恋の歌
●少年少女の祭り●
約束の時間の十五分前。今日も一番乗りだ。
地元で行われる夏祭りは、少し規模が大きい。遠くからもお客さんが来るということで、準備段階から町は盛り上がってた。となると、小さい頃からその祭りに参加している俺たちのテンションも当然上がる。浦見とは小学生時代から一緒に屋台を回っているし、小学校では校区の違った伏木も、仲良くなった中学時代から一緒に回るようになった。
とまあ、毎年の習慣となっている三人での祭りへの参加だけど、今年は一味違う。浦見に協力要請をしてみた結果、あっさりと引き受けてもらえた。やっぱ、持つべきものは友達だよな。
「ウサ太郎、相変わらず早いな」
「ウサ太郎って誰だ」
無言で俺を指すな! 今年の干支がウサギで、しかも響きが似ているからという理由だけで、どれだけ名字をいじられたことか。
「……で、浦見」
「分かってる」
伏木に伝えた約束の時間は、もう少し先。男二人で先に集まった理由は簡単で、作戦会議のため。作戦会議、というほど立派なものではないような気もするけど、俺個人としては、それくらい重要な内容だ。浦見には申し訳ないけどさ。
「適当なところではぐれるから、見つけないように」
二人っきりになりたくて浦見に頼んだんだ。伏木の手前、探すフリはするけど見つける気なんて全くない。ただ、少しだけ罪悪感はある。これまでずっと一緒に祭りを回ってきたのに、今年は俺のわがままで浦見は途中で一人になる。一応、適当な頃に戻ってくる予定ではあるけど、ちょっと申し訳ない気も。
「はぐれた後で一緒に回る子見つけたから、見つけられたらむしろこっちが困る」
「あー、了解」
真剣に言うってことは、相手は片思い相手か。祭り、といういつもとは異なる空間。そこで進展出来るにしろ、出来ないにしろ、特別な時間を一緒に過ごす相手は好きな人がいい、というのは誰だって同じだと思う。やっぱ、それは邪魔しちゃダメだな。あとは、この異様な熱気に後押しされて、言いたいことをスッキリと言ってしまえたらいいなぁ……とは思うけど、無理だ。多分、二人とも。満足しているわけではないけど、言ってしまったことで現在の関係が壊れてしまうのが――二人の距離が遠のいてしまうかもしれないと思うと、怖くて言えない。草食系男子上等!
「あ」
「二人とも、今日はいつも以上に早くない?」
そういう伏木だって、集合時間の十分前。今日は祭りらしく浴衣姿。去年の水色の浴衣も似合ってたけど、今年の浴衣もすごく似合ってる。
「それ、新しい浴衣? 似合ってる」
「ありがと」
浦見、俺より先に言うな! あ、でも先に言ってくれたおかげで軽く「似合ってる」って言えた。けど、最初に言いたいってのが恋する男心……って、自分で言ってて恥ずかしいな、これ。
「じゃ、まずはどこ行く?」
「「スーパーボールすくいで勝負に決まってるし」」
もう、恒例行事だな。貰える商品の中で、一番上のランクのものを三人で貰ったこともあったっけ。とりあえず、スーパーボールすくいを三人でしないと、祭りに来た気がしないってのは俺も同じ。張り切って先を歩く伏木から、横を歩く浦見へと視線を移したら、ばっちり目があった。
「これやったら」
「……いくらなんでも早いだろ」
いくらなんでも、屋台巡り開始早々にはぐれるのは早すぎる。わざとらしすぎる。今までそんなことは無かったし、伏木が変に勘ぐらないとも限らない。というか、突然すぎて俺の心の準備が全然できてない。いや、じゃあいつなら準備ができてんのか、とか聞かれると困るけど。
浦見は、何も返してこない。これは、本当にスーパーボールすくいが終わったら消えるつもりか? お互いのためにはその方がいいのかもしれないけど。ああ、ちょっと悩んでる間に伏木はどんどん先へ行ってる。ちょっとは俺らにも注意を払ってくれないと、浦見がはぐれる前に伏木がはぐれるって。
「じゃ、焼き鳥おごってくれ。焼き鳥おごられたら、その後にはぐれるから」
「焼き鳥か……了解」
百円だっけ? 不景気だから高くなってる気がするし、そもそも百円だったかどうかも怪しい。ま、これくらいの出費は仕方ないか。タイミングも俺に任せてくれることになってるし。けど。
「それで大丈夫か? 相手との待ち合わせとか」
俺らとはぐれた後の予定。タイミングが俺次第ってことは、いつどこで待ち合わせるか、なんて約束も意味が無い。ホント、申し訳ない。
とか思ってたら、あっさり言われた。
愛の力で何とかなる、と。
……なあ、お前って、俺と一緒で片思い中だよな? で、神様に恋愛は諦めろって言われて、本気でしばらくへこんでたよな? 何でそこまでポジティブなんだよ! つか、愛の力で何とかなったらこの世は平和だ。恋愛関連の色んな駆け引きが全部なくなるんだし。愛の力? 四分の三くらいは俺によこせ!
浦見に焼き鳥を買って、思惑通り伏木と二人になった。
けど、意識し過ぎて、絶対挙動不審になってるって!
