このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

五悠ワンドロ

 最近、寝る時は足が冷えてしまってうまく寝付けない。
 そんな話をした翌日にはにこにこと楽しそうに笑う五条の姿があって、その手中にある紙袋の中身を邪推してしまった虎杖は、きっと悪くないだろう。
「せんせ、それ、なに」
「なにって、防寒グッズだよ」
 はい、どうぞ。そんな軽い言葉と共に差し出されたものだから、きっと大丈夫。いや、どこからが「大丈夫」なのかは分からないが、ただ漠然とそんなことを考えながら受け取った虎杖は、覗き込んで目にしたものが何なのかを理解することができずに首を傾げた。思い描いていたものは、もっと小さなものだった。それが、想像以上に大きくて、果たして、何であるのかと分からなくなってしまったのだ。
 そっと、掴む。持ち上げる。伸びる。伸びる。伸びる。
 上がる腕に合わせて徐々に上がっていく虎杖の視線を追いかけつつ、五条はやはり笑っていた。
「どう? 悠仁仕様の特製ニーハイは」
「俺仕様って、これ、オーダーメイド!?」
 ようやく姿を表した先端の形状を目にすると同時にもたらされた情報に、虎杖は勢いよく五条へと目を向けた。その様子を見た五条は、やはり満足気に笑っている。
 シンプルな、なんの飾り気もない黒い靴下である。ただ、その長さが想像以上。虎杖だってちゃんと男の子であるので、想像の中の女性がこういうものを履いていることだってある。あるのだけれど、すらりと伸びる白い脚と、その大半を覆い隠す黒い靴下、というものはそれが女性特有のしなやかさがあるから良いのであって、男性の、それも虎杖のように全身運動を頻繁に行うような、ガタイの良い脚で再現するべきものではない、と思うのは間違いではないはずだ。他にも犠牲者がいるような、例えば学生ノリでのお揃いだとか、噂に聞く学祭やら文化祭の女装喫茶だとか、そんなものであるならば別だろうが、いくら目を凝らしたところでここには五条と虎杖しかいない。呪霊のかけらも見当たらないので、正真正銘、二人きりである。なお、己の内に居座っている宿儺は敢えてカウントしていない。自身の肉体を持った全盛期を平安時代とするお爺ちゃんは、ニーハイの何たるかをよく理解していないようであるし、興味がないのか静かにしているようなので。宿儺を数に入れたところで、犠牲者は虎杖のみであることに変わりもない。ふたりでひとつ。こんなところでは聞きたくない、嫌な響きである。
 素直に喜ぶことは難しいものの、なんとなく長さを試してみたくなる。好奇心というか、怖いもの見たさというか。実際に履くとなれば一度ズボンを脱がなければ難しいだろうと、下につかないギリギリまで先端を垂らし、脚に沿わせてみる。ちょうど太腿の半ば、ショートパンツでも着用すれば、絶妙な絶対領域が形成されそうな位置である。いくら「オーダーメイド」とはいえ、あまりにも狙ったような長さに、虎杖は少しばかり思考を停止する。
「一応、弁解しておくけどさ。大抵のニーハイは全ての人に絶対領域を作り出せるだけの長さで作られてるからね」
「それにしたって、俺用に長さとか変えてのオーダーで、あ、比率? 割合? 数学?」
「そうそう。意外と数学は使えるんだから、勉強もしっかり頑張ること」
「五条先生がちゃんと先生らしいこと言ってる」
 どういう意味だー、とわざとらしく怒ったふりをしながら虎杖の頬を潰してきた五条は、ふと真顔になって言う。
「それ、履いた姿は俺以外に見せちゃ駄目だからね」
「先生にも見せる予定はねぇけどな」
 何でだとかどうしてだとか、目前でぐだぐだと言い連ねている五条に対し、どうして普通の靴下ではなかったのかを問うことを虎杖は躊躇う。ただ、呆れたように宿儺が呟いた「くだらん趣味よな」という言葉に全てが詰まっているような気がした。
3/6ページ
スキ