愛のきっかけは、戯曲にて。
「白雪姫がいいの〜!」
「他に案がある方は?」
「ラブに賛成〜」「僕も賛成です」「私も」
「知っているか? 賛成というのはその意見が良いという事だ」
「アベル様はいかがですか?」
「楽しそうだし、いいんじゃないか?」
「配役はねー! 王子様がアベル様! 白雪姫がアビスくん!」
「は!? 姫はラブどのじゃないんですか!? 何で男の私が!」
「皆それが見たいと思うの!」
ラブが「ね!」と言うと、皆、んだんだと頷く。アビスは延々と首を横に振っているが、アベルに一緒にやろうと微笑まれながら誘われ、渋々であるが了承した。
姫と王子以外の配役もラブが決めていった。継母兼魔女がワース。当然納得がいかず喚いている。アビス以上に拒否の態度を示した為、説得には時間を要した。小人はマイロとオロル。ラブ以外の全員がキャスティングミスだろうと思った。185cmの小人って何だよ。鏡がアンサー。そして監督はラブ。私が監督するからには、完璧な作品にしてみせるの〜! と意気揚々。脚本はラブが図書室から借りた白雪姫の本を参考に、アレンジして書き上げた。その脚本を鼻高々と皆にお披露目する。
「キ……キキキキキ……キスシーン!? アベル様と私が!?」
「そっ。だから姫がラブちゃんじゃなかったの。本当の男女でしたら大騒ぎだし〜」
「……男同士だと別の意味で騒がれると思うのですが……」
「大丈夫だろ、アンタら湿度高いし」
「し……湿度?」
「したフリはつまらないから本当にしてね! あと本番で出来なかったら駄目だから、練習からちゃんとするの!」
読み合わせ、衣装合わせ、稽古と着々と進んでいったが、例のキスシーンは、アビスが震えに震え、眠っている棺もガッタガタとまるで大地震が起きたかのよう……。死んでるんじゃなかったのかと総ツッコミを食らう。
全くキスが出来そうにないアビスを見かねて、アベルは夜に練習しようと部屋に誘う。緊張を超えた表情で一一〇七号室を訪ねたアビス。ドアを叩く音すらもビブラートがかかっていたが、アベルは柔らかく迎え入れてくれた。二人は余裕で眠れるサイズのベッドにアビスを招き入れて座らせ、背中をゆっくりと優しく撫でる。それだけでもアビスは女子と対面したかのようにガッチガチになっていたが、撫で続けると慣れてきたらしく、ほっと顔が綻ぶ。
少しずつしていこうね。とアベルはアビスの手を穏やかに繋ぎ、握っていない方の手の人差し指と中指をアビスの唇に当てる。ピクリと跳ねる肩をアベルは抱き寄せた。先程から行われている事は今まで生きてきた中で一切触れてこなかったし、自分とは縁遠いと思っていた愛の戯れ。心拍数を測れば百は猶予に超えているだろう。この行為に理解が追い付かなくて慌てふためく所では無い。同じようにしてご覧とアベルが囁くと、辿々しい手つきで時間を掛けて真似てくる。トンとアベルの唇に指が行き着いた時、自分でしたくせに驚いているのだから、見ているアベルはついくつくつと笑ってしまった。何度も繰り返し、アビスの手が震えなくなってきた頃に、ステップアップ。手の甲、額、頬に優しく口付けを贈る。初心なアビスはとっくにキャパシティーオーバーを迎え顔から湯気が出ている。気絶していないのが奇跡。対してアベルは付き合ってもいないのにこんな事していいのかと悩むが、自分もお年頃。好きな人とこうする事が出来るなんて役得だ。