約束の時間の十五分前。今日も一番乗りだ。
地元で行われる夏祭りは、少し規模が大きい。遠くからもお客さんが来るということで、準備段階から町は盛り上がってた。となると、小さい頃からその祭りに参加している俺たちのテンションも当然上がる。浦見とは小学生時代から一緒に屋台を回っているし、小学校では校区の違った伏木も、仲良くなった中学時代から一緒に回るようになった。
とまあ、毎年の習慣となっている三人での祭りへの参加だけど、今年は一味違う。浦見に協力要請をしてみた結果、あっさりと引き受けてもらえた。やっぱ、持つべきものは友達だよな。
「ウサ太郎、相変わらず早いな」
「ウサ太郎って誰だ」
無言で俺を指すな! 今年の干支がウサギで、しかも響きが似ているからという理由だけで、どれだけ名字をいじられたことか。
「……で、浦見」
「分かってる」
伏木に伝えた約束の時間は、もう少し先。男二人で先に集まった理由は簡単で、作戦会議のため。作戦会議、というほど立派なものではないような気もするけど、俺個人としては、それくらい重要な内容だ。浦見には申し訳ないけどさ。
「適当なところではぐれるから、見つけないように」
二人っきりになりたくて浦見に頼んだんだ。伏木の手前、探すフリはするけど見つける気なんて全くない。ただ、少しだけ罪悪感はある。これまでずっと一緒に祭りを回ってきたのに、今年は俺のわがままで浦見は途中で一人になる。一応、適当な頃に戻ってくる予定ではあるけど、ちょっと申し訳ない気も。
「はぐれた後で一緒に回る子見つけたから、見つけられたらむしろこっちが困る」
「あー、了解」
真剣に言うってことは、相手は片思い相手か。祭り、といういつもとは異なる空間。そこで進展出来るにしろ、出来ないにしろ、特別な時間を一緒に過ごす相手は好きな人がいい、というのは誰だって同じだと思う。やっぱ、それは邪魔しちゃダメだな。あとは、この異様な熱気に後押しされて、言いたいことをスッキリと言ってしまえたらいいなぁ……とは思うけど、無理だ。多分、二人とも。満足しているわけではないけど、言ってしまったことで現在の関係が壊れてしまうのが――二人の距離が遠のいてしまうかもしれないと思うと、怖くて言えない。草食系男子上等!
「あ」
「二人とも、今日はいつも以上に早くない?」
そういう伏木だって、集合時間の十分前。今日は祭りらしく浴衣姿。去年の水色の浴衣も似合ってたけど、今年の浴衣もすごく似合ってる。
「それ、新しい浴衣? 似合ってる」
「ありがと」
浦見、俺より先に言うな! あ、でも先に言ってくれたおかげで軽く「似合ってる」って言えた。けど、最初に言いたいってのが恋する男心……って、自分で言ってて恥ずかしいな、これ。
「じゃ、まずはどこ行く?」
「「スーパーボールすくいで勝負に決まってるし」」
もう、恒例行事だな。貰える商品の中で、一番上のランクのものを三人で貰ったこともあったっけ。とりあえず、スーパーボールすくいを三人でしないと、祭りに来た気がしないってのは俺も同じ。張り切って先を歩く伏木から、横を歩く浦見へと視線を移したら、ばっちり目があった。
「これやったら」
「……いくらなんでも早いだろ」
いくらなんでも、屋台巡り開始早々にはぐれるのは早すぎる。わざとらしすぎる。今までそんなことは無かったし、伏木が変に勘ぐらないとも限らない。というか、突然すぎて俺の心の準備が全然できてない。いや、じゃあいつなら準備ができてんのか、とか聞かれると困るけど。
浦見は、何も返してこない。これは、本当にスーパーボールすくいが終わったら消えるつもりか? お互いのためにはその方がいいのかもしれないけど。ああ、ちょっと悩んでる間に伏木はどんどん先へ行ってる。ちょっとは俺らにも注意を払ってくれないと、浦見がはぐれる前に伏木がはぐれるって。
「じゃ、焼き鳥おごってくれ。焼き鳥おごられたら、その後にはぐれるから」
「焼き鳥か……了解」
百円だっけ? 不景気だから高くなってる気がするし、そもそも百円だったかどうかも怪しい。ま、これくらいの出費は仕方ないか。タイミングも俺に任せてくれることになってるし。けど。
「それで大丈夫か? 相手との待ち合わせとか」
俺らとはぐれた後の予定。タイミングが俺次第ってことは、いつどこで待ち合わせるか、なんて約束も意味が無い。ホント、申し訳ない。
とか思ってたら、あっさり言われた。
愛の力で何とかなる、と。
……なあ、お前って、俺と一緒で片思い中だよな? で、神様に恋愛は諦めろって言われて、本気でしばらくへこんでたよな? 何でそこまでポジティブなんだよ! つか、愛の力で何とかなったらこの世は平和だ。恋愛関連の色んな駆け引きが全部なくなるんだし。愛の力? 四分の三くらいは俺によこせ!
浦見に焼き鳥を買って、思惑通り伏木と二人になった。
けど、意識し過ぎて、絶対挙動不審になってるって!