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1章《過去編》

episode1歯車たちの出会い



あたしには”視えた”。彼の姿が。
茶葉の色を鮮やかに抜き取った透明な紅茶に、濃厚なミルクを贅沢に混ぜたようなミルクティー色のふわふわとした髪の毛。
甘い砂糖と黄金の蕩ける蜂蜜を煮詰めて固めたキャラメルのような瞳。
全身が甘いケーキのように甘美で、高級なスイーツのように耽美な彼。
あたしが恋焦がれている彼を、あたしの”眼”は しっかりと捉えていたし、彼がどこにいたのかもすぐにわかった。
だからこそあたしは酷く動揺した。何故彼はよりによってあそこに現れてしまったのだろう、助けなければならない。
激しい衝動とどこからか溢れる義務感に刈られて、彼女の言っていた忠告を無視してあたしは走り出してしまっていた。
後ろから、2人の少年の咎める声が聞こえたけれど、今のあたしにそんな思考能力は無い。
ただひたすらに、彼の元へ全力で駆けていくだけだ。

「行っちゃったよ、良いのかな……姫様以外はあの山に立ち入ったら危険なのに」

「良いわけねぇだろ!?姫様に伝えなきゃなんねぇ……俺達も行くぞ!」

「ちょっと待ってよ兄者!」



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──あれからずいぶん時間が経ったと思うが、俺は未だうつつへと帰ってはいない。
やっぱり夢ではないのでは?と何回も思った。
歩き続けた脚や、生い茂る草に掠る手や腕が痛いのだ。有り体であるが、夢では痛みを感じないというのが世界の常識だ。馬鹿馬鹿しいが、自分で頬も抓った。もちろん痛かった。しかし夢でないならばこの山と化け物はなんなのか。
俺にとってこちらを認めてしまうことの方が馬鹿馬鹿しかった。化け物……妖怪や幽霊の類は全く信じていない。超能力や占いなんかも同様だ。この世の理不尽は人が作るものなのに、それを見えない何かに押し付けているだけなのだ。
だから、もしかしたら寝ぼけた俺が本当に頬を抓ったのかもしれない、と思うことにした。これもまた、全く開ける様子のない道と抜け出せない山からの現実逃避であるのはもう薄々わかってはいるのだが。
そう、さっきから歩いてはいるものの、山道さえも見つからないままだった。同じ方向に歩いているので、そのうち何かあるとは考えていたものの、迷路に迷い込んだように出口にたどり着かない。
子供の頃にやった、出口が初めから用意されていない迷路をやらされているような感覚。

(あれ、あの迷路を作ったのって誰だったっけ……)

「うわっ!?」

そんな昔のことになんとなく思いを馳せていると、足場が悪くなったのに気づかずに足を踏み出してしまった。急な坂道を転がるように走る。
すると、突然目の前に何かの影が現れた。

「!?」

「わっ、危な……!」

その影を避けようとして後退すると、尻もちを着いてしまった。ドサリと重い音が響き、痛みが走る。現れた影のほうを見やると、どうやらぶつかったのは人間だったみたいだ。
……人間?





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「やっと見つけたわ」





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「み、見つけた?俺を探してたってこと……?
それよりキミのその格好は……」

目の前に現れた人間は、俺と同じ高校の制服に身を包んだ、揺れる深緑のポニーテールと眼鏡が特徴の女子だった。
……まさか、人に会ったら同じ高校の生徒だろうとは考えてはいなかったため、度肝を抜かれてしまう。

「あら、あたしのこと知らない?
……いや、知らないわよね。貴方だもの……」
「ど、どういう意味かな」

何やら心外なことを思われているようだ。すっかり板に着いてしまった印象のいい笑顔が引き攣る。
夢の中なのに、女子相手には”こう”なってしまう自分が憎らしかった。だから女子は苦手だ。

「いいえ。ただ、あたし学校では少し有名だったから、残念だなと思ったのよ。
ところで貴方、まだなんにも知らないわよね?此処のこと」
「キミは知っているの?」
「そうよ。全て教えてあげる……着いてきなさい」