そして遂にアビスの唇にアベルが同じものを重ねようとすると、
「まっ、待ってください!」
「……嫌かい?」
「いえ、その、アベル様は私なんかとキスして、本当によろしいのですか?」
「アビスなら良いよ。いや、アビスだから……」
君はきっと君じゃなきゃいけない理由を知らないだろう。その切なさを抱きながら生まれて初めてのキスをする。想像していた以上にふわりと柔らかく、そしてこの暖かさにアベルはその幸せの色を知る。……が、アビスは眉間に皺が寄る程、必死に目を瞑り、息まで止めてしまっている。これは不味いとアベルはすぐに唇を離す。鼻で息をしていいよと言うも、なかなかしようとしない。絶対であるはずのアベルの言葉も聞けない程とは……。それでも練習の為、唇を重ねていくうちに、アベルも身が持たなくなりそうで……。僕も初めてのキスだからドキドキする。今日はこの辺にして、また明日ね。と約束を交わした。
そして毎晩のように一一〇七号室でキスの練習をした。アビスもちゃんと息をするようになった頃、アベルはいたずらっぽく舌で唇を舐めてみた。「ひゃっ!」と高い声を上げるアビスは林檎みたいに真っ赤。何が起こったか分からなくて昼夜を思わす瞳をぱちくりとさせている。まるで小動物のような愛らしい表情に唆られ、アベルはそのまま舌を挿し込む。
「んっ……ふぅ……む……」
互いの唇の間から漏れるアビスの声は初めて聞いたものだった。まるで色事の時のような声で高く甘く耳心地が好い。熱い咥内をねっとりと味わう。その果実は禁断を煽る。たまらない……。もっとその先を見たい。火照ったアビスが瞳を潤ませながら、このシーツを乱す姿を夢想する。
「う……うぅ……あ……べる……さま……」
アビスはいっぱいいっぱいになり、アベルの夢想よりも酷くボロボロと涙を零し出した。その涙に触れたアベルは早急に理性を呼び戻し、やりすぎたと謝罪する。好きな子に嫌な思いをさせてしまったと自己嫌悪に陥る。だが、アビスは嗚咽しながらアベルを抱きしめ、「嫌じゃ……ないです」と耳を澄まさなければ聞こえない声で告げ、そそくさと部屋に帰っていった。初めてアビスから抱きしめられた。その事にアベルも呆然とする。微かに聞こえた声に、ファーストキスよりも鼓動は早く……。
一一〇一号室――
「ワース……私はおかしな病気を患ったのかもしれません」
「どうしたんだよ」
「アベル様と……その、キスして……嬉しいと思うなんて……」
それを聞いたワースはつい口角を上げてしまうが、アビスにそれがバレないよう手で口を抑える。アベル様はいつかどこかのご令嬢と結婚なさるでしょうに、男の私とこんな事を……それに私が初めてなんて本当に良かったのでしょうか……とお決まりの拗らせを披露しているが、ワースは大丈夫だと安心させる笑みの元、アビスの頭をワシワシと撫でる。次の日、ワースは二人をくっつけ隊のメンバーにその事を報告し、皆ガッツポーズ。二人が付き合う日もそう遠くないはずだ。
そして迎えたイーストン魔法学校祭当日――
「それではレアン寮、七魔牙 の皆さんによる劇、白雪姫です」
