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恋の歌

●少年少女の初詣●

「おみくじ、どう?」
「じゃーん。俺、吉」
「……末吉なのはいいんだけどな。恋愛が」
「うわ」
「他は若干前向きなのに、そこだけ断言だな」
 今日は午前中に各自家族と初詣へ行き、午後からは友人の宇佐見や伏木と一緒に初詣。おみくじは三人で引くと約束していて、引いたまでは良かった。末吉だったのも、まあ許せる。だが、どうして重要事項である恋愛についてが、マイナス方面に断言なのか。そこだけがどうしても納得できない。
「「どんまい、浦見」」
「そこ、はもんな。余計に切ない」
 恋愛はあきらめろ。
 そんな神様のお告げを、信じるべきか無視するべきか。そこは後でじっくり考えるとして、とりあえず結んでおく。それにしても、本当にどうして恋愛だけ。待ち人は来るが遅い。勉強は、早めに目標を定めるべし。失せ物は……あ、これも見つからないって断言だった。「あきらめろ」の文字が印象的過ぎて忘れてたけど。
「で、そういう伏木はどうなんだよ」
「私? 驚かないでね」
 そこまで自慢げに言うってことは、あれか。神に選ばれた存在にのみ与えられる、幻の「大吉」か!
 そんなことがパッと浮かぶあたり、さっきの「末吉」のダメージが地味に残ってんのか……?
「ほら、さっさと見せろ」
「じゃーん」
 宇佐見の効果音を真似て見せてくる伏木。堂々と見せてくれるのはありがたい……けどさ。
「大凶って」
「滅多に引かないな」
「でしょ? ある意味すごくない?」
 すごいすごい、と返す宇佐見。そして、それが棒読みだったことに突っかかる伏木。そんな二人の声をBGМにして、俺はただ一点を見つめた。
「……大凶と一緒」
 当然のことながら、大凶も恋愛はあきらめなければならないらしい。大吉から大凶までの七段階に分けられた運勢の中で最下層なのだから、当たり前だとは分かっている。それでも、自分の恋愛運が大凶と同じランクに位置しているというのは、恋愛をあきらめろという文字を見た時以上にダメージが大きい。傷口にミカン果汁をかけられた感じ。ほら、冬場って手先荒れるだろ? そんな時にミカンを食べようとすると、かなりしみるアレ。さすがに塩を塗られたことはないから、傷口に塩を塗られた感じだと表現したくない。微妙なこだわり。

 家に帰って家族とテレビを見て、勉強する気が起こらないからどうしようかと悩んでとりあえず携帯を開いてみる。
 そういうと、かなりダメな学生のようだけど、今日に限っては誰だってそうだと信じているぞ、俺は。
 まあ、とりあえず、一言だけ。
「どうしよう、無視したい」
 届いていたメールは、年賀状のかわりに届けられる新年の挨拶メールが五通。会員登録している店から、福袋だとか割引だとかのお知らせメールが三通。そして、伏木から先程の件についてで一通。
「新年早々、こんな重い内容の恋愛相談って」
 いや、重いかどうかは知らない。ただ、何と言えばいいのかが全く分からないから、面倒。それに。
「大凶に、仲間認定されているってのがなぁ」
 微妙だ。事実だとは分かっているけど。
 とにかく、何と返信するべきなのか。希望を持て? おみくじなんて気にするな? いや、あれだけ気にしてた俺が言ったって説得力皆無だろ。でも、他に何か言えるか? いや、言えない!
「気にするな。いつでも相談に乗るから、と」
 送信ボタンを押して、一気に脱力。ベッドに倒れこんだらすごくふかふかで、そのまま眠りたくなった。けど、手に握ったままの携帯が振動。ディスプレイを見れば、伏木から。正直言うと、見たくない。せめて、今日だけでも。
「とか思いながら、ちゃんと目を通す俺って優しいよな」
 浦見だって気にしてた? ほっとけ。
 気が楽になった? そりゃよかった。
 そっちも頑張れ?
「余計なお世話だっ!」
 口に出しながら文字を打つって、結構すっきりする。はたから見ると変人だけど。
 具体的な相談内容は、さすがに送って来ないだろうけど、せめて今日だけは何も考えさせないでほしい。だから、伏木に返信し、年賀メールをくれていたメンバーに返信し、そのまま携帯の電源を切る。元旦ってことでメールが多く、そのせいで充電が切れたことにしよう。うん。我ながらいい考えだ。
 それにしても、伏木が宇佐見を好きだったとは。そりゃ、大凶で恋愛もマイナスの事しか書かれてないおみくじ引いたら、誰かに相談したくなるな。そこで仲間認定されたのが俺だったってのが嫌だけど。
 とりあえず、今日はもう風呂に入ろう。で、ぬくぬくしてるうちに一眠りしよう。昨日、色々な番組を見続けたせいで今日は眠すぎる。夕飯が出来たら、誰か起こしてくれるだろうし。
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