ねがいごと
ずっと、欲しいものがあった。でも、手に入れる方法を知らなかった。
ほらほら、そこどいて。僕は急いでるんだから。僕らの過去? あー、ずっと幸せだったけど全部壊れましたってことでいいじゃん。というか、君は何? ……へぇ、王様に頼まれたんだ。うわ、やっぱりばれてたんだね。でも見逃してくれるって、さすが二人のいいお父様。え、知らなかった? 王女と魔女は歴とした姉妹だよ。
色々あって「王女」「魔女」として別々に育てられた二人だけど、僕は魔女ちゃんとは城で会う前から仲が良かったんだ。魔女ちゃんが薬草を摘みに来る森に、僕は住んでたからね。ただ、そんな平和な日々も、突然終わった。魔女ちゃん、王女の話し相手にって城へ連れて行かれたでしょ? その時、魔女さんから魔女ちゃんの家族のことも聞いてね。驚いたよ。でも、何もできない。いなくなって気付いたよ。魔女ちゃんのこと、すごく大切だったって。会いに行こうにも、簡単にはいかなかったけど。
そんな中、城が庭師を探してるって聞いてね。森で長い間暮らしてたし、結構楽に合格したよ。で、庭で二人に会った時は知っていたとはいえ驚いたなぁ。王女の顔、魔女ちゃんにそっくりだったから。いや、この場合魔女ちゃんが王女にそっくりだったのかな? まあ、魔女ちゃんの瞳は昔と変わらず優しかったから、顔を隠してたってすぐ分かったけどね。
とにかく、僕と魔女ちゃんは無事に再会できたわけだけど、それが王女には不満だったみたい。悩んだよ。どうすれば三人のためになるのか。具体的なことは決まらないまま、いつの間にか僕と王女が逃げることになってて。焦ったよ。話を上の空で聞いてちゃだめだね。
ただ、気付いたのがさ。そのまま僕らが逃げれば、魔女ちゃんは自由になれるんじゃないかって。きっと、魔女ちゃんは追いかけてくるから。僕らが逃げ出してしまえば、追いかけてきた魔女ちゃんがそのまま城から一緒に逃げ出してくれたら。そんな、浅はかな計画さ。
あぁ、あの日は死ぬかと思ったよ。思惑通りに三人で走ってたと思ったら魔女ちゃんが手を離して、突然願いを叶えるとか言い出したと思ったら、いきなり刺されたからね。まぁ、魔女ちゃんがギリギリまで僕を殺そうか悩んでたお陰で、致命傷ではなかったけど、一回やって覚悟が決まったのか、続いて本気で殺そうとしたんだよね。手に入らないのならばいっそこの手でってやつ? 熱烈な愛は嬉しいけどさ、痛いのはもう勘弁って感じだね。
ちょっと、信じられる? 魔女ちゃん、僕のことに気付いてなかったんだよ。何となく昔の知り合いに似てるとは思ったけど、本人だとは思わなかったって。ひどいよね。どれだけ僕が苦しく痛い思いをして魔女ちゃんを自由にしようとしたか。
あ、もうこんな時間。どうしよう。今日は早く帰るって言ってたのに仕入れに時間がかかった上、君につかまるし、二人とも怒ってるかな……?
そうそう、王に伝えといてよ。色々あったけど、今は三人仲良く花屋ができて幸せだって。王女は外に出られたし、魔女ちゃんは帰ることができたし、僕も二人と一緒で幸せだよ。
じゃ、ばいばい。王によろしく。
◇ ◆ ◇
「ねぇ、笑ってよ。昔みたいに」
振り下ろされかけた手が、ぴたりと止まる。
「どうせなら、昔みたいな笑顔で送られたいな。そんな泣き顔じゃなくて」
言われて初めて、魔女は自分が泣いていることに気付いた。
そして同時に、自分の「大好きな人」の面影を庭師の中に見つける。
「もしかして……?」
その言葉が決定打。嬉しそうに、けれどどうすればいいのか分からずに戸惑う魔女と、話に全くついて行けない王女。庭師は、王女に近くへ来るよう手招きをした。
「全部、説明するから」
追っ手が見つけたのは、地面に残った血の跡だけだった。
◇ ◆ ◇
昔々ある国に、二人の姫がいました。王女と魔女として別々に育てられた二人は、やがて、一人の少年に恋をします。
父である王は、自分のせいで娘達の運命が狂ってしまったのではないかと、ずっと後悔していました。
だから、逃げた三人を見逃したのです。
国のためにも、ずっと、というわけにはいきません。
それでも、自分が生きている間は、自由であって欲しい。
遠くにいる子供達の幸せを願う父親は、玉座で一人、静かに微笑みました。