ホワイトのサテンにブルーローズが散りばめられ、紫と青のバッスルとスリーブの付いたAラインスレンダードレス。透き通った秘色の長髪はふんわりウェーブ。前髪の付け根には、パールパープルの細いリボン。愛らしい姿の白雪姫の登場に、観客は目が釘付けになったが、女子にしては高い背丈、矢印の二本線、ロングヘアー、左眼の眼帯で、七魔牙 の第二魔牙 、アビス・レイザーと気付いた時、黄色い悲鳴が上がった。その光景にスタイリングを担当したラブは、自慢げに腕を組む。もちろんメイク中など、アビスに震えられたので大変だった。アイラインがガタガタになってしまい何度やり直した事か……。中性的で儚げな顔立ち、可憐なドレス姿。本当に女性ではないかと錯覚してしまう。お姫様なのは見た目だけでない、お淑やかな話し方、感情もきちんと声に乗っている。動作も一つ一つ丁寧で、指の角度すらも徹底されており、女優そのもののよう。
「いやー、流石中の人が元宝塚なだけあるわー」
「ワースくん、発言がメタいの」
魔法の鏡 から世界で一番美しいのは白雪姫だと告げられ、嫉妬で怒り狂い、姫を殺す事を目論んだ魔女 から毒りんごを貰い、それを何の疑いもなく食べる白雪姫。身体に毒が回り、ふらりと斃れる姿すらも美しい。
そしてアベルの登場。高級感溢れる金の糸の刺繍が施された白いタキシード、そしてレアンの長らしく堂々とした立ち振る舞い、気品。まさしく王子様。
棺の中の白い菫に囲まれる見目麗しい姫に、恍惚とする王子。「王子が口付けをすれば、白雪姫も目覚めるかもしれません……」と大柄な小人 は嗚咽を漏らしながら話す。
「分かった。では……」
透明な棺であったので、観客からも本当にキスしているのが見えて、姫や王子の登場シーンよりも会場は沸いた。多くの女生徒は憧憬の気持ちを持たざるを得ない。まるで秀麗な絵画のような光景 。
王子のキスにより目覚めた白雪姫は、ぼんやりと陽光を受け……
「……わたし、どうしたの?」
「姫! 良かった! 生き返った! 本当に良かったぁ……」
小さい方の小人は号泣。アビスを慕うマイロは感情移入しているようだ。
大柄な小人 から、毒林檎を食べ、姫は永眠 に就いたが、王子の口付けによって目が覚めたと説明を受け、王子にこの上ない感謝を告げる姫。
「私の口付けによって、息を吹き返されるなんて……。これは運命かもしれませんね。急な話で申し訳ありませんが……姫、私と結婚してくれませんか?」
「はっ……はひ!」
アビスは初めて大勢に披露するという緊張故に噛んでしまったが、七魔牙 は最後まで無事に演じ切った。会場を後にする観客から「あの二人、本当に付き合ってるの?」「将来結婚するの?」と噂話がちらほらと聞こえた。男同士なんて関係ない、だって本当にお姫様と王子様だった。お似合いなんて言葉じゃ足りない。
終演後、七魔牙 は談話室にて打ち上げパーチーをしていた。ジュースで乾杯しようとしたが……一人足りない。
「あれ? アベル様は? どこに行ったの?」
「私、探してきます!」
ドレス姿のままアビスはアクセレイズを発動させ、アベルを探した。
「イーストン魔法学校祭も終わりが近づいてまいりました。それでは最後の大イベント! 告白大会を開催致します!」
そういえば毎年しているなとアビスは放送を聞き流す。日も暮れ始め、辺りは暗くなってきた、アベルは一体どこへ……。
「えー、レアン寮 三年 アビス・レイザーさん、告白大会会場・中央ステージへお越しください」
え?! 私?! 何?! 何で?!