随分意味深なことを言う奴だ。まるで俺がどういう状況に置かれていて、どんなことが分からなくて何を考えているのか見透かしているような。
少し、薄気味悪くて身震いした。
この女は何者なんだろう?学校では有名と言うが、俺は学校の人間に基本的に興味を示さなかったせいで誰でどんな奴なのかわからない。少しは女子達の噂話に耳を傾けていればよかった。

「……!
静かにして、伏せて」
「っぇ、」

まさか、またアイツか?
さすがに俺も見つかったら終わりだということはわかる。大人しく口を塞いで地面に伏せる。

「ねぇ、あいつは何なの?」
「あぁ、それも知らないものね……
あいつはここの山の守り神なのよ、青坊主っていう妖怪なんだけれど、守り神として信仰されているの」

青坊主。山の守り神、信仰……?まるで昔話みたいな言葉の羅列に混乱してしまう。守り神の信仰なんて、そんなの。

「大昔みたいじゃないか……」
「そうよ。ここ、少なくとも現代日本ではないわ」
「はっ……!?」

大声を出しかけて、眼鏡の女に「しっ!」と言われた。
いやしかし、でも。流石の俺も驚いてしまった。今いるところが現代日本ではないだなんて……あまりにも非現実的すぎて。やっぱり夢なんだ、と思いこみたい。けれど。

「一応聞くけれど、まさかこの期に及んでまだ夢の中なのかな?なんて思ってないでしょうね?」
「そう思っていたかったけれど、さすがに見ず知らずの人間と出会って説明される夢なんて無いだろうからね」
「そう、貴方が現実を受け止められる強い人でよかった」

そう言って彼女は薄く微笑んだ。
その笑顔は、なんとなく見覚えのある笑顔だったけれど、どこで見たのか思い出せないまま、彼女はまたきりりとした引き締まった表情に戻ってしまった。

「とにかくね、青坊主はここら辺の人間からは山神と呼ばれていて、普通の人間はここの山に立ち入っては行けないことになってるの。神聖だからね」
「キミは入ってしまっているけれど?」
「いいのよ、わかっていてここに居るの。だって、貴方が助けられない」

見つけた、と言っていたが、俺がここにいるとわかっていてやって来たようだ。助けに来てくれたのは有難かったが、何故わかったのかがやはり不気味な女だと感じる。

「なんであなたがここの山に”出てきて”しまったのか分からないけれど、山神の力で簡単には抜け出せない迷路になっているわ。
あたしが道を教えるから一緒に村まで行きましょう」
「ありがとう。助かるよ」

俺はそう言って微笑みかけた。俺の言葉に心が篭もっていても、この笑顔が薄っぺらなのは分かっていたけれど、それでも。

「まずは目印を付けましょう。この迷路は、一定の範囲移動すると最初の場所にワープさせられるようになっているものよ」

そう言いながら、彼女は手短な木に取り出したナイフで傷をつけた。そんなものを持っていることから、もとより俺をここから連れ出す事が目的らしい。
それを観察しつつ、俺は頷いて話の続きを催促した。

「それが、どこか抜け道があって、そこから迷路の外に出れるようになってる……要するに出入口のある結界のようなものね。その抜け道を探すの」
「その出口は毎回変わるってこと?」
「そう。抜け出したら迷路の形状が変わるから……地道な攻略法しかないのよ」

そのまままっすぐ進みながら気に傷を刻みつけていく。それを眺めながら、俺は話を聞いていた。本当に地道な作業だ。こうやって傷をつけている間にもあいつはこの山を侵入者から守ろうと徘徊している。この間にもあいつに会ってしまうことを想像するとゾッとするが、幸いあいつをやり過ごすのはじっと身を潜めて黙っていれば良いだけだ。

