者など反応はずいぶん割れたものだ。
 マフィアという真っ黒な組織の中でもホワイトな職場を目指す沢田綱吉ではあるが、彼がボスとなる前からボンゴレに所属する人間には第二性の報告が義務付けられている。ある程度は訓練や薬によりどうにかできるにしても、基本的には抗い難い本能が密接に関わる話である。Domばかりがいる交渉の場へSubを単独で送り出すなんてことのないように、欲求不満を抱えるDomがころっとSubの誘惑へと靡かないように、防ぐことのできる悲劇を把握するべく導入されたらしいこの制度。当然ながら、虚偽申告が発覚すればそれなりの罰がくだる。幼児と言ってもいいような年齢から「ボンゴレ所属」と扱われてきたランボも、そろそろいいんじゃないかというボスの一声によって第二性の診断を受けてきたところである。不本意ながらも判定機と呼ばれ、そして診断を外したことのないボスがいくら「そう」だと思っていても、きっちりと病院で正式な診断を受けなければならないという習慣には従わねばならなかったのだ。
「なんて言えばいいのかな……おめでとう? これからも大変だろうけれども、頑張れ?」
「……はい、せいいっぱい、がんばります」
 頑張れという激励の裏には、これまで以上に身近なDomからこき使われるぞ、という予測があることくらい超直感のないランボにだって分かる。薄々とは察しながらも、これまでは一応、第二性の発現していない子どもとして扱われてきた。それでアレなのだから、同じDomであると正式に分かった以上はその気遣いも遠慮も綺麗さっぱりなくなることだろう。今からもう、頭も胃も痛い。
 がんばれー、と気の抜けた応援をしてくれる沢田の首には、シンプルながらも目を引く首輪がある。SubがパートナーのDomから贈られる信頼の証であるのだが、ランボの知る限りでは彼にパートナーはいない。首を飾るそれは、ボス就任と同時にリボーン、そして雲雀から贈られたものだ。特別な意図はなく、ただボンゴレという組織に繋ぐための首輪である、とは誰の言葉であったのか。Domであると察していたからだろう。首輪が贈られる前に一度だけ、「これをボスに贈る」と見せられたことを覚えている。当時は何も感じずに、どうして決定事項を自分に伝えてくるのかが不思議だった。けれど、判定ができるほどにDom性が強くなった今ならば分かる。あれは必要なことだった。
「……その、首輪」
「ああ、Domとして強くなったら気になる?」
「なんというか……まあ、そうですね」
 何かと外に出る任務が続き、最近は本部に立ち寄ることも稀だった。よくよく考えると、全てリボーンに押し付けられたものであったような気がする。ランボのDom性が強まっていることを感じ取っていたのだろうか。独占欲の塊のような男だ。幼い頃からの「教育的指導」は、将来的にDomとして発現する敵への反発や牽制だった可能性は否めないが、それで許されると思っては大間違いである。
 ボンゴレのボスにSubを据えるか、それを表に出すかどうかということは、先代も巻き込みながら何度も議論を重ねたと聞く。血筋を重視する業界であるからか、ボンゴレを含め、マフィアのボスにSub性の者がいないわけではなかった。ただ、どうしたって体質的にトップに立つことの難しい人間が多く、長続きしない。それでも、長らくDomに頼ることなく(それで不調に苦しんでいたとはいえ)どうにか学生生活を送ることのできていた男ならば、リボーンの手解きにより並のDomには屈しないだけの精神力を上乗せさせられたならば、ボスとして上に立つことも不可能ではないだろう、という判断に落ち着いたようだった。幸いなことにDomとして有名だったリボーンが背後に控えていたし、既に最強の呼び名を囁かれていた雲の守護者、雲雀恭弥もまたDomとしての存在感を漂わせていた。並大抵の輩には屈しないタイプであるし、万が一にでも何かあれば噛みつき報復するDomは恐ろしいほどに強い。どうせ隠したところでどこからか情報は漏れるのだから、初めから晒してしまえという方針に落ち着いたらしかった。
 首輪のあるSubにGlareを不躾にぶつけ、コマンドを押し付けることは裏でも表でもマナー違反だ。いや、首輪が無くとも下劣な行為であることに変わりはないが、少なくとも、首輪があればそれはDomからの報復があると宣伝しているようなものなので、その上から強気にぶつかってくる輩は、相当に間違った方向に突き抜けた自信家である。対外的にSubであることを隠さないのであれば首輪も用意しておくべきであろう、という流れになるのは当然である。問題は当時の沢田にパートナーがいなかったことであり、まあ、組織のボスとして、心傾けるパートナーがいないことは命令体系のことを考えても悪いことではないのだけれど、他所の構成員との余計な問題を火種を作り出さないためにも、ボスの首には首輪があった方が良い、となったらしい。
 贈るとするならば、それは家庭教師からか守護者からか。どちらでも良いから早く決めてしまえ、と言い寄る面々に辟易としていたらしい新たなるボスの一声によりその首を彩ることとなった首輪は、ボンゴレ、という組織から贈られることとなった。特定の個人ではなくこの組織に繋がれ従うのだと。この決断は巻き込まれた二人のDomにも好評で、仮にどちらか一方が選ばれたとするならば何をしでかしていたか分からない、とは双方が口にしていた。正式にはパートナーではないものの、それなりの年数を共に過ごしてきたSubなのだ。対等な位置付けでどちらも優先されていたからこそ堪えられた場面もあって、その微妙なパワーバランスにおいて他方に軍配が上がったとするならば何をしてでも取り戻しに動いただろう、との言葉に誰もが戦慄した。無意識に正解を導き出した超直感様への信頼が天元突破した瞬間である。
「それ、入れ替えようと思ったことってないんですか」
「どちらかを選んで?」
 そして、組織からではなく個人からの首輪を、Colorをつけようと考えたことはないのか、と。言うならば第一性において「結婚しないのか」と尋ねるも同義である内容であるために、これまでにここまで踏み込んで尋ねたことはなかった。ただ漠然と今ならば許されるような気がして、恐る恐る口にしたというのに当の沢田は迷うことなく答える。
「無いね。今の関係性を全員が気に入ってるんだ」
 傲慢なSubだ、と誰かが言った。最高のDomを侍らせておいて、そのどちらにも靡かないのだと。なるほど、そこにこれから己は入り込んでいかなければならないのか。
「……オレは、その首輪を選ぶのに携わってなくて、最後の最後に確認で見せられて頷いただけですけど」
「うん?」
「それがなかったら、その首輪、もっと嫌だったんだろうな、と思いますね」
「……ランボも、大きくなったなぁ」
 しみじみと言われてがっくりときてしまうのだけれど、それでこそ沢田綱吉というSubなのだ。リボーンや雲雀が囲い込んでいると言っても良い彼をそこから奪い取るだなんて大それたことは考えていないが、せめて、その囲い込みの一部を担うことくらいは許されたい。そのためにはまず彼のDomとして相応しいことを示さなければならない、のだろうけれど。
(ブレスレットなら許される、か?)
 自分の贈ったものを身につけてほしい、というDomとしての欲求に目が眩んで盛大に先輩たちへと喧嘩を売ることになるのは、この数日後のことである。
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