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恋の歌

●少年少女のクリスマス●

 世間ではカップルが町で大量発生し、独り身の人間に大きなダメージを与える今日。特定の相手がいない私は、家の中でゆったりと一日を過ごすつもりだった。だって、外は寒い。それなのに。
「何で俺らってここにいるんだろうな」
「知りません」
 むしろ、私の方が聞きたい。
 昨夜、部活の先輩方からメールが来た。折角のクリスマスだから、皆で遊園地へ行こう、と。他の一年生部員にも回っているものだと思って集合場所へ向かってみると、そこにいたのは伏木先輩、宇佐見先輩、そして浦見先輩。皆、というのが部員を指すのではなく、同じ中学で生徒会役員として様々な仕事を共にした、通称「同中生徒会メンバー」だったことに、遊園地に着いてから気付いた。まあ、そこまで気にかけてもらえるというのはありがたいし、そこまではいい。いいのだが。
「寒い、です」
「寒いよなー」
 昼食にしようと、園内の売店へ向かった。ところが、空いている席は室外のものだけ。かなり寒い。じゃんけんの結果、伏木先輩と宇佐見先輩が注文のため暖かな店内へ、浦見先輩と私が場所取りのために極寒の室外に残ることになった。一応、手袋やマフラーはしているが、寒いものは寒い。
 寒さを意識しないでもすむように、何か話をして待っていようかと思った。けど、ネタが無い。さすがに、遊園地へ遊びにきてまで部活や勉強の話はしたくないし。
「あ、先輩」
「んー?」
「伏木先輩と宇佐見先輩って、付き合ってるんですか?」
 実は、ずっと気になっていて聞けなかったこと。本人達に直撃取材をできるほどの勇気はなかった。今は暇だし、本人達もいないし、ちょうどいい。
 先輩の返事は、むかつくよな、とのこと。ということは、付き合ってるんだ。
「実は、祭りの時から気になってたんですよね」
「あー、その節はお世話になりました」
「いえいえ、私も楽しかったですし」
 今回同様、前日にきたメールで決定した祭りへの参加。戸惑ったけど、事情を説明されて結局は手伝った。とは言っても、浦見先輩と一緒に屋台を回っただけだけど。
「てことはこれ、はたから見るとダブルデートですよね」
 実際、一組はカップルなんだし。
 そう思って言っただけなのに、持ってきていたお茶を飲んでいる最中だった先輩は、むせた。動揺しすぎだよ、先輩。
「……で、実際のところ彼氏は?」
「いたら今日、ここに来てません」
「あ、そっか」
 何やら一人で納得している先輩。先輩方か恋人か、という選択を迫られたら、普通は恋人を選ぶって。それなのに、こんな恋人達のために存在するようなイベントの日に先輩方と一日を過ごしている時点で、答えは明白。
 続いて何か言おうとした浦見先輩の背後に、トレーを持った伏木先輩と宇佐見先輩の姿が見えた。
「お待たせ」
「寒い」
「寒いです」
 ごめんごめん、と謝られても、寒いものは寒い。変わらない。
「はい、ココア。俺のおごり」
「あ、ありがとうございます」
 宇佐見先輩が渡してくれたコップは、持ってみるとすごく暖かい。一口飲んだら、とても幸せな気分になる。でも、一つだけ。
「……俺のは?」
「いやー、先輩として後輩におごるのはいいんだけど、友人におごるくらいなら恋人にその分の金を回したいなー、と」
「要は、自分で買ってこいってことか」
「正解」
 当然だけど、正解しても嬉しそうじゃない浦見先輩。今から暖かい飲み物のために店内へ行っても、かなり待たなければならない。だから、コップを差し出してみればすぐに手が伸びてきた。で、一口。間接キスとか、気にしないのかな?
「浦見」
「何?」
「間接キス」
 二口目を飲もうとしていた先輩は、一瞬で顔が赤くなった。一口目は、寒すぎて何も考えられなかったんだね。でも、やっぱりはずかしいんだ。そのままコップが帰ってきた。にやにや笑っている伏木先輩と宇佐見先輩は、何だかとても楽しそう。からかわれて真っ赤になりながら必死で言い返している浦見先輩も含めて見ると、三人の掛け合いは本当に見ていて(聞いていて)楽しい。
「先輩、とにかく食べませんか?」
 せっかく出来立てなのに、コントのような掛け合いを続けていればどんどん冷めていってしまう。慌てて食べ始める先輩方を見て、思った。

 やっぱり、この空間が好きだ。
 同級生ではないけれど、もしかしたら同級生以上に仲が良いかもしれない。大切にしたいと思う。

 けれど。
 どうして伏木先輩や宇佐見先輩のデートに、浦見先輩や私が同行しているのか。楽しいのとその疑問は、別問題だ。
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