「そういえば、ここの山は神聖だから普通の人は入れないって言っていたよね。入れる人間っていうのはどういう人なの?」
「ああ、簡単に言えば巫女様ね。この時代じゃあまだ”神子みこ”様かしら。神の子で神子。この山のふもとの村で1番偉いお家の長女よ。小さな村だから特に大きなお城を構えているわけじゃないけれど、村の人からは姫様と呼ばれている子ね」
「ふうん、お姫様かぁ……妖怪信仰なんかが残ってるわけだから、その一家は預言者とかそういうところ?」
「いいえ。神社の娘。だから巫女様なんだけど、その子飛び抜けて美人なのよ。神社の子で、人を超える美しさ。だから神の子と崇められてるの」

容姿端麗なだけなのに、この時代だとそこまで崇められてしまうのか。いや、立場や当時の村の状況なども影響しているのか。だとしても、ただそこに生を受けただけで人間から神だ神の子だと崇められるのは酷く窮屈そうに感じた。その窮屈さに耐えかねて投げ出さないのは恐らく底なしの優しさを持つ少女だからだろう。優しさはいつか身を滅ぼすのだ。優しいだけで周りからあらゆることを押し付けられている人を多数見た。その少女もきっと、優しさに殺される。優しさは兎をも殺す。

「あら」

ふと彼女が声をあげた。どうやら最初に傷をつけた木まで戻って来てしまっているようだ。

「ここはハズレね。結界は小さいものだから時間さえかければ抜け出せるけど、この作業がなんせ辛いのよ……
ねぇ貴方、日頃の行いはいい方?」

日頃の行い。さあ。どうなのだろう。人当たりは意識的に良くしているからいいとは思うが、それが日頃の行いがいいということにはなるのか。まあ心の底がこのような人間、神様とやらが実在して監視しているなら、徳のある人間では無いだろう。人当たりが良くて、使い勝手がいいのは確かなのだが。
俺は、心の中でそう思いつつも、この問いにニコニコとした笑顔でこう答えた。

「どうなんだろうなあ。俺、人助けとか好きだし、優しいねってよく言われるけど。
これは日頃の行いがいいって、言えるのかな?」

こんな事を素でしていればそれはさぞ素晴らしい人間だ。俺が客観的な立場ならば手放しで褒めちぎり、もちろんと答えるだろう。
いや、俺はそういう人間っぽく生きようとしているから、俺ならばそう言うのは当たり前だ。

「それは素晴らしい人間性をお持ちね。優しい人はね、損しやすいけれど得するのよ。たぶん、こういう時に」
「それはよかった。早く出口が見つかるといいなあ。
……次は俺が傷をつけて歩くよ。二人いるんだから交代制にしよう」
「ふふ、ありがとう。紳士ね」
「いやいや全然。そんなことはないよ」

素が善人であるとは言わないが、男である自分が女の子にずっと労働を強いているのはいい気がしなかった。それだけだ。それだけなのに、大抵の女はこれを繰り返しているだけで好きだ恋に落ちたんだなどと宣うのだから油断出来ない……のだが、彼女からは俺を疑うような、探るような視線を感じる。おそらく彼女なら、多少優しくしたところで何を狙っているんだ?という目線で見られるに違いない。ならば、とくに警戒する必要も無いだろう。

「……ねぇ、
初くんはいつになったらその貼っつけた笑顔が取れるのかしら」

ピシリ、と空気が固まった。
俺が可愛いだけの天音初になるための笑顔が、普通の俺が不機嫌に顰めた顔へと豹変する。
この女、なんでそんなこと知っているんだ?