告白なんて無縁な自分を一体誰が……。イタズラかもしれないと疑いつつ、一応会場である中央ステージに向かった。早くアベルの元に行きたいのに……。
中央ステージでアビスを待っていたのは……
「ア……アベル様?!」
「アビス、来てくれてありがとう」
アビスもドレス姿のままであったが、アベルもタキシード姿のまま。
「劇の続きを、現実でも……」
そう言ってアベルは跪き、アビスの掌にキスをした。
夕焼けに染まるその光景 は、ロマンティック以外の何物でもなくて――
アベル様が……私と……? 名門貴族のウォーカー家と貴族ではあるといえど下位のレイザー家。そんなの身分の差がありすぎるし、烏滸がましい。それ以前に悪魔憑きの私と恋愛など……と案の定アビスは拗らせに拗らせていたが、流石にアベルにこの場で恥をかかせる程の馬鹿ではない。それに劇の続きを興じたいのはアビスも一緒。自分はおかしな病を患ったわけではなかった。
「私で良ければ、ご一緒させてください」
劇の主演の二人が現実でも――。七魔牙 のツートップが夢物語のような結ばれ方をした。会場は祝福の声で満たされた。
「ふっふーん! ラブちゃんの狙い通りなの! ミュージカルとかで共演者を好きになるあの現象!」
「ラブ監督、よくやった!」
「アベル様もオシャレな告白しましたよね。最初の言葉足らずな告白が嘘みたい……」
「アビス先輩も受け入れて下さって、私も安心しました」
劇の打ち上げパーチーから、二人をくっつけ隊お疲れ様でした会に変わっていた。あれこれお膳立てしたけど、失敗したのが懐かしいと笑い合う。さすがにアベルに食パンを咥えさせて、角を曲がってきたアビスとぶつからせるのは違ったよなーとか。どうやら上手くいかなさすぎて、二人をくっつけ隊もだいぶ迷走していたらしい。
「告白成功と言う事は、カップル成立だ。二人に幸あれ」
「アンサーくん、当たり前の事言ってるけど、良い事言うの」
「他に案がある方は?」
「ラブに賛成〜」「僕も賛成です」「私も」
「知っているか? 賛成というのはその意見が良いという事だ」
「アベル様はいかがですか?」
「楽しそうだし、いいんじゃないか?」
「配役はねー! 王子様がアベル様! 白雪姫がアビスくん!」
「は!? 姫はラブどのじゃないんですか!? 何で男の私が!」
「皆それが見たいと思うの!」
ラブが「ね!」と言うと、皆、んだんだと頷く。アビスは延々と首を横に振っているが、アベルに一緒にやろうと微笑まれながら誘われ、渋々であるが了承した。
姫と王子以外の配役もラブが決めていった。継母兼魔女がワース。当然納得がいかず喚いている。アビス以上に拒否の態度を示した為、説得には時間を要した。小人はマイロとオロル。ラブ以外の全員がキャスティングミスだろうと思った。185cmの小人って何だよ。鏡がアンサー。そして監督はラブ。私が監督するからには、完璧な作品にしてみせるの〜! と意気揚々。脚本はラブが図書室から借りた白雪姫の本を参考に、アレンジして書き上げた。その脚本を鼻高々と皆にお披露目する。
「キ……キキキキキ……キスシーン!? アベル様と私が!?」
「そっ。だから姫がラブちゃんじゃなかったの。本当の男女でしたら大騒ぎだし〜」
「……男同士だと別の意味で騒がれると思うのですが……」
「大丈夫だろ、アンタら湿度高いし」
「し……湿度?」
「したフリはつまらないから本当にしてね! あと本番で出来なかったら駄目だから、練習からちゃんとするの!」
読み合わせ、衣装合わせ、稽古と着々と進んでいったが、例のキスシーンは、アビスが震えに震え、眠っている棺もガッタガタとまるで大地震が起きたかのよう……。死んでるんじゃなかったのかと総ツッコミを食らう。
全くキスが出来そうにないアビスを見かねて、アベルは夜に練習しようと部屋に誘う。緊張を超えた表情で一一〇七号室を訪ねたアビス。ドアを叩く音すらもビブラートがかかっていたが、アベルは柔らかく迎え入れてくれた。二人は余裕で眠れるサイズのベッドにアビスを招き入れて座らせ、背中をゆっくりと優しく撫でる。それだけでもアビスは女子と対面したかのようにガッチガチになっていたが、撫で続けると慣れてきたらしく、ほっと顔が綻ぶ。
