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恋の歌

●少年少女のバレンタインデー●

 少女は家を出て、恋人の自宅前まで向かった。
 少年は家を出て、恋人から小さな包みを受け取った。

 少女は家を出て、いつものように学校へと向かった。
 少年は家を出て、いつものように学校へと向かった。

 いつものように学校に着いた浦見は、下駄箱で友人とあいさつを交わしながら靴を履きかえた。そして、いつものように階段を上ろうとして、いつもとは違い、足を止めた。
「浦見先輩」
「あれ? どうした?」
 階段前に立ち、じっと自分を見つめてくる後輩。恋する男女にとってはとても大切な「今日」という日に、片思い中の後輩から呼び止められる。その事実に胸を躍らせながら、浦見は共に教室へ向かおうとしていた友人に手を振った。

 いつもより沢山の話をしながら、宇佐見と伏木は学校へ。そして階段を昇りながら話すのは、階段の横で話し込む二人について。
「実際のところ、浦見ってどう思われてるわけ?」
「優しくていい先輩、だってさ」
 それはどのようにとらえたら良いのか。
 二人して悩みながら、心の中で友人にエールを送った。

 いつもより遅れて教室に入った浦見を待っていたのは、クラスメートからの追及。教室へ向かうには、階段を使わなければならない。そして、そのすぐ横で話し込んでいる男女。男女にとって重要な日である今日、そのような行動をとっていたのが自分のクラスメートだったとしたら、階段をのぼりながら妄想が膨らんでしまうのは仕方のないこと。そして当然、真っ先に口を開いたのは長年の友人である宇佐見だった。
「結果は?」
「義理チョコ」
 途端に周囲からため息が漏れた。勿論、宇佐見や伏木からも。だが、この中で一番ため息をつきたいであろう浦見からは無い。そのことを疑問に思った伏木は、ストレートにそれをぶつけた。
「義理でもいいの?」
 その問いに、浦見は小包を見つめながら少し笑って。
「もらえるなら、それだけで嬉しい」
 たとえ本命でなくても、渡すべき相手としてそれなりに身近に感じてもらえているのだから、それだけで今は満足。
 そんな浦見の心の声が聞こえたような気がして、宇佐見と伏木は顔を見合わせる。そして、困ったように笑いあった。
 
 これは、とある少年少女の恋愛事情。
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