ほらほら、そこどいて。僕は急いでるんだから。僕らの過去? あー、ずっと幸せだったけど全部壊れましたってことでいいじゃん。というか、君は何? ……へぇ、王様に頼まれたんだ。うわ、やっぱりばれてたんだね。でも見逃してくれるって、さすが二人のいいお父様。え、知らなかった? 王女と魔女は歴とした姉妹だよ。
色々あって「王女」「魔女」として別々に育てられた二人だけど、僕は魔女ちゃんとは城で会う前から仲が良かったんだ。魔女ちゃんが薬草を摘みに来る森に、僕は住んでたからね。ただ、そんな平和な日々も、突然終わった。魔女ちゃん、王女の話し相手にって城へ連れて行かれたでしょ? その時、魔女さんから魔女ちゃんの家族のことも聞いてね。驚いたよ。でも、何もできない。いなくなって気付いたよ。魔女ちゃんのこと、すごく大切だったって。会いに行こうにも、簡単にはいかなかったけど。
そんな中、城が庭師を探してるって聞いてね。森で長い間暮らしてたし、結構楽に合格したよ。で、庭で二人に会った時は知っていたとはいえ驚いたなぁ。王女の顔、魔女ちゃんにそっくりだったから。いや、この場合魔女ちゃんが王女にそっくりだったのかな? まあ、魔女ちゃんの瞳は昔と変わらず優しかったから、顔を隠してたってすぐ分かったけどね。
とにかく、僕と魔女ちゃんは無事に再会できたわけだけど、それが王女には不満だったみたい。悩んだよ。どうすれば三人のためになるのか。具体的なことは決まらないまま、いつの間にか僕と王女が逃げることになってて。焦ったよ。話を上の空で聞いてちゃだめだね。
ただ、気付いたのがさ。そのまま僕らが逃げれば、魔女ちゃんは自由になれるんじゃないかって。きっと、魔女ちゃんは追いかけてくるから。僕らが逃げ出してしまえば、追いかけてきた魔女ちゃんがそのまま城から一緒に逃げ出してくれたら。そんな、浅はかな計画さ。
あぁ、あの日は死ぬかと思ったよ。思惑通りに三人で走ってたと思ったら魔女ちゃんが手を離して、突然願いを叶えるとか言い出したと思ったら、いきなり刺されたからね。まぁ、魔女ちゃんがギリギリまで僕を殺そうか悩んでたお陰で、致命傷ではなかったけど、一回やって覚悟が決まったのか、続いて本気で殺そうとしたんだよね。手に入らないのならばいっそこの手でってやつ? 熱烈な愛は嬉しいけどさ、痛いのはもう勘弁って感じだね。
ちょっと、信じられる? 魔女ちゃん、僕のことに気付いてなかったんだよ。何となく昔の知り合いに似てるとは思ったけど、本人だとは思わなかったって。ひどいよね。どれだけ僕が苦しく痛い思いをして魔女ちゃんを自由にしようとしたか。
あ、もうこんな時間。どうしよう。今日は早く帰るって言ってたのに仕入れに時間がかかった上、君につかまるし、二人とも怒ってるかな……?
そうそう、王に伝えといてよ。色々あったけど、今は三人仲良く花屋ができて幸せだって。王女は外に出られたし、魔女ちゃんは帰ることができたし、僕も二人と一緒で幸せだよ。
じゃ、ばいばい。王によろしく。
◇ ◆ ◇
「ねぇ、笑ってよ。昔みたいに」
振り下ろされかけた手が、ぴたりと止まる。
「どうせなら、昔みたいな笑顔で送られたいな。そんな泣き顔じゃなくて」
言われて初めて、魔女は自分が泣いていることに気付いた。
そして同時に、自分の「大好きな人」の面影を庭師の中に見つける。
「もしかして……?」
その言葉が決定打。嬉しそうに、けれどどうすればいいのか分からずに戸惑う魔女と、話に全くついて行けない王女。庭師は、王女に近くへ来るよう手招きをした。
「全部、説明するから」
追っ手が見つけたのは、地面に残った血の跡だけだった。
◇ ◆ ◇
昔々ある国に、二人の姫がいました。王女と魔女として別々に育てられた二人は、やがて、一人の少年に恋をします。
父である王は、自分のせいで娘達の運命が狂ってしまったのではないかと、ずっと後悔していました。
だから、逃げた三人を見逃したのです。
国のためにも、ずっと、というわけにはいきません。
それでも、自分が生きている間は、自由であって欲しい。
遠くにいる子供達の幸せを願う父親は、玉座で一人、静かに微笑みました。
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