少しずつしていこうね。とアベルはアビスの手を穏やかに繋ぎ、握っていない方の手の人差し指と中指をアビスの唇に当てる。ピクリと跳ねる肩をアベルは抱き寄せた。先程から行われている事は今まで生きてきた中で一切触れてこなかったし、自分とは縁遠いと思っていた愛の戯れ。心拍数を測れば百は猶予に超えているだろう。この行為に理解が追い付かなくて慌てふためく所では無い。同じようにしてご覧とアベルが囁くと、辿々しい手つきで時間を掛けて真似てくる。トンとアベルの唇に指が行き着いた時、自分でしたくせに驚いているのだから、見ているアベルはついくつくつと笑ってしまった。何度も繰り返し、アビスの手が震えなくなってきた頃に、ステップアップ。手の甲、額、頬に優しく口付けを贈る。初心なアビスはとっくにキャパシティーオーバーを迎え顔から湯気が出ている。気絶していないのが奇跡。対してアベルは付き合ってもいないのにこんな事していいのかと悩むが、自分もお年頃。好きな人とこうする事が出来るなんて役得だ。
そして遂にアビスの唇にアベルが同じものを重ねようとすると、
「まっ、待ってください!」
「……嫌かい?」
「いえ、その、アベル様は私なんかとキスして、本当によろしいのですか?」
「アビスなら良いよ。いや、アビスだから……」
君はきっと君じゃなきゃいけない理由を知らないだろう。その切なさを抱きながら生まれて初めてのキスをする。想像していた以上にふわりと柔らかく、そしてこの暖かさにアベルはその幸せの色を知る。……が、アビスは眉間に皺が寄る程、必死に目を瞑り、息まで止めてしまっている。これは不味いとアベルはすぐに唇を離す。鼻で息をしていいよと言うも、なかなかしようとしない。絶対であるはずのアベルの言葉も聞けない程とは……。それでも練習の為、唇を重ねていくうちに、アベルも身が持たなくなりそうで……。僕も初めてのキスだからドキドキする。今日はこの辺にして、また明日ね。と約束を交わした。
そして毎晩のように一一〇七号室でキスの練習をした。アビスもちゃんと息をするようになった頃、アベルはいたずらっぽく舌で唇を舐めてみた。「ひゃっ!」と高い声を上げるアビスは林檎みたいに真っ赤。何が起こったか分からなくて昼夜を思わす瞳をぱちくりとさせている。まるで小動物のような愛らしい表情に唆られ、アベルはそのまま舌を挿し込む。
「んっ……ふぅ……む……」
互いの唇の間から漏れるアビスの声は初めて聞いたものだった。まるで色事の時のような声で高く甘く耳心地が好い。熱い咥内をねっとりと味わう。その果実は禁断を煽る。たまらない……。もっとその先を見たい。火照ったアビスが瞳を潤ませながら、このシーツを乱す姿を夢想する。
「う……うぅ……あ……べる……さま……」
アビスはいっぱいいっぱいになり、アベルの夢想よりも酷くボロボロと涙を零し出した。その涙に触れたアベルは早急に理性を呼び戻し、やりすぎたと謝罪する。好きな子に嫌な思いをさせてしまったと自己嫌悪に陥る。だが、アビスは嗚咽しながらアベルを抱きしめ、「嫌じゃ……ないです」と耳を澄まさなければ聞こえない声で告げ、そそくさと部屋に帰っていった。初めてアビスから抱きしめられた。その事にアベルも呆然とする。微かに聞こえた声に、ファーストキスよりも鼓動は早く……。
一一〇一号室――
「ワース……私はおかしな病気を患ったのかもしれません」
「どうしたんだよ」
「アベル様と……その、キスして……嬉しいと思うなんて……」
それを聞いたワースはつい口角を上げてしまうが、アビスにそれがバレないよう手で口を抑える。アベル様はいつかどこかのご令嬢と結婚なさるでしょうに、男の私とこんな事を……それに私が初めてなんて本当に良かったのでしょうか……とお決まりの拗らせを披露しているが、ワースは大丈夫だと安心させる笑みの元、アビスの頭をワシワシと撫でる。次の日、ワースは二人をくっつけ隊のメンバーにその事を報告し、皆ガッツポーズ。二人が付き合う日もそう遠くないはずだ。