「は?」
「あは!やっと顔が変わったわね」

俺の口から漏れだしたのは年相応に低い男の声だった。
なのに彼女は今までで一番いい笑顔を見せた。これを待ち望んでいたようだ。

「あたしはねぇ、あんたのその猫かぶりも性悪さも口の悪さも知ってるわよ。だから見繕ったり隠したりしないで。
むしろ、そのセメントみたいに固まった笑顔の方が不気味だわ。辞めた方がいいわよ?」

絶句した。絶対絶対バレてないと思っていた。というか、俺が本性を出して興味が薄れない女がいることが不思議だった。やはりこの女は特異だ。

「異常だろ、お前……呆れたりしないわけ?」
「あたしはありのままのあなたが好きよ」

ここで俺は人生で初めて、素のままの俺で同世代の女と言葉を交わしたのだった。




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目の前の木に、俺が先程つけた傷がまたついている。この光景は何度目で、この木は何本めの木なのだろう。

「あんた、やっぱり日頃の行い悪いわよ」
「うるせえな俺が一番知ってんだよ……」
「自覚があるようで何よりね」

やはりというかなんというか。神とやらは俺をきっちり監視しているらしい。
あのまま俺はふっ切れてコイツとは普通に会話をしていた。幾年かぶりに変な気遣いをせずに女子と会話するのは肩が凝りなくて楽だった。
軽口を交わしながら交代制で何度も挑戦するものの、全て惨敗。未だにこの森の中を抜けることは出来ていない。もう目覚めてから数時間ほぼ休み無しで山を歩き続けた俺の体と、得体の知れない化け物から隠れつつ山をさまよった俺の精神はもう限界だった。

「1度、休憩をしましょう。疲労が溜まった状態で無理して作業をしても、それは非効率的で生産性がないもの。心は休まらないかもしれないけど、大事なことよ」
「ああ。じゃあちょっと、座らせてもらいたい」

俺はそう言うと、あたりを見回して適当な倒木に腰掛けた。少しだけ疲労でため息が出る。誰も立ち入らないのに、木というのは勝手に倒れたりするものなのだなあ……と軽く考えながら。

「ぁ………………あんた、ちょっと…………」

珍しく彼女が酷く動揺しているのに気づく。何があったというのだろう。
なんだか、疲れで頭の奥がぼうっとするのだ。今すぐにでも泥のように眠ってしまいたい___………。
そうして、うとうとと彼女目線を辿った先に、赤色の瞳と薄気味悪い青の肌。

「ぅ、あ………」
「いっ………」

「いいから逃げるのよ!!!!」

ぐい、と手を引かれる。
ぼやけていた視界が急激にクリアになった。坂道を転げ落ちるように走る。走る。適当に選んだ道なのだから、いずれループするとわかっていても逃げる足が止められない。

「なっ、なあ!?聞いてなかったけど!
あいつに捕まったらどうなるんだ!?」
「あたしだって知らないけど!!勝手に山に入ったんだからそれなりにまずいことになるでしょうよ!!」
「だよなあ!」

わからないが怖い。わからないから怖い。無知は最恐の恐怖である。怖くて、ただ逃げて、走り続けた息が苦しくてぜはぜはと喘ぐ。咳き込みながら、足が覚束無いのをなんとなく自分で察していた。この体はもう持たないのだ。そのうち、足が絡まって転んでしまう。

「おい、お前っ、はァ……ごほっ………、俺がっ、転けたりしても、気にせず、置いていけよ」
「はあ!?何いってんの!?あたしに、あんたを見捨てろって!?あたしに!」
「も、げんかい………なんだよ、は、はっ…………みて、わかんだろ」

そもそも、男子である俺が女子のこいつと並走しているのがおかしいのだ。それくらい、俺の足は使いすぎて疲弊していた。
彼女は、泣きそうなような怒ったような、よく読めない表情を浮かべた。随分俺の事を気にしているようだけれど、つい今日会った、猫かぶりの薄っぺらな人間のなにを気にかけることがあるのか。ほぼ赤の他人だろう、置いて逃げればいい。他人の命を助けて自分の命が助からないなんて、感動的なのは物語の中だけの話。

「いや、よ!あんたが、こけたら……あたしが、背負うわ」
「マジで………言ってんのかよ……」

それでも置いていけ、俺を助けてお前に何らかの利益はあるのか?と言い返したかったが、やめた。彼女の鋭い眼光を見たら、彼女の意思は到底曲げられないだろうと感じたからだ。
こんな状態で走れているのは、こいつの意志の強さに押されているからかもしれなかった。

「えっ……?」

しかし、再びの絶望。
進む先から、あの巨体がこちらへと向かってやって来ていたのだ。

「なんで目の前に……」
「あいつ、先読みしていたの……!?」

相手は土地神。たかだか人間が知性や身体能力で叶う相手ではないのだ。この壁は、その愚かさを嘲笑うよう。
こんなところで、よりによって今日あったばかりの女と心中なんて俺は御免だが、もう諦めるしかなかった。


「山神よ!神の巫女、彩乃色さいのしょくが仰せ仕る!此度の無礼、どうか許し給え!その子等は外界よりきたる旅人なり!故に山路やまじを知らず!どうか怒りを収め給え!」


そんな、凛と張った美しい声が聞こえた。
その声を聞くと山神はその言葉に耳を傾け、聞き終えると納得したように山の中へ帰っていった。

「た、たすかっ、た………?」

情けない声でそう呟き、へたれこむ。まさか助かるなんて。悪運がいいということなのか。非常に情けないが、腰が抜けてしまったようだ。

「大丈夫ですか?れん……それと、そちらの殿方」

声をかけられて、手を差し伸べられた。その爪の先まで真珠のように白磁の肌を持つ手を掴み、持ち主に目を向けると。

「錬には説教が必要のようですが、貴方は不運でしたね。まさか山神の土地に舞い降りてしまうとは」

濡れ羽色の艷めく長く黒い髪、切りそろえられた前髪と潤んだ極黒ごくこくの瞳。それらと対比して美しく雪のように白い肌。頬と唇は薄紅色に色付き、それは天使か女神のように美しく可愛らしい少女がそこにいた。

「巫女、さま?」
「ええ。私が藍染あいぜん村の巫女を務めさせていただいております、彩乃色琴姫さいのしょくことひめですわ。彩乃色とお呼びくださいまし」

眩しいほどの笑顔を向けられ、しばらく呆気に取られてしまう。美しいとは聞いていたが、人形のように造形が完璧だ。俺もカワイイだなんだと囃し立てられて生きてきたが、俺なんか比べ物にならないだろう。神の子と言われるのも納得してしまいそうになる。

「彩乃色、なんでここに……?もしかして双子ちゃんたちから聞いたのかしら」
「その通りです、錬。私に相談してくれれば良いものを1人でここまで来てしまうなんて……まったくお転婆ですわ。危ないと申しましたでしょう。もう二度とこんなことはないようにお願い致します」
「ごめんなさぁい」

彼女__名前を聞いていなかったが錬と言うらしい__は、反省しているのかいないのか、さては緊張が緩んだのか、ゆるい返事をした。

「さて。殿方、名前をお伺いしてよろしいでしょうか」
「ああ、ごめんね。俺は天音初って言うんだ。よろしく」
「あまね……、様ですね。よろしくお願いします」

俺の苗字を聞いた彩乃色の表情がどこか陰った気がして、凝視してみたが、そこには相変わらず穏やかな笑みがあるだけだった。なんとなく不思議に思ったが、深く気にすることでもないと感じ、直ぐに忘れることにした。
自己紹介と握手を済ませ、彩乃色は村へ案内してくれると言う。

「錬と同じならば、初様は宿どころか一銭も持っていらっしゃらないのでしょう?私の家は部屋に余裕がございます。いくらでも宿泊なさってくださいまし」

聞けば、彩乃色の家は神社ながらそれなりに大きな一族らしく、その潤沢な財産を人助けや貧しい人達に分け与えたり、人に土地を貸したり子供に学を教えたりなど、庶民への施しをして名声を高めているらしい。俺たちを助けるのも、その一環であるから問題ないのだそうだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて。お世話になります」

こうして、俺は過去の世界で元の時代に戻る手がかりを見つけるために生活することとなった……____。


episode1 end

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