そして迎えたイーストン魔法学校祭当日――
「それではレアン寮、
ホワイトのサテンにブルーローズが散りばめられ、紫と青のバッスルとスリーブの付いたAラインスレンダードレス。透き通った秘色の長髪はふんわりウェーブ。前髪の付け根には、パールパープルの細いリボン。愛らしい姿の白雪姫の登場に、観客は目が釘付けになったが、女子にしては高い背丈、矢印の二本線、ロングヘアー、左眼の眼帯で、
「いやー、流石中の人が元宝塚なだけあるわー」
「ワースくん、発言がメタいの」
そしてアベルの登場。高級感溢れる金の糸の刺繍が施された白いタキシード、そしてレアンの長らしく堂々とした立ち振る舞い、気品。まさしく王子様。
棺の中の白い菫に囲まれる見目麗しい姫に、恍惚とする王子。「王子が口付けをすれば、白雪姫も目覚めるかもしれません……」と
「分かった。では……」
透明な棺であったので、観客からも本当にキスしているのが見えて、姫や王子の登場シーンよりも会場は沸いた。多くの女生徒は憧憬の気持ちを持たざるを得ない。まるで秀麗な絵画のような
王子のキスにより目覚めた白雪姫は、ぼんやりと陽光を受け……
「……わたし、どうしたの?」
「姫! 良かった! 生き返った! 本当に良かったぁ……」
小さい方の小人は号泣。アビスを慕うマイロは感情移入しているようだ。
「私の口付けによって、息を吹き返されるなんて……。これは運命かもしれませんね。急な話で申し訳ありませんが……姫、私と結婚してくれませんか?」
「はっ……はひ!」
アビスは初めて大勢に披露するという緊張故に噛んでしまったが、
終演後、
「あれ? アベル様は? どこに行ったの?」
「私、探してきます!」
ドレス姿のままアビスはアクセレイズを発動させ、アベルを探した。
「イーストン魔法学校祭も終わりが近づいてまいりました。それでは最後の大イベント! 告白大会を開催致します!」
そういえば毎年しているなとアビスは放送を聞き流す。日も暮れ始め、辺りは暗くなってきた、アベルは一体どこへ……。
「えー、レアン寮 三年 アビス・レイザーさん、告白大会会場・中央ステージへお越しください」
え?! 私?! 何?! 何で?!
告白なんて無縁な自分を一体誰が……。イタズラかもしれないと疑いつつ、一応会場である中央ステージに向かった。早くアベルの元に行きたいのに……。
中央ステージでアビスを待っていたのは……
「ア……アベル様?!」
「アビス、来てくれてありがとう」
アビスもドレス姿のままであったが、アベルもタキシード姿のまま。
「劇の続きを、現実でも……」
そう言ってアベルは跪き、アビスの掌にキスをした。
夕焼けに染まるその
アベル様が……私と……? 名門貴族のウォーカー家と貴族ではあるといえど下位のレイザー家。そんなの身分の差がありすぎるし、烏滸がましい。それ以前に悪魔憑きの私と恋愛など……と案の定アビスは拗らせに拗らせていたが、流石にアベルにこの場で恥をかかせる程の馬鹿ではない。それに劇の続きを興じたいのはアビスも一緒。自分はおかしな病を患ったわけではなかった。
「私で良ければ、ご一緒させてください」
劇の主演の二人が現実でも――。
「ふっふーん! ラブちゃんの狙い通りなの! ミュージカルとかで共演者を好きになるあの現象!」
「ラブ監督、よくやった!」
「アベル様もオシャレな告白しましたよね。最初の言葉足らずな告白が嘘みたい……」
「アビス先輩も受け入れて下さって、私も安心しました」
劇の打ち上げパーチーから、二人をくっつけ隊お疲れ様でした会に変わっていた。あれこれお膳立てしたけど、失敗したのが懐かしいと笑い合う。さすがにアベルに食パンを咥えさせて、角を曲がってきたアビスとぶつからせるのは違ったよなーとか。どうやら上手くいかなさすぎて、二人をくっつけ隊もだいぶ迷走していたらしい。
「告白成功と言う事は、カップル成立だ。二人に幸あれ」
「アンサーくん、当たり前の事言ってるけど、良い事